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どちらかというと曇り空の方が好きだ。
太陽が出てる時よりも、空気が澄んでいる気がするし、何より匂いがよくわかる。
だから、今日のような気候が一番のベスト。
「珍しいわね、ボーッとしてるなんて」
隣から冷たいしんの通った声がする。
その声に少し驚いたが、悟られないようゆっくりと横を向く。
「曇りが好きだからな。
箱入りは、晴れが好きそうな感じだが?」
「……!
え、えぇ。晴れは好きよ。
ただ、夏は曇りの方が好きよ」
内心俺と同んなじ天気が好きで喜んでいる自分がいる。
もしそれを箱入りの目の前で出したらこいつはどんな反応をするんだろうか。
空を見上げて雲を眺めようとすると、大通りに続く細い道からつぅんと血のような生臭い臭いがした。
箱入りは、慌てて箱を持って近くの塀の裏に隠れる。
細い道から出てきたのは俺と同じ種族の男で、右耳に大きな傷がついた男だった。
おそらく普段から虐殺をしているか、もしくはソレを持っているか。
体からは物凄い血の臭いがする。
「こんな路地裏に何のようだ?」
「いやねぇ、こういうところにこそ糞虫が隠れていそうでねぇ」
妙に間延びしたような口調によく似合う下品な声。
「おあいにく、そんなのはいないな」
俺が平然を装っていうが、男は鼻をヒクヒクと動かし匂いをかぎ始める。
そして、眉をピクリと動かすとニヤリと笑った。
目線の先は塀だ。
「いや……いるねぇ。
きづかなかったのかい?」
「はぁ……。
ばれちまったか。
わりぃな、それ俺の獲物なんだよ。
だから見逃してくれよ。な?」
「うーん……」
顎に手をやって考えるような仕草をする。
俺は男に近づき、ズボンのポッケの中に札を二、三枚押し込む。
「ま、いいだろう。
じゃあ、僕は他のところに行くから」
踵をかえして大通りに続く道に戻って行く。
単純な奴でよかった、とため息をついた。
「箱入り」
「あら、いなくなったの」
キョロキョロと辺りを見回して他に人がいないか確認してから、テクテクと歩いていつもの位置に箱を置く。
「やれやれ。
そもそも私は隠れる必要がなかった気もするわ」
いつもの定位置に戻ると、ため息混じりに言う。
「自分で言ってしまうのもアレなのだけれど、彼女らよりも言葉は大丈夫なのよね」
「箱入りだったら大丈夫だろうけど、中にはそういう、良、を好んでやる奴もいるからな」
「もう、なんでもいいわ」
空を見上げると、曇りで薄暗かったが既に夕方になっているのか、先ほどよりも薄暗さが増している。
俺はいつものように、挨拶を告げず箱入りを背にすると大通りに続く道に歩き始める。
「………その…ありがとうね」
思わず歩みを止めてしまったが、俺は後ろを振り向くといつものにやけ顔で嫌味を言う。
「明日は雨が降るなこれは」