夏の太陽
校門のところには教師5人が一列に立っており、俺の学年の主任である永井佐世子先生、通称さよちゃんが帰宅する生徒一人一人に声をかけていた。今日は家を出ないでね、とか、明日はちゃんと授業が出来るように頑張るからね、とか。いつもは気の強いさよちゃんが今日はひどく弱々しい。
さよちゃん以外の4人の先生は講師の先生で、こんな時になんと言っていいのか分からないとでも表すかのように、4人揃ってさよならと言っているだけだった。
そんな5人の教師陣の額にもうっすらと汗が浮かぶ。俺は駐輪場から自分の赤いマウンテンバイクを出し、校門まで押していく。
「高松くん」
他の生徒と同じように、さよちゃんからそう呼び止められる。
「今日は遊びに行かずに帰ってね。あと、赤い自転車は校則違反よ、早く新しいのに買い換えるかしてね」
はいはい、と俺はいつものごとく軽く受け流す。
「ねぇ、高松くん。見つかるかな、宮間さん」
帰ろうとする俺に向かって、さよちゃんはポツリと言った。
宮間薫が所属するテニス部の顧問であるさよちゃんにとって、この出来事は何か思うところがあるのかもしれない。または、落ち込んでいるとか。
「大丈夫じゃね?宮間賢いし」
こういう時は決まって、素っ気ない返事をするべきだ、と俺は思っている。
さよちゃんの何かしらの不安は俺なんかでは取り除けないし。
そうこうしていても額や脇に浮かぶ汗は次から次へと衣類に染み渡っていき、俺の背中には水溜りが出来ているだろう湿り気がべっとりと感じられる。
「じゃあ、さよちゃんバイバイ」
さよちゃんの返事を待たずにそそくさと俺は帰る。
あの賢い宮間薫が。
誘拐だなんてあり得ないのだ。
失踪の方が遥かに現実味がある。
そうは思いながら、頭の中では一週間前に見た宮間薫の姿が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返している。
心配なのに変わりはないのだ。
そう、賢いと言ってもたかが女子高生。あんなに可愛ければ、誰かが手を出そうとするのは分かりきってる。
今更になって、伊野の気持ちに同調し始めた。ただ、俺にはどうにもできない。
そう自分の中の思いを押し込めて、耳にイヤホンをいれる。
iPhoneからはmarion5のanimalが流れている。