後日談③
宴が始まって早3時間。
ほどよく酔いがまわってゆき、ハメを外す者が多くなった。
「裸踊りをしますっ!!」
「んじゃ、俺は秘伝の腹踊りを披露しようかねぇ!」
「同じようなもんだろっ!」
「ヴッ……。吐きそう……。」
「やめろ!ここで吐くなぁぁぁあ!」
「…姉さん、こっち来て。姉さんの目が穢れる。」
「あはは……。」
陽に手招きされ、陽の隣へ腰をおろす。素面の陽が横に居るだけで、何だかホッとした。
……が。
「……は、陽?くっつきすぎよ。」
陽は私の体にぴったりとくっつき、腰へまわした手は怪しげに動いている。
「いいじゃない。僕達、婚約者同士なんだから。」
私の耳に熱を含んだ声音で、そう囁く。
その声に危機感を感じた。
「……もしかして、酔ってるの?」
改めて陽の顔を伺えば、赤色が目の縁に帯びている。
一瞬、キョトンとした顔つきになったが、すぐにふにゃりと笑をこぼした。
「強いて言えば、姉さんに酔ってる……かな?」
(可愛い顔して何言っているの……っ!?)
ってか、誰だ。こんなオヤジみたいなセリフを教えた奴は…!
可愛さに悶えたり、恥ずかしさに混乱したりしていると、陽は私の首元に顔をすり寄せてきた。
「姉さんから甘い香りがする…。」
「え、陽、一旦離れなさい。くすぐったいわ…っ。」
「姉さん……。」
「え、ちょっ……!?重っ……。」
あろうことか、陽は私に体重をかけてくる。踏ん張ってみるものの、力適わず、後ろに倒れる。
目を開ければ、妖美に微笑む陽が私を見下ろしていた。
「……っ!?」
焦り、助けを求めるため、周りを見渡すが、皆酒が入っていて、こちらを見向きもしない。
おろおろしていると、寝ていたはずの忍の声が聞こえた。
「陽、待て!勝負だ!」
駄目だ、この子も酔っ払いだ。完全に目が据わっている。
「…人の楽しみを邪魔するとは、無粋な人ですね。いいでしょう。その勝負受けて立ちます。」
あらやだ、この子も目が据わってる。
「言ったな。俺が勝ったら、(椿)結婚しろ!」
「え!?何を言っているの、忍!(忍と陽が)結婚だなんて!」
「僕が負けるわけないですから、良いですよ。」
「陽っ!?2人ともやめなさい!」
「姉さんは黙ってて。」
「椿は黙っていろ。」
2人同時にぴりゃりと言われてしまった。
(こんの酔っ払い達っ!!)
酔っ払っている2人が勝負なんてしたら大変なことになってしまう。
「その勝負待って!!」
陽の下から必死に声をはる。
すると、2人はキョトンとした顔で私を見下ろした。
私は急いで陽の下から這い逃れ、忍と向き合った。
「陽の代わりに私が勝負するわっ!」
「へ?」
「なっ…!」
「いいわよね?忍。」
「お前がそれでいいなら…。」
「姉さん、何言っているの?」
陽の冷たい目が私を捉える。
そんな陽に優しく微笑む。
「大丈夫よ。お姉ちゃんに任せなさい。忍に貴方を渡さないわっ。」
「……は?」
陽は形の良い眉を顰める。
私が負けると思っているのだろうか。
「椿、勝負の内容は酒の飲み比べだ。」
「それでいいわ。」
「…約束忘れるなよ。」
「わかってるわよ。陽のため絶対に負けないわっ!」
「……姉さん、何か勘違いしている……。」
大切な陽を守るため、仁義無き戦いは始まったのだった……。




