四
「はぁぁぁぁぁ」
平野は職員室の自分の机に向かって体を折り曲げた。
「どうしたんですか?平野先生。」
あまりにも深いため息に隣の日田が心配し、平野に声をかける。
「私のクラスの副担任、特Cの堀先生だったんです…」
はぁぁぁ、と再び平野がため息をつく。
すると日田が表情を曇らせ、小さい声で独り言のように、「堀先生かぁ…」と呟いた。
するとそれを聞いた平野が突然伏せていた体を起こし、日田に気になっていたことを質問した。
「そういえば堀先生って政府の人間と何か関係があるんですか?」
「へ?」
「いや…うちのクラスの子が言ってたので…政府の何ちゃらって…」
「あぁ、それは…」
すると日田が何か答える前に、別の人物が大声を上げて二人の会話を妨害してきた。
「そーゆーことは聞きませんっっっ!!」
丹羽である。
またかよ、と平野の顔が歪む。
「日田先生も!変なこと言わなくて良いんです!それより平野先生、ちょっとこちらへ。」
丹羽がそう続け平野を手招きした。そして別室の方へと入って行った。 平野が何かと思って丹羽に続く。二人が入った後、職員室内部の別室、職員会議室の扉は静かに閉められた。
「あれは、もう十年も前のことです。」
丹羽は突然話出した。
「堀先生は当時35歳、教師歴十三年となかなかのキャリアを積んだ教師でした。生徒からの人気は絶大で、分かりやすい授業、公平な目で生徒を判断し、教育に対する情熱を持った素晴らしい"人間"でした。しかしその年度の二学期からあることがきっかけで、あの人は突然人が変わってしまいました。」
「堀先生が?ですか?」平野が問う。
「そうです。堀先生は突然生徒達の意見を聞き入れなくなり、自分に歯向かう者は生徒であれ教師であれ何でも排除しました。 そんな時です。当時高校二年生のある男子生徒が堀先生のクラスでいじめにあいました。その男子生徒は担任である堀先生に、自分がいじめにあっていることを自ら告白し、助けを求めました。当時生徒の事などどうでもいいといった様子になってしまっていた堀先生は当然、その生徒の事も話を聞くだけで無視しました。しかしです。その一週間後の月曜日に突然その男子生徒をいじめていた生徒達五人が自主退学をしました。なぜ辞めたのかは未だ分からないのですが、まぁめでたくその男子生徒へのいじめはなくなりました。」
「良かったじゃないですか。」緊張した状態で聞いていた平野が少し表情を和らげる。
「えぇ、良かったんですよ。しかしね、その退学した生徒達の親が突然学校に対して堀先生を辞めさせろと言ってきました。当初学校は何故そんなことになるのか理解が出来なかったので、とりあえず緊急保護者会を開きました。すると退学した生徒達の親が言うには、自分の息子は堀先生のせいで辞めさせられた。と言っているのです。その時に、いじめられていた生徒もいじめていた生徒も当然その会に出席し、堀先生の事に関して議論を続けました。そうやって保護者会を何度も開きました。しかしある日突然その保護者達が何も言わなくなってきました。こちら側は諦めたのかなとも思ったのですが後から聞くと、その保護者達の夫が全員リストラされ会社をクビになったそうなのです。そして更に衝撃的なことは続きました。いじめられていた男子生徒が自宅で遺体となって発見されたのです。死因は分からないのですが結局そのことも、当時の学校関係者以外には殆ど知らされておらず、何らかの形で口止めさせられていたと考えられますね。保護者の夫のリストラ、生徒の謎の死、そんなことが立て続いたある日、堀先生も突然学校を辞め姿を消したのです。全てが謎に包まれたまま、全てが終わったように思えました。しかし二年前、また再び堀先生が現れました。この学校の教師として……私はこう考えているんです。堀先生と生徒の死などは関係しているのではないかと…」
「えぇっ!?」あまりの驚きに平野の声が裏返る。
「あっ!なんでもありませんよ。忘れてください。私の憶測ですから…あと政府のことについては私からは言うことはありません。私は何も知らないので…そんな噂もある、っていうただの噂ですよ」
喋り切った丹羽は大きく息を吐いた。




