第八発明 北の頭脳 インス・タント登場なのじゃ
影が、広場に差した。
巨大な影が。
見上げると――
そこにいた。
二足歩行の機械。
鈍く光る黒い装甲。
頭部には紫色に光る単眼。
胸には髑髏を模した紋章。
その肩の上に、一人の男が腰かけていた。
白衣に眼鏡。
整えられた黒髪。
手には分厚いノート。
男は眼鏡を押し上げ、静かに口を開いた。
「やあ、伊沢博士」
「あなたの噂は北にも届いてますよ」
博士の目が細くなる。
男は続ける。
「僕の名前はインス......インス・タント」
「北の研究所から来た。博士のことは、ずっと調べさせてもらっていたよ」
観客がどよめく。
「インス・タント......聞いたことがあるぜ」
「失われた魔動機文明を次々と復活させている若い天才研究科」
「北の頭脳……インス・タント」
カルテが眉をひそめる。
「北の……研究所?」
インスは微笑んだ。
「この子は助手かな。かわいいね、そんな所で働かないで僕のところで一緒に働かないかい」
「余計なお世話です」
カルテは即座に返した。
インスは肩をすくめる。
「手厳しい」
そして機械――YASHADOKUROの装甲を撫でた。
「紹介しよう。YASHADOKUROシリーズ最新型」
「僕の最高傑作だよ」
観衆がざわつく。
その中から、キセルの煙が漂ってきた。
老婆が静かに言った。
「YASHADOKUROシリーズ……封印された魔動機文明の遺産」
周囲が老婆を見る。
老婆はキセルをひと吹きして続けた。
「魔動機文明時代にも禁忌とされた魔動機じゃ」
「魔力と機械を組み合わせた、この世で最も危険な兵器」
「そして――YASHADOKUROは人の魂を食らう」
広場が静まり返った。
カルテが息をのむ。
「魂を……食らう?」
老婆はキセルを持ち直した。
「倒した相手の魂を取り込み、戦うたびに強くなる」
「今まで戦った者は、みな魂だけ抜かれてぬけがらになった」
インスは楽しそうに笑った。
「よく知っているね、おばあさん」
「そう、だからこの子は負けない」
「戦えば戦うほど強くなる。倒しようがない」
博士が低く唸る。
「国民に被害が出る……」
アルが一歩前に出た。
「俺がやる」
カロも静かに立つ。
「……私も」
二人が同時に踏み込んだ。
アルの拳がYASHADOKUROの装甲を打つ。
ドゴッ!!
「っ……!」
アルが拳を押さえる。
硬い。
まるで岩を殴ったようだ。
カロが両手を振り上げた。
「氷柱槍――連槍華!」
バキバキバキバキッ!!
無数の氷の槍がYASHADOKUROに降り注ぐ。
煙が上がる。
晴れた煙の向こうで――
YASHADOKUROは無傷だった。
インスが首を振る。
「無駄だよ」
「この装甲は魔法も物理も通さない」
「試してくれてありがとう」
アルが歯を食いしばる。
「くっ……」
カロが後退する。
「効かない……?」
YASHADOKUROの腕が持ち上がった。
そして――
振り下ろされた。
ドンッッ!!
地面が割れる。
アルとカロが弾き飛ばされた。
二人が広場の端で止まる。
カルテが叫ぶ。
「アル君!カロさん!」
インスは静かに言った。
「博士、君も研究者なら分かるだろう」
「この子には勝てない」
「大人しく――」
その時。
博士が空を仰いだ。
静かに、深く、息を吸う。
そして――
叫んだ。
「来いーーー!!」
「ニュートン!!」
「ミケランジェロ!!」
遠くで、どでかい爆発音がした。
研究室の方向から。
ガラスが割れる音。
次の瞬間――
ヒュゴォォォォォォッ!!
二つの影が空を切り裂いた。
亜音速に至る速さで、二つのダンベルが飛来する。
広場がどよめく。
「なんだ今のは!」
「ダンベルが……空を飛んだ?」
カルテが目を見開く。
「研究室の窓……」
アルが砂埃を払いながら立ち上がる。
「……博士、何をする気だ」
博士は空を飛ぶ二つのダンベルを見つめた。
そして静かに言った。
「チェンジ」
一拍。
「ダンベル」
もう一拍。
「アポカリプスモード」
沈黙。
次の瞬間――
ダンベルが光り始めた。
白く。
眩しく。
そして――
爆発するように巨大化した。
ドォォォォンッ!!
巨大化したダンベルが、突如バラバラに分解される。
無数のパーツが宙を舞う。
広場の全員が空を見上げた。
博士が叫ぶ
「機神招来!合体じゃあぁぁぁぁぁぁーーー!!」
パーツが――
旋回し。
集まり。
組み合わさっていく。
脚。
胴。
腕。
頭。
白銀の装甲が形を成す。
胸の中心に、紫色の水晶が嵌め込まれた。
そして――
地響きとともに、それは広場に降り立った。
白銀の巨人。
胸に輝く紫の水晶。
インスの目が初めて見開かれた。
「……なんだ、あれは」
カルテが呆然とつぶやく。
「ダンベルが……ロボットに……?」
老婆がキセルを取り落とした。
アルが口を半開きにしたまま固まっている。
カロが珍しく言葉を失っていた。
博士は白銀の巨人を見上げ、静かに言った。
「ダンベルガーZ、見参!!」
「今日はお前のお披露目会じゃ」




