SNS
俺が物思いにふけっていると。
ピンポンパンポーンーーーー
この困惑しきっている状況の中で嫌に間の抜けた音を鳴らして、放送の合図が入る。
一瞬にしてクラス全員が話すのをやめ、その放送が何を言おうとするのかにじっと耳をそばだてたのが気配で伝わる。
俺もそれに漏れることはなく。
宮間薫が見つかったとか、帰ってきただとかそういう朗報が流れることを祈る。
「全校生徒の皆さんー」
流れたのは放送室の2年・秋間日和の声だった。
その声は緊張しきっていて、その緊張が俺にも嫌という程伝わる。
直感的に秋間がこれから話すことは悪いことのような気がしてならない。
「今日はこの放送をもち、一斉帰宅とします。部活動生及びその他の生徒においても無期限の放課後の活動を禁止とします。
重要なことですので、もう一度繰り返しますーー」
俺の考える、悪いことではなかった。
しかし、宮間薫はまだ見つかってないのだ。
繰り返します、という言葉を聞き終わると同時にクラス中がざわざわと騒ぎ始める。
いや、隣のクラスもざわついているのがわかる。
これは誰が見たって異常事態なのだ。
生徒を一切に帰宅させる。
これは宮間薫が失踪ではなく、誘拐であるという確率が高いということを裏付けるに事足りる。
宮間薫の友人達はいまにも発狂しそうな勢いで宮間薫に連絡を取ろうとヤケになっていて。
俺も宮間薫に辿り着く一心でLINEを開くと。
LINEのタイムラインは宮間薫についての情報提供を促す類のもので埋まり。
そこにはURLが付随されたものも多く。
そのURLからサイトに飛ぶと、そこには宮間薫が行方不明であることを大きく書いた宮間薫のプリや自撮り、友達数人と撮った写真などが貼り付けられ、身長や年齢など様々なプロフィールがありったけ載せられていた。
載せられている写真から推測するに、これはクラスの女子達が急いで立ち上げたものだろう。
このURLはTwitterやFacebookなど様々なSNSにおいてリアルタイムで拡散されていく。
拡散しているのはクラス内の者だけではない。
学校中の生徒、小学校や中学校の同級生。
さらには宮間薫の知り合いとはおよそ思えないような知らない人達。
この学校中を現在進行形で騒がせている宮間薫の話題は、こんなにも容易く学校という枠を抜け出したのだ。
彼女はこれを見てどう思うのだろう。
友達が必死になって探そうとしてることに感謝するのだろうか。
それとも晒し者みたいな扱いに腹をたてるのだろうか。
場違いな程雲のない晴れ渡る空に白い直線を描く飛行機雲を見て、自分の前髪を揺らす冷房を感じながら。
俺はスマホの画面を女子達が作ったサイトに固定したまま。
鞄を肩にかけ、静かに席を立った。
冷房のついている教室はいつもひんやりと涼しいが、一度廊下に出ると夏の暑さを腕や額にうっすらとかく汗の存在に気づかされる。
この行方不明事件に多くの人が釘付けなのか、教室を出て帰ろうとする者はまばらだった。
シーブリーズを鞄から取り出し、それを首に塗りつけながら友達と帰る生徒。
廊下の個人ロッカーから教材を取り出し、それを鞄に詰めながら帰る生徒。
様々だが一様に言えることは、さしてこの宮間薫の行方不明について興味を持っていないということだった。
こんなにもSNS上で騒がれているが、彼女と会ったことも喋ったこともない人にとって重要事項とはならないのだろう。
そんな生徒を横目に見ながら、俺は薄っぺらい自分の鞄に明日の予習をする分の教材をロッカーから取り出し、そそくさと帰る。
俺も人のことは言えない。
何故なら、宮間薫の賢さを知ってるからだ。
彼女は1人でいることが少ないし、誘拐に合うとも思えない。
よって俺の中でこれは誘拐ではなく、失踪として位置付けられたのだ。
否、俺自身がそう位置付けたいだけかもしれないが。