第十発明 お寿司とお寿司が戦争なのじゃ
世はまさにグルメ時代。
たけきのこの国には、五つの争いを乗り越え、久しぶりの平和が訪れていた。
その朝。
研究室の外まで、奇妙な音が響いていた。
「ごふぉぉぉぉぉぉーーーーー♪」
「ダダダッ、ダダダッ ダンベルガー♪」
「ごふぉぉぉぉぉぉーーーーー♪」
扉が開いた。
長髪をまとめたパオの男が立っていた。
眉間に深いしわを寄せている。
「……なんだこのひどい音は」
アル・デンテは研究室を見渡した。
「ドラゴンでも飼ってるのか?」
カルテがお茶を運びながら答えた。
「博士が ダンベルガーZの新しいテーマソングを練習してるんです」
アルは天井を仰いだ。
「歌よりも動かせるようにしてくれよ……」
「アル君、いらっしゃい」
「お茶でいいですか」
「ああ、頼む」
奥のソファから声がした。
「あんた、またきたの」
黒髪の女が足を組んで座っていた。
カロ・リゼロだった。
アルが眉をひそめる。
「おまえこそいつもいるじゃねーか」
「わたしはカルテちゃんが寂しくなるだろうから来てるの」
カロは涼しい顔で言った。
「どんだけ暇なんだよ」
「あんたこそ友達いないでしょ」
アルの目が細くなった。
「……今なんつった」
カロが指先に霜をまとわせる。
「聞こえなかった?もう一度言いましょうか」
「二人とも」
カルテが静かに言った。
「お茶、冷めますよ」
沈黙。
アルが舌打ちをして椅子に座った。
カロが指先の霜を払った。
しばらくして。
奥の部屋から足音がした。
ボロボロの白衣。
爆発した白髪。
丸眼鏡。手にはマイク。
伊沢博士が現れた。
「おぉアルか。ちょうどよかった」
博士は目を輝かせた。
「ダンベルガーZの新テーマソング、聞かせてやろうか」
アルは即座に言った。
「いらない」
博士は少しだけ残念そうな顔をした。
ハッとした表情をするアル。
「そういえば忘れていた。俺はまた新たな武の極致へとたどり着いたって言いに来たんだぜ」
カロは湯呑みを置いた。
「また?ハァ...はいはい5連覇、すごいすごい」
「......6連覇した」
カルテが目を丸くする。
「6連覇……?!」
「前回は5連覇でしたよね、また伸びたんですか?」
アルは肩を回した。
コキッ。
「ダンベルガーZに乗り込んだ経験がな」
遠い目をした。
「あの全脳域強制共振型音響投射装置……マインドハッカー君と戦い続けた三時間が」
「また俺を一つ武の高みへと導いた」
カルテが湯呑みを持ったまま固まる。
「あの音楽と戦ってたんですか……」
「その名も――機神拳」
カロが片眉を上げた。
「……毎回よく続くわね」
「不憫な経験を無駄にしない男なのでな」
アルは静かに言った。
カロはしばらくアルを見つめた。
そして小さく笑った。
「……まあ、悪くないんじゃない」
アルが珍しく黙った。
カルテがぼそっと言った。
「カロさんに褒められましたね、アル君」
「うるさい」
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その時だった。
「博士ーーー!!大変です!」
扉が勢いよく開いた。
飛び込んできたのは、近所の親方だった。
「今度はお寿司のマグロ派とサーモン派が争っています!!」
カルテが立ち上がる。
「またですか……」
博士はすでに立ち上がっていた。
「そいつはいかん。平和がワシを呼んでいるのじゃ」
アルがぼそっと言った。
「……新テーマソング聞かなくてよかった」
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広場では、すでに争いが最高潮に達していた。
マグロ派が叫ぶ。
「赤身のあの深い旨みと鮮やかな色!寿司の王はマグロ以外にありえない!」
するとサーモン派が言い返す。
「あのとろけるような脂と鮮やかなオレンジ!老若男女に愛される寿司といえばサーモンだ!」
ついにはマグロが投げられ、
サーモンが飛び交い、
広場が赤とオレンジに染まっていった。
博士は争う人々を見渡し、静かに言った。
「みんながこれ以上争う姿を、ワシは見たくないのじゃ……」
拳を握る。
「ワシが……ワシがこの国を平和にしてみせるのじゃ!!」
カルテがつぶやく。
「博士……今回こそ発明で解決ですよ」
こうして博士とカルテは、来る日も来る日も研究に研究を重ねた。
そしてある日。
巨大な装置の前に立つと、博士は大量のマグロとサーモンを投入した。
装置は唸りを上げる。
ゴゴゴゴゴ……
そして――
一つの寿司が誕生した。
その名も、
マーモン寿司。
マグロの深い赤身とサーモンの豊かな脂を一つの握りに閉じ込めた、
紅白の奇跡の寿司である。
カルテが目を輝かせる。
「博士、ついにやりましたね!」
博士は静かにうなずく。
「あぁ。これで平和を取り戻すのじゃ」
マグロ派が言う。
「赤身の旨みにサーモンの脂が重なって……これは反則だ!」
サーモン派も言う。
「オレンジと赤が美しい……口の中でとろける!」
国民たちはマーモン寿司を頬張り、笑い合った。
こうして世界には――
とろけるような平和が訪れた。
――かに見えた。
その平和を乱す者が現れたのである。
それが――
ハンバーガー派だった。
ハンバーガー派は胸を張って言った。
「寿司?繊細すぎるんだよ」
「ボリュームとジャンクな旨み!食べ応えこそ正義だ!」
「両手で掴んでかぶりつく、あの豪快さを知らない者に食を語る資格はない」
国中にハンバーガーがばらまかれ、
たけきのこの国は再び大混乱に陥った。
博士は静かに言う。
「落ち着くのじゃ。争う必要はないのじゃ」
しかしハンバーガー派は聞く耳を持たない。
「ハンバーガー最強!」
「箸で食べるものは時代遅れ!」
広場は騒然となった。
沈黙が流れる。
博士はゆっくりと立ち上がった。
そして――
白衣の袖をまくった。
カルテが小声でアルに言う。
「……来ますよ」
アルが小声で返す。
「……ああ」
カロがカップを持ったまま小声で言う。
「……今度は何で止まるのかしら」
博士の拳が空気を引き裂く。
はずだった。
ヒュッ。
鋭い風切り音。
博士の白衣の袖が、ふわりと揺れた。
気づけば――
博士の拳の真横に、一本の矢が刺さっていた。
広場が静まり返った。
カルテが息をのむ。
「……矢?」
アルが素早く周囲を見渡した。
「どこから――」
カロの目が鋭くなる。
「あそこよ」
全員が空を仰いだ。
寿司の画像作ったとき最初は顔つきでしたww
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