天使の変わりよう
少し長いので分けました!
そして、一部訂正しました!
目に強い光を感じた。天国だろうか。私はそっと目を開ける。
ぼんやりと霞む視界には、キラキラとしたハニーブラン色の何かが見えた。
「……………天使?」
「……僕のこと天使に見えるの?」
「えぇ。」
はっきりと姿は見えないが、神々しいオーラは感じられた。そして、聞こえた声は歌を奏でるかのように綺麗だ。
これはもう、100%天使だろう。
ありがとう、神様!!こんな素敵な天使を寄越してくれてっ!!
私は喜びを噛み締めて再び眠ろうとした。
瞬間、左頬に鈍い痛みが走る。
「い、いひゃい……。」
頬が横に伸びているため、上手く喋れない。
「寝惚けているの?早く起きて。」
天使は頬を抓ってきた。何て乱暴な天使だ。
安らぎではなく、痛みを与える天使なんて聞いたことがない。
「はーやーくーおーきーてー。」
さらに力を込める鬼畜天使。その声はどことなく楽しそうだ。
「お、おひるから…!はなひてぇ…!!」
痛みを与え続けていた手はあっさりと離れていった。
左頬がヒリヒリして痛い。
…ち、ちぎれると思ったわ。
むくりと起き上がり、痛みのおかげで覚醒した目でもう一度天使をみる。
ハニーブラン色の髪は朝日に照らされ、輝いている。あぁ幻想的だ。そして、恐ろしいほど整った顔は穏やかな笑みを浮かべている。
そこ笑みはここ数年、私には向けられないものだった。
「……陽?」
「正解。おはよう、姉さん。気分はどう?」
「……。頬が痛くて最悪だわ。」
「そう、良かった。」
え、噛み合ってないわよね?
ニコリと笑う弟。その姿に体が固まる。
「どうしたの?」
私の体が強ばったことに気付いた弟はコテンと首を傾げる。
くそ、可愛いわね……!!
そのあざとい姿に悶えるが、そんな場合ではない。
「……何でも、ないわ……。」
「そう?」
可笑しそうにクスクスと笑う弟。その弟の態度に混乱する。私の知っている弟ではないからだ。私の知っている弟は私に対し基本無表情で、いつも冷たい目で私を見るのだ。こんな慈愛に満ちた眼差しではない。
一体どうなっているの……?
そして気づく。ここは弟の部屋だ。私は弟の布団の上で寝ていたのだ。
「何で私、ここに居るの?」
夢を見ているのだろうか。
「僕が運んだからだよ。」
運んだ?何故?
頭の中は疑問だらけだ。
「姉さんは本当に運がいいね。車に轢かれたのに打撲と擦り傷ですんだんだから。当たり所が悪かったら死んでいたよ。」
自分の体をざっと見る。所々痣はあるが生きているようだ。
生きててよかった……。
まだ、弟の傍に居られるのだと。その事実にホッとする。
そして、今着ているものが見慣れないものであることに気付く。
「赤い着物……?」
それは金色こ蝶が舞う上質な着物であった。こんないい着物、私が持っている筈がない。そもそも、私は赤い着物を持っていないのだ。
「やっぱり、姉さんには赤が似合う。」
そう呟く弟は恍惚とした眼差しを向けてくる。何故、そんな目で見るのだろうか。
弟の変わりように戸惑う。
「あ、ありがとう…。でも、私には派手な赤なんて似合わないわ。」
「そんなこと言わないで。」
切ない声で囁いた弟は、私の顎をつかみ、いきなり唇を塞いだ。




