三
「おはようございます!」
平野は3年3組の教室の前で声を張り上げた。
騒がしかった教室内が少し静かになる。
平野は教室の中へと一歩を踏み出した。と同時に今日から私のティーチャーライフが始まるのだな、と感情が高まる。
平野はぐるりと教室内に視線を巡らすと、今度は目の前にある教卓に向かって歩いた。すると生徒達の視線が自分に注がれるのを嫌なほどこの新人教師は感じた。だが平野はそんなことでは怖気づかない。教卓と黒板の間に立ち平野は生徒達の方を見た。
ーーーこれが3の3の子達ね。
次にチョークを掴み、突然バカでかい声を張り上げた。
「おはようございますっ!皆さん!今日から私がこのクラスの担任になる、、、」
そして一度言葉を切り、手に持っていたチョークを黒板に向け、「平野、綾です!よろしくね!」と名前を書きながら言う。
「さぁ、みんな!」
身体を黒板から生徒の方へと方向転換させ、続ける。
「何か質問はありますかっ?」
「っはーい先生!!」
すぐさま教室の後ろに座っていた男子が手を挙げる。 どうぞ〜と平野が言うと大きな声で質問してきた。
「彼氏いますか?」
好奇の視線が平野へと注がれる。 やはり来たかっ!と平野がこの質問に対して身構える。
「えぇ、秘密…」
むふふと怪しげな笑みを浮かべて平野が答える。
「いるやろーー!先生可愛いし」
「え、可愛い?そんなことないない!いや、グフフ」
お世辞でもいい、男子生徒から言われる可愛いは格別だった。クラスの中が笑で包まれる。そしてヒューヒューと囃し立てる生徒も現れた。
もぉーやめてよーうふふ、えー…
平野は全身をくねらせながら生徒と騒いだ。
バァァァァン!!!
突然凄い音がして教室のドアが開く。突然のことだったため教室内の全員が驚いてドアの方を見る。平野もそれに続く。
女が立っていた。
漆黒の長い髪を後ろで一つに束ね、細い目が怪しい眼光を放っている。すると口元が少し釣り上がり、微笑を浮かべこちらを見る。何より、とても高さのあるハイヒールを履いているのが特徴的だった。40ちょうどくらいの年齢だろうか…平野が目を細めて女を見る。
「堀花織です。宜しく。」
相手を試すような口調で女が言う。
「え、堀花織って…特Cの!?」平野が驚く。「そう、私が今日からこのクラスの副担任になる。朝あのハゲが貴方に言ったはずだけど。」
当然。のような顔で堀が言う。
「そういえば…(確かに特進の先生方が3人ほど普通クラスの副担になるって言ってた…)」
ーーーーーてか何でうちのクラスなの〜
平野の気が遠くなる。
「おい、何でお前がいるんだよ!」
先ほど平野に"彼氏いますか!"と聞いた男子生徒が、なぜか口調を荒げる。
「なぜかって?あの人に命ぜられたからねぇ…」
冷静に堀が言う。
「ふっふっふっ、まぁあんたには分からない次元の人だげどね…」
堀が不敵な笑みを浮かべる。
「また政府のなんとかって奴かよ!」
「そうかもしれないねぇ…」
男子生徒の言葉に笑みを消す。すると何故かやめろ、とか消えろ、などと言う言葉が教室中から飛び交う。
教室内の様子と男子生徒のやり取りを聞いていた平野はとてつもなく焦っていた。
(なんで皆こんなに機嫌悪いの?政府ってなに?やばい人なの?)
すると突然堀が平野を教卓の前から押しのけて生徒達の方を見渡した。
「いいのかい?そんな口の聞き方してさ?将来に関わるんだよ?教師にたてついたら…」
言葉を消し、上から目線で後ろに座っていたさっきの男子生徒を指差す。
「国公立大学の推薦は無しだね…」
すると騒がしかった教室が静まり返る。その男子生徒も何も言い返せなくなり、皆とともに静かになる。
ちょっと!堀先生!
平野が堀に詰め寄る。そして名簿を見て先程の男子生徒の名前を確認する。
「そんな言い方はないんじゃないんですか?冗談半分なのかもしれないし!橘君だってちょっと反抗しただけじゃないですか!そんな些細なことに…推薦は無しなんて…三年生は人一倍進路の事を気にしているのに、それなのに…貴方は!!」
「何を感情的になってるの、青二才。」
平野の熱弁を一蹴する。
あまりにも反応しなかった堀を見て平野が言葉を失う。
「先生、もういいよ。こいつに何言っても無駄だよ。」
橘がひどく静かに口を開く。
「でも…」と平野が何かを言おうとすると、
「いいって言ってんだろ!」と声を張り上げて注意された。さらに平野が衝撃を受ける。
その様子を堀は笑みを浮かべて満足気に眺めていた。




