第四発明 孤高の天才拳士 アル・デンテ登場 なのじゃ
「じいさん――俺と少し遊ぼうぜ」
年は20そこそこ。長い長髪を後ろでまとめ上げ、パオと呼ばれる服を身にまとっている。
体は中肉中背だが練り上げられた筋肉は達人のそれと一目でわかる。
バトルモードの193cmの博士を前にして男は飄々とした態度を崩さない。
男は博士の拳をつかんだまま、静かに笑った。
広場が一瞬で静まり返る。
カルテが目を見開く。
「博士の拳を……止めた?」
男はゆっくりと手を離し、肩を回した。
コキッ
コキッ
骨が鳴る。
「悪いな」
「もらった分はしっかり仕事させてもらうぜ」
パスタ派の連中が歓声を上げた。
「やれ!!」
「アル・デンテだ!」
「東の国最強だぞ!」
カルテが眉をひそめる。
「アル……デンテ?」
観衆がざわつく。
「アル・デンテ……聞いたことがある」
「東の武術大会で3連覇して名を馳せた若いやつがいるってな」
「孤高の天才…アル・デンテ」
次の瞬間だった。
ドンッ!!
地面が弾ける。
アル・デンテの姿が消えた。
カルテが叫ぶ。
「速い!」
次の瞬間――
博士の目の前に拳が現れる。
バゴォッ!!
博士の体が吹き飛んだ。
広場の石畳を転がり、屋台に突っ込む。
カルテ
「博士ーーーー!!」
観衆が騒ぐ。
「なんだ今の!」
「見えなかったぞ!」
煙の中から、博士が立ち上がった。
眼鏡を直し、白衣についた『そどん』を払いながら
つぶやいた。
「……準備体操はおわったかい?」
瞬間ーー
二人が同時に踏み込んだ。
ドドドドドド!!
拳と拳がぶつかる。
ボディ。
肘。
膝。
蹴り。
まるで嵐のような連撃。
カルテが目を凝らす。
「拳法……?」
観客にいたキセルをふかす、老婆が答える。
「いや違うね……」
「あれはいろんな流派が混ざってるのさ!」
アル・デンテが笑う。
「東の国は広い」
「強い奴の技は全部盗む、力任せのあんたじゃ俺にはかなわない」
拳が博士の腹にめり込む。
ドゴッ!!
観衆が息をのむ。
「入った!!」
しかし――
博士の笑みは崩れない。
アル・デンテが呆れる。
「なんなんだこのジジイ……」
そして構えを変えた。
空気が変わる。
カルテの顔が青くなる。
「なんだか嫌な予感がする……」
「こっからは仕事抜きだぜ」
アル・デンテが低く言う。
「終わらせる」
腰を落とす。
拳を引く。
「俺のとっておきだ」
アルは大きく息を吸い込み、それを吐き出す。
「コオォォォォォーーーーーーッ」
突如、アルの闘気が 倍以上に膨れ上がる。
観客がどよめく
「何だあれ、まるで虎に見える」
「あぁ、俺にも虎が見えてるぞ」
東の国の練気術。
体内の気を特殊な呼吸と共に全身に張り巡らせる。
達人のそれは闘気の強さに応じ周囲に獣の幻影を見せるーー
ドンッッ!!
衝撃波。
石畳が割れる。
煙が広場を覆った。
カルテが叫ぶ。
「博士ーーー!!」
煙が晴れる。
そこに立っていたのは――
博士だった。
片手で。
アル・デンテの拳を止めていた。
沈黙。
アル・デンテの目が見開かれる。
「……なに?」
博士はニヤリと笑った。
「いい拳じゃ」
「だが――」
博士が一歩下がる。
「まだ功夫がたりん」
博士は大きく息を吸い込む。
大胸筋が爆発しそうなほどに膨らみ、それを吐き出した。
「ごふぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーー!!!」
途端、先ほどまでとは比べ物にならないほどの闘気が立ち上がる。
周囲の空気が重く沈む。
アル・デンテの額に汗が流れた。
「……なんだ、この圧は」
観客がどよめく
「何…あれ?」
「ライオン?いや、違う違う違う。絶対に違う」
博士の闘気が形を徐々に成してくる。
光り輝く黄金の獅子の顔
ーーーーの後に続くゴリラの体、ワシの羽、羽の間にヤギの頭が生えて、腕はツキノワグマで足はペンギン、そしてその尻にはヤマタノオロチが生えていた。
カルテは口元に手を当ててつぶやく。
「なんだかひとり動物園みたいね」
目を見開いたまま固まるアルデンテ。
(ムリ………絶対死ぬやつじゃん)
ドンッッ!!
地面にクレーター状の穴が開く。博士が踏み込んだ跡だ。
一瞬のうちにアルデンテに肉薄し、
ライオンとゴリラとワシとヤギとツキノワグマとペンギンとヤマタノオロチのオーラをまとった拳がうなりを上げる。
カルテが叫ぶ。
「博士、ダメーーーーーーーーッ!!」
その声にーー
博士の拳がほんのわずかに揺らいだ。
(死ぬ...死んじゃう...)
(思えば短い人生だった……天国のばあちゃん…...今、会いに行くぜ)
アルは目を閉じ、覚悟を決めた。これまでの人生が走馬灯のように駆け巡る。
ーーーーがなかなかその瞬間が訪れない。
アルは恐る恐る目を開けると、博士の拳が眼前で止まっていることに気づく。
博士が静かに口を開く。
「忘れていたよ。たけきのこの国に争いは似合わない。」
アルは息を吐きだして緊張を解く。
「...……博士」
その時ふと目に入った。
博士の左腕、
戦いで破れた白衣の隙間から何かが見えたーー
そこには荒々しく爪を振り上げる隻眼の虎の刺青が・・・
「隻眼の虎!!!!あんた...もしかして...かつて武術大会で15連覇して突然消えたあの伝説の!!!」
驚いたアルは顔を上げた。
そう上げてしまったのだ...
こつんとアルの額に博士の拳が当たる
東の国の武術に発勁という技がある。
浸透勁とも呼ばれるその技は、気を相手の内部に送り込み
外部からではなく、内部から破壊する究極の技である。
拳が額に当たった瞬間
博士「・・・あッ!」
博士の纏っていた化け物みたいなオーラがアルの中に滑り込む。
そして...…...アルの中で暴れだした。
ライオンとゴリラとワシとヤギとツキノワグマとペンギンとヤマタノオロチのパワーが...…
「あがっ、がぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱっ」
全身の骨を体の中から粉々にされ、奇妙な叫び声をあげた後、アルは糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちた。
博士のメガネがキラリと光る。
「これにて一件落着なのじゃ」
こうしてパスタ派は撤退し、
たけきのこの国には再び平和が戻った。
カルテがつぶやく
「博士っていったい何者?」
戦いの後、『そどん』のレシピは改良された。
それ以来、そどんには
あるものが混ぜられるようになり、
名称もほんの少しだけ変えられた。
その名は――
プロテインヌードル。
こうしてたけきのこの国に、
筋肉を育てる麺
が誕生したのであった。
めでたしめでたし。
今日も伊沢博士は研究室で、
ミケランジェロと名付けたダンベルを持ちながらつぶやく。
「発明は世界を救う。
だが筋肉は――
もっと手っ取り早く救う。」
カルテがぼそっと言った。
「……わたし、このままここにいて大丈夫かしら?」




