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空は真っ暗で、しとしとと雨が降っている。
屋根のある場所まで来たのはいいのだけれど、あいにくダンボールは濡れてしまった。
いつものように、ダンボールの淵は触る事ができない。壊れてしまうからだ。
今朝から降り続けている雨は止むことを知らず、いつまでも地面を黒く濡らしている。
「よぉ」
透明のビニール傘を折りたたんで彼は屋根のあるここに入ってくる。
いつものニヤケ顔に少しだけ安心してしまう。
「あら、久しぶりね。
何週間もこないから、もう来ないかと思ったわ」
「さぁな」
「……今日は珍しく不機嫌なのね」
そう言ってから、自分の言葉に怒ったのではないかと気づいた。
確かに私はコミュニケーションが苦手でどんな言葉にせよトゲが入ったような物言いになってしまうらしい。
私自身そんなつもりないのだから分からないのだけれど。
「いや、別に不機嫌ってわけじゃないさ。
ただ雨の日はどうも物思いにふけりたくなってな」
「……悩みがなさそうな顔してるわりには、いろいろ考える事があるのね」
「人生のスケールはでかいからな」
もともと彼は私と同じような生活をしているわけではないから、頻繁にココに来てくれる事なんて無理だ。
だから、私が想像してるよりも大きな悩みなのかもしれない。
あぁ……もう、ダメだわ。
彼の言葉一つのせいで、つい私も物思いにふけってしまったわ。
「なぁ、箱入り。
お前ってつくづく自分に正直だよな」
「なんでそう思うのかしら?」
「だって、さっきまではうんうん考えていた癖に何かに気付いてすぐやめたじゃねえかよ」
…!
どうやら見られていたようだ。
顔からは火が出そうなほど恥ずかしい気分だが、頬を染めていられない。
一応顔をそらして、表情を見られぬようにする。
「自分に正直なのは、良い事だと思うけど?
あなたは自分に嘘つきなのかしら?」
「俺は、嘘つきだからな」
彼の顔を見る。
いつものニヤケ顔を保っている。
「まぁ、あなたが嘘つきでも正直者でも関係ないないのだけれどね」
「そうだな」
彼は透明のビニール傘を広げると屋根のあるココから出た。
今日はいつもよりもいる時間が少ない。
彼は振り返る事無く、大通りに続く道へと消えて行った。