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荒くなった息を整えるために大きく深呼吸をする。

さきほどからずっと口の中に鉄の味が広がっていて気持ち悪い。おそらく、舌を噛んだのだろう。

目の前にいる男はミノムシかのように地面を這うように蠢いている。

俺は左手に持っている鉄の塊をミノムシに向ける。

ミノムシからはまるで人の如く助けを求めるかのような声があがっているが、残念ながら虫の言葉は人である俺には理解しがたい。

引き金をひくと小さな悲鳴と、大きな破裂音のようなものがこの小さな鉄の部屋の中に響いた。

ミノムシが動かなくなったのを確認すると、俺は後ろを振り向いた。

そこには、左目が無様に潰され左耳があった場所は赤黒く染まり、体には殴られたような跡が幾つもついている箱入りが横たわっていた。

勝手俺が好きだった綺麗な毛並みや冷たい目は無くなっており、ただのアフォしぃが虐殺された後のような状態になっている。

俺は箱入りに近づくと、目の前でしゃがむ。


「……」


俺の気配に気づいたのか、力も入らないはずの細く切り傷がついている腕で体を起こそうと震えながら地面に手をついた。

しかし、起き上がれるはずもなくただ息を荒らげてるだけだった。


「大丈夫か?」


脇に片手を通し上半身を起こさせる。

箱入りの頬からは血と汗が混じった物が一筋流れ落ちた。


「……ええ。

なんだか、かっこ悪い所を見せちゃったわね」


冷たいような、どこか嬉しそうな、そんな瞳を俺に向けてくるものだから、つい目を逸らしてしまった。


「運動神経いいのね」


「いや、ここ最近動いてなかったからなんともな」


「その割には、手馴れてる人に勝てるのね」


皮肉めいた口調で箱入りは俺に問い詰めるように言う。

俺はその言葉には反応を示さず箱入りの怪我だらけの体を見た。

出血もだいぶ止まっているため、今から急いで病院にいけばなんとか間に合うかもしれない。

箱入りは座った状態のまま、俺の頬に手を伸ばした。

手からは血の匂いがするが、それと同じくらいしぃ族特有の甘い雌の匂いがする。


「ねぇ、お願いがあるの最初で最後のお願い」


「俺がお前の頼みを聞くとでも?」


箱入りの優しそうな声と、初めて俺の体に箱入りが触れた瞬間、俺の背中から冷たい汗が一筋流れた。

虫の知らせとでも言うのだろうか、頭の奥底で箱入りがこの先紡ぐであろう言葉を聞きたく無いと耳を塞いでいる自分がいる。


「殺して」


箱入りの口から発せられた言葉は予想どうりで、最悪のお願いだった。

俺の頬から手を外すと箱入りは自分の心臓に手を当てた。


「なんとなく、分かるのよ。これはもうダメだって。

それに、しぃ族を受け入れてくれる病院だって少ない。

それなら……あなたに殺された方が幾分マシだと思うの」


俺は左手に握っている無機質な鉄の塊に目を向けた。


「墓参りには行かねぇからな」


「あら、花の一本ぐらいは持ってきてくれるんじゃ無かったの?」


無表情のままそう言うが、瞳は涙で潤んでおり頬は赤く染まっている。

考えたように、目を開けてこちらを見ていたがしばらく経つとその綺麗なエメラルドグリーンの目を閉じた。


「私ね、本当はあなたのこと……。

ううん、何でもない。

花、一本だけでもよろしくね?」


「……さぁな」


破裂したような音と血が地面に落ちる音が部屋の中を響かせた。







雲一つの無い晴天。

今日はどこの地域よりも一番暑くて、一番天気がいい。

これじゃ花もすぐに枯れちまうな、なんて考えながら小さな墓の前に綺麗な淡いピンク色の花を一本だけ置く。

季節もすでに夏になっており、炎天下の中墓を掃除していると汗がひっきりなしに頬から流れ落ちる。


「久しぶりだな、箱入り。

俺は約束は意外と忘れないんだ。だからほら、ちゃんと持ってきたぞ」


墓に水をかけながら、独り言のように呟く。

そういえば、お互い名前も生まれも知らなかったんだな。

知っていたのは、お互いがお互いの事を……。

そこまで考えて、思考を停止した。

この暑さの中じゃ考えるのも苦労だ。

蝉が四方八方から大きな声を上げて、鳴いていた。

夏もそろそろ終わりに近づいてきた。

投稿ペースが不定期で本当にすいませんでした。

グタグタな風になってしまいましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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