第九発明 白銀の機神 ダンベルガーZ登場なのじゃ
インスが眼鏡を押し上げた。
「……面白い」
「だが、ただの巨大ロボットなど――」
「ライドオン!!」
博士が叫んだ。
胸の紫の水晶が、強く輝く。
光が博士を包む。
そして――
博士の体が、水晶の中へと吸い込まれていった。
広場がどよめく。
「消えた!!」
「ロボットの中に入ったのか!?」
カルテがはっとした表情でつぶやく。
「初めて発明家っぽい戦いが見れるかもっ」
その時だった。
「あっ」
アルが短く声を上げた。
気づいた時には遅かった。
水晶の光がアルにも伸びていた。
「ちょ、待――」
ズルズルズルッ。
アル・デンテの体が浮き上がり......水晶の中へと吸い込まれた。
カルテが額に手を当てる。
「……アル君も入りましたね」
カロが静かに言った。
「巻き込まれたわね」
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ダンベルガーZの内部。
暗闇の中に、二人が立っていた。
博士とアルだった。
全身に銀色のチューブが繋がれている。
手にはさらにチューブだらけのグローブのようなものが嵌められていた。
ブーツにも同様に。
アルが周囲を見渡す。
「……ここは」
その時。
音楽が流れ始めた。
「ダダダッ、ダダダッ ダンベルガー♪」
「ダダダッ、ダダダダッ ダンベルガー♪」
博士の声だった。
明らかに博士の声だった。
アルが固まる。
「……何この音楽」
「ダンダンダンダンッ、ダダダダダン、 ダンベルガー♪」
「鉄の拳に 宿りし鋼の魂♪」
「ダンダンダンダンッ、ダダダダダン、 ダンベルガー♪」
「平和のために 白金の城 今ここに♪」
アルは耳を塞いだ。
聞こえる。
塞いでも。
頭の中に。
直接。
「なんで耳を塞いでも聞こえるんだ!!」
博士が答えた。
「全脳域強制共振型音響投射装置――マインドハッカー君の効果じゃ」
「脳に直接音楽を届ける。塞いでも無駄なのじゃ」
「ダダダッ、ダダダッ ダンベルガー♪」
アルの目が遠くなった。
「……俺、何しに来たんだろ」
「頭がおかしくなる」
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外では。
YASHADOKUROが動き出していた。
インスが叫ぶ。
「行け!!」
YASHADOKUROの巨大な拳が、ダンベルガーZに迫る。
ドンッッ!!
ダンベルガーZはその拳を、片手で受け止めた。
インスの目が見開かれる。
「……受け止めた?」
ダンベルガーZの動きは、まるで博士そのものだった。
YASHADOKUROの連撃を、払い、かわし、捌く。
カルテが呆然とつぶやく。
「博士が動かしてる……」
カロが腕を組む。
「チューブが全身に繋がれていたわね」
「動作を直接機体に伝える仕組みかしら」
インスが歯を食いしばる。
「そんな技術が……どこで」
老婆がキセルをひと吹きした。
「あの銀色の装甲……」
「海に消えたサンテ大陸の……失われた技術でしか作れない素材じゃ」
インスの顔色が変わった。
「サンテ大陸の……?」
「そんなものが、なぜ」
YASHADOKUROが魂を吸収しようとする。
紫の光が迸る。
しかし――
ダンベルガーZの白銀の装甲が、それを跳ね返した。
インスが絶句する。
「魂の吸収が……弾かれた?」
「なぜだ、今まで防いだ者など――」
ダンベルガーZが一歩踏み込んだ。
腕が引かれる。
そして――
ドォォォンッ!!!
YASHADOKUROの胸に、拳がめり込んだ。
装甲が。
砕ける。
インスが吹き飛ぶ。
地面を転がり、止まった。
YASHADOKUROが膝をつく。
そして――
崩れ落ちた。
広場が静まり返った。
インスは地面に手をつき、ダンベルガーZを見上げた。
「……負けた」
眼鏡を拾い上げ、静かに立つ。
「伊沢博士……あなたはいったい何者なんだ」
ダンベルガーZは何も答えなかった。
インスは静かに踵を返した。
「……今日のことは覚えておく」
その背中が、人混みに消えていく。
こうしてシュークリーム派は撤退し、
たけきのこの国には再び平和が戻った。
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戦いのあと。
広場に、ダンベルガーZが静かに立っていた。
アルがワクワクしながら言う。
「博士、俺にも一度でいいから操縦させてくれっ、頼むよ」
博士からグローブとブーツを受け取り装着した。
ーーが、動かない。
アルが叫ぶ。
「おい、どうなってんだ!!」
「全然動かないぜ!」
カルテが水晶に近づく。
「博士、指紋認証みたいなものが必要なんですか?」
しばらく沈黙があった。
「……実は、予算が足りなくてな」
「え?」
「人力でチューブを引っ張って動かしておったんじゃ」
アルの声が低くなる。
「……予算は何に使ったんだ」
「マインドハッカー君じゃ」
沈黙。
カルテとカロが同時に額に手を当てた。
カルテがぼそっと言った。
「音楽なんていらなかったんじゃ……」
博士の声が水晶の中から響いた。
「テーマソングは男のロマンじゃよ」
アルの声も続いた。
「俺は男だが 1ミリも ロマンを感じなかった」
「ダダダッ、ダダダッ、 ダンベルガー♪」
「うるさい!!」
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その後、ダンベルガーZの操縦をアルは悔しそうにあきらめた。
こうして博士はレシピを改良した。
それ以来、みたんこにはあるものが加えられ、
名称もほんの少しだけ変えられた。
その名は――
プロテイン団子。
こうしてたけきのこの国に、
筋肉を育てる和菓子
が誕生したのであった。
めでたしめでたし。
今日も伊沢博士は研究室で、
ニュートンと名付けたダンベル――
もとい、ダンベルガーZの左腕を持ちながらつぶやく。
「発明は世界を救う。
だが筋肉は――
もっと手っ取り早く救う。」
カルテがぼそっと言った。
「……ダンベルガーZ、動かせるようにする予算はあるんですか」
博士は何も答えなかった。
ただ、静かにダンベルを持ち上げた。




