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あなたは今日も来るだろうか。
春の暖かい日差しが段ボール箱に入っている私の体を照らす。
私と同じ種族でも、それはたくさんの種類がいる。
野良ネコのように段ボールの中に入っていなくともいいのだけれど、彼がココに来てくれることを心のどこかで望んでいるからか、離れることが出来ない。
「よお」
見慣れた黄色の毛色の彼がニヤニヤと胡散臭い笑顔で近づいてくる。
私は彼の名前を知らないし、彼も私の名前を知らない。
「あら、今日も今日とて飽きずに来るのね」
お互い、深入りはしてはいけないのだ。
「ただ、暇だから来てるだけさ。
お前も今日も飽きずに毒を吐けるもんな」
彼がどこから来てるだとか、彼がどこに住んでるのか名前はなんなのか、とか私は何にも知らない。
ただ、定期的に彼が来て私と会話をするだけ。
そんなくだらない日々。
「お前も何にもせずココに居て、暇な奴だよな」
「なら、あなたも何の用か知らないけどわざわざこんな路地裏に来る必要はないんじゃない?」
彼は頭上の二つの耳を上下に軽く動かした。
「気が向いたんだよ。
勝手に死なれたら困るしな」
本当……。
彼は本当に思わせぶりな事を言うのが得意なのだから。
騙されてしまう。
私は返事をすることなく、彼がやってきた細い裏道を眺める。
この裏道を抜ければ大通りに出ることができる。
おそらく彼は賑やかな街の中で生活をしているのだろう。
……それもそうか。
彼の種族はそういうものなんだから。