第七発明 和菓子と和菓子が戦争なのじゃ
世はまさにグルメ時代。
たけきのこの国には、四つの争いを乗り越え、久しぶりの平和が訪れていた。
その午後。
研究室では、カルテが一人お茶を飲んでいた。
コトン。
扉が開く。
「よう、嬢ちゃん」
長髪をまとめたパオの男が、慣れた様子で入ってきた。
「俺にもお茶を一杯くれ」
カルテが振り返る。
「アル君、いらっしゃい」
「あら」
奥のソファから声がした。
黒色の髪の女が、空になったカップを差し出していた。
「私はカフェラテのおかわりね。砂糖は二杯で」
「カロさんって甘党なんですね」
氷の魔女--カロ・リゼロは肩をすくめた。
「これくらい普通よ」
アルが眉をひそめる。
「……なんでおまえがここにいるんだ」
カロ・リゼロは口を尖らせた。
「西にはいいローブがなかなかないのよ」
「こないだ燃えちゃったし」
「それにここ、なんだか楽しそうじゃない」
アルがため息をつく。
「あんな目にあわせといてよく来られたな」
「それはお互い様じゃない」
カロは涼しい顔で言った。
カルテはお茶とカフェラテを用意しながら、ふと気づいた。
「そういえば……アル君、先週ぶりですね」
アルの眉がぴくりと動いた。
「……嬢ちゃん」
「はい?」
「なんでこいつは『カロさん』で、俺は『アル君』なんだ」
カルテは少し考えた。
「なんとなく、です」
「なんとなく?!」
カロがくすりと笑う。
「当たり前じゃない、ねえカルテちゃん」
アルが立ち上がった。
「……ここでやるってのか」
「また氷漬けにされたいのかしら」
カロは指先に白い霜をまとわせながら言った。
「4連覇さん」
アルの目が細くなった。
「今は5連覇中だ」
静かに、しかし確実に言う。
「氷漬けにされた経験が、また俺を一つ武の極致へと導いた。その名も氷結拳。」
カロの眉が僅かに上がった。
「……へぇ~」
二人の間の空気が張り詰める。
「二人とも」
カルテが静かに言った。
「お茶とカフェラテ、冷めますよ」
沈黙。
アルが舌打ちをしてソファに座った。
カロが指先の霜を払った。
三人分のカップが、テーブルに並んだ。
しばらく、穏やかな時間が流れた。
――その時だった。
「博士ーーー!!大変です!」
扉が勢いよく開いた。
飛び込んできたのは、近所の親方だった。
「今度は団子のみたらし派とあんこ派が争っています!!」
カルテが立ち上がる。
「またですか……」
奥の部屋から、ドシンという音がした。
ダンベルが床に落ちる音。
「そいつはいかん。平和がワシを呼んでいるのじゃ」
ボロボロの白衣。
爆発した白髪。
丸眼鏡。
右手にニュートン、左手にミケランジェロ。
伊沢博士が現れた。
アルがぼそっと言った。
「……俺、まだお茶飲んでないんだけど」
三人とも、すでに立ち上がっていた。
広場では、すでに争いが最高潮に達していた。
みたらし派が叫ぶ。
「このタレの甘じょっぱさがわからんのか!照りを見ろ!あの艶を見ろ!」
するとあんこ派が言い返す。
「粒あんのあの素朴な甘さと香りを知らないとは!和の心というものがわかっていない!」
ついにはみたらしのタレが飛び交い、
あんこが投擲され、
広場が茶色に染まっていった。
博士は争う人々を見渡し、静かに言った。
「みんながこれ以上争う姿を、ワシは見たくないのじゃ……」
拳を握る。
「ワシが……ワシがこの国を平和にしてみせるのじゃ!!」
カルテがつぶやく。
「博士……今回こそ発明で解決ですよ」
こうして博士とカルテは、来る日も来る日も研究に研究を重ねた。
そしてある日。
巨大な装置の前に立つと、博士は大量のみたらし団子とあんこ団子を投入した。
装置は唸りを上げる。
ゴゴゴゴゴ……
そして――
一つの団子が誕生した。
その名も、
みたんこ。
みたらしの甘じょっぱい照りと、あんこの素朴な甘みを一つの串に閉じ込めた奇跡の団子である。
カルテが目を輝かせる。
「博士、ついにやりましたね!」
博士は静かにうなずく。
「あぁ。これで平和を取り戻すのじゃ」
みたらし派が言う。
「タレの甘じょっぱさであんこが引き立つ!」
あんこ派も言う。
「あんこの優しい甘さにタレの照りが加わって……最高だ!」
国民たちはみたんこを頬張り、笑い合った。
こうして世界には――
串に刺さった平和が訪れた。
――かに見えた。
その平和を乱す者が現れたのである。
それが――
シュークリーム派だった。
シュークリーム派は腕を組んで言った。
「みたらし?あんこ?素朴すぎる」
「クリームのなめらかさとシュー生地のサクサク感の前では、団子など棒付きの石ころだ」
「洗練された甘さを知らない者に、菓子を語る資格はない」
国中にシュークリームがばらまかれ、
たけきのこの国は再び大混乱に陥った。
博士は静かに言う。
「落ち着くのじゃ。争う必要はないのじゃ」
しかしシュークリーム派は聞く耳を持たない。
「シュークリーム最強!」
「串に刺さったものは時代遅れ!」
広場は騒然となった。
沈黙が流れる。
博士はゆっくりと立ち上がった。
そして――
白衣の袖をまくった。
カルテが小声でアルに言う。
「……来ますよ」
アルが小声で返す。
「……ああ」
カロがカップを持ったまま小声で言う。
「……いつもこうなの?」
「「……いつも」」
博士の拳が空気を引き裂く。
はずだった。
ガキンッ!!
金属が激突する音。
「――?」
博士の拳が止まっていた。
いや、違う。
掴まれていた。
巨大な、銀色の機械の腕に。
広場が静まり返った。
カルテが息をのむ。
「……機械の腕?」
カロの目が細くなる。
「あれは……」
アルが腕を組んだ。
「どこから来た」




