表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/28

遠のいてしまった天使

寝込んだあの日、あの時はまだ嫌われたという決定的根拠はない。あくまでも嫌われたことは私の憶測にすぎない。しかし、弟に完全に嫌われていることがわかる事件がおこった。


私が18歳、弟が13歳の時である。その日私は早めに学校が終わり、そそくさと屋敷に帰宅した。前世で見られなかったドラマが再放送しているからできる。


「あぁ~!やっぱりこの俳優さん、いい男ねぇ~。はぁ、近くに居ないかしら。」


華の女子高生でも中身はオバちゃん。この時間が至福の時である。私がドラマを満喫している中、屋敷に一本の電話が鳴った。

いい所なのに…。

心の中でボヤきながら電話に出た。


「はい。」

「稲月さんの家ですか?」

「…はい。」

なんだ。セールスか。セールスなら内容も聞かず切ろうとしたら、電話の相手がとんでもないこと言った。


「て、天使が、痴漢されただと………!?」


ショックのあまり電話を落としてしまった。電話の相手が何かを言っているが、そんなのはどうでもいい。今すぐ天使の元へ向かわなければ。近くにいた舎弟を引き連れ、天使の元へ向かおうとした。

あ、場所聞いてない……。

肝心なことを聞かず、飛び出してしまった自分に憤りを感じた。そんな私を見た舎弟、ヤスは顔を真っ青にしてGPS機能を使い場所を特定した。〇〇駅らしく、ここから少し遠い。その距離すら私を焦らせる。


「お、お嬢。落ち着いてください。もうすぐですから。」

「……えぇ。」


あぁ、陽。どうか、無事でいて。

黒塗りの車は弟の元へ走るのであった。


「陽っ!!」


私は弟がいる部屋の戸を思いっきり開けた。そこには、白い顔をさらに白くした弟が居た。堪らなくなり、その小さい体を抱き締めた。その体は記憶よりも冷たく、震えている。私の心をざわつかせた。


「あぁ!大丈夫?怪我してない?お姉ちゃんが来たからもう大丈夫よ。」


弟は少し肩の力を抜いた。私が来る前、一人で気を張っていたかと思うと苦しくなり、相手への怒りがフツフツと湧いてきた。


「許さない。陽、少し待っててね。お姉ちゃんが社会のゴミくず野郎のブツをちょんぎってくるからね!ヤス、陽を見ててあげて。」

「お、お嬢!!どうかお静まりくださいぃぃぃぃ」


ヤスは私を背後から羽交い締めにする。


「はなせぇー!ヤス!お前のものからちょんぎるわよ?!」


背後でヤスの悲鳴が聞こえる。ガッチリと押さえつけるヤスに護身術をかましてやろうかと思っていたら「姉さん。」と、天使のよく通る冷たい声がした。


「陽……。」

「僕は大丈夫だよ。何もされてない。少し触られただけだから。だから、そんなに騒がないで。」

「さわっ……!?」

「ヤスも何時までそうしてるつもり?」


弟は穏やかに背後にいるヤスに言葉をかける。弟の穏やかな声は久々に聞いた気がした。ヤスは謝りながら私の拘束を素早く解いた。中学生相手に何故怯えているのだろうか、ヤスの行動はよくわからない。まじまじとヤスを見てしまう。

あ、スーツに仕付け糸ついてる。


「姉さん。」


弟の冷たい目が私を見る。いつからそんな目で私を見るようになったのだろうか。

弟はいつしか私を『姉さん』と呼ぶようになった。ずっと『姉様』では恥ずかしかったのだろう。しかし、今の呼び方は何だか距離が出来てしまったようで妙に寂しい。


「帰ろうよ。」


弟は私の返事を聞かずに私の横を通り過ぎる。先に車に向かう弟は、遠くに行ってしまうのではないかと思った。いや、天使はもう私の元から遠のいてしまっていたのだ。


あぁ、天使に嫌われている。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ