彼女
結局、生活指導の林先生の話で始業式は終わりとなり、俺たちは一旦クラスへと返された。
帰されたものの、担当の赤嶺先生は緊急の職員会議で不在。
そういう時の高校生というのは、普通は騒ぐのだろうが今日は違う。
クラスメイトの失踪したかもしれない宮間薫の話で持ちきりだった。
本当はいけないが、スマホを取り出し宮間薫に連絡を取ろうとするグループもいた。
伊野春香を中心とするグループで、宮間薫もここに属していて、女子よりも男子とよくつるんでるところだった。
その伊野と取り巻きみたいな女子達の4人は必死になって何回もメッセージを送っているみたいだった。
宮間薫がそんなのに気が付いたとしても返信をするとは考えにくかったが、もしかしたら彼女達には何かしらの連絡をするかもしれないと淡い期待を抱いたりもした。
宮間薫。
彼女とは幼稚園からの腐れ縁で、高校で同じクラスになったと分かった時にはお互いにケラケラと笑った記憶がある。
幼稚園の時から、その日本人には色素の薄い黒髪を肩まで伸ばし、前髪は眉毛の辺りでバッサリと切ったヘアースタイル。
黒目がちな大きな瞳に、真っ赤なふっくらした唇。
肌白でスラリと長い腕と脚。
彼女の魅力はまず、外見から始まり。
内面も申し分ないくらいに出来た人で、俺の知る限り彼女を悪く言う人はいないし、男女ともに人気があるようだった。
だからなのか、宮間薫はいつも堂々としていて女子生徒の中では頭3分の1くらい高い身長で、ある時は威圧的に、ある時はその差を感じさせないくらいに親密に。
自分の周りの空気を上手いぐらいに扱っていた。
決して、誘拐に合うほど馬鹿ではなかった。
だからこそ。
行方不明、というのはきっと失踪、なのだろうという根拠も何もない確かな確信が俺の心の奥に広がっていた。
彼女に最後に会ったのは一週間前。
母親からスーパーに買い物に行くように言われて、買って帰っていた時。
彼女は市立図書館から帰る途中だったようで、不思議の国のアリスが描かれたモノクロの鞄を重たそうに抱えていた。
どうせ頼まれた牛乳しか持ってないからと彼女の左肩に掛かっていたブルーのトートバッグを貰って、途中まで一緒に帰ったのだ。
彼女の額にはうっすらと汗をかいていて、それが前髪を濡らしていて、その光景に何ともいえない暑さと気怠さを感じたのを憶えている。
その汗を彼女は持っていたらしいハンカチでぽんぽんと叩くようにして拭うと、俺の方を向いて、持ってくれて助かるとそのふっくらとした唇の口角をキュッとあげて笑ったのだ。
どうってことないよ、なんてカッコつけてその時は言ったけどトートバッグの中には図書館で借りたらしいレポートの参考図書になりそうな本が10冊くらい詰まっていて、正直重たかった。
宮間薫。
彼女のその姿が思い浮かぶ。
あの賢い彼女だ。
きっと、俺なんかじゃ分からない理由を抱えているのだろう。