「チョコレート・ディスコ」
今回は、計算する女子とそれに期待してしまう男子の「バレンタインデー」の曲、Perfumeの「チョコレート・ディスコ」から生まれた短編小説です。
バレンタインデー、そして数年後のホワイトデー翌日を書きました。
ここに登場するホワイトデー翌日のライブは、Perfumeが実際に行った場所と日付です。
「マナ、今年はキットカットじゃなくて、手作りチョコでも渡せば?」
下校中に親友のゆかりが言った。
道には雪が残り、私たちは慎重に歩いて帰る。
「えーいいよー、受験生にはキットカットでしょ?」と私が返すと、「あと一ヶ月で京都に行っちゃうんでしょ?違う高校だよ?」
「受かったらでしょ」と私は意地を張る。
「受かるよ。全国模試で五百人以内に入ってるんでしょ?受かるよ」
「でも隣の京都だし、いつでも会えるよ」
「福井の山の中から京都なんてどれだけ時間が掛かると思ってんの。それに壮汰、寮生活するんだって?」
「そうみたい」
「なおさら会えないよ。もうさ、そろそろ好きって言っちゃえば?」
「幼馴染みに?」
「関係ないよ」
そんなバレンタインデー前の女子トーク。
「好きな人にチョコを渡さなければいけない責務あるイベント」
正直私はそんな風にバレンタインデーを捉えていて、何も楽しくなかった。
「それよりゆかりは、今年はどんなチョコ渡すの?」と聞いた。
ゆかりには中一から付き合っているカレがいる。
カレも私とゆかりと同じ地元の高校に通う。
やっぱり少しは羨ましかった。
ゆかりは毎年手作りチョコの中におかしな食べ物を入れてカレを楽しませていた。
去年はきなこ餅だった。今年は既に食べ物ではなくなっていた。
「今年はね、手作りのおみくじを入れるよ」
「紙??」
「うん」
「バカじゃないの?」
「でも大吉だよ?」
「いや、そういう問題じゃなくて」
「待ち人…すぐあなたの傍にいますって書くの」
「あ…そう…」
呆れながらも笑ってゆかりと曲がり角で別れると、後ろから私の名前を呼ぶ声がした。
「マナーー」
「壮汰」
振り返ると壮汰が雪で滑らないように慎重に走ってきた。
さっきまでチョコの話をしていたから何か緊張した。
「久し振りに下校中に会うね」と壮汰。
「そうだね。受験勉強はどう?」
「先生には90パーの確率で合格するって言われた」
「すごいね。でもさインフルとか気をつけなよ」
「そうだね」
コロナが流行る一年前のことだ。
翌年のちょうど受験の頃にコロナが世間で騒がれ出した。
「京都の高校に行ったら当分会えないね」と私が言うと、「夏休みには帰って来るよ」と壮汰は言った。
クラスの違う私たちは会話も久し振りだった。
私の家の近くまで着くと、ちょうど反対側から買い物帰りの母が帰って来た。
「あらー壮汰くんじゃないの」
「ご無沙汰してます」
「聞いたわよ。京都の進学校に行くんだって?すごいじゃない?」
「まだ受かってないですよ(笑)」
「合格したらうちでお祝いしましょうよ。京都に行く前にうちにも遊びに来てよー」
「お母さん、私たちもう中三なんだから。小学生の時と違うの」
そう言って母を家に入るように促した。
私の母と壮汰のお母さんは小学校のPTAで仲良くなった。
小学校低学年の頃はよくお互いの家に行っていたが、小学校高学年になるとクラスメイトの目を気にしてか、なかなか二人で会うこともなくなった。
私は帰宅して自分の部屋に入り机の引き出しを開けた。
そこには、雑貨店で買った手作りチョコ用の型。
本当はゆかりに言われなくても手作りのチョコを渡そうと思っていた。
でも、いざとなると渡すシチュエーションを想像するのも恐ろしい。
でも作るだけ作ってみようかな。
2月13日。
両親が寝室に入って眠りに就いているだろう深夜に私はキッチンへ向かう。
小さなボウルにチョコレート。大きなボウルにお湯を入れて溶かしていく。
もう二時間も過ぎた。こんなに時間が掛かるとは。
型に入って固まったチョコを箱に移す。
「女子って大変なんだな」なんて、いつもキットカットやチロルチョコで済ませていたズボラな私は我ながら思った。
箱にリボンを掛けて紙袋に入れ、机の引き出しに仕舞った。
もう朝の四時になっていた。
その日の朝は案の定、遅刻寸前だった。
母に起こされて慌てて支度し、朝御飯も半分だけ食べて急いで学校への雪道を向かった。
学校まであと少し。そこで気付いた。
「チョコを持って来るの忘れた!!」
うーん、もう仕方ない。幼馴染みに手作りチョコなんてやっぱり恥ずかしいし。
でも、中学最後のバレンタインに何もなしか…。
六限を終えてゆかりは、隣のクラスのカレにおみくじ入りのチョコを渡しに行った。
「明日、どんな顔をするか楽しみ-」と笑っていた。
私は一人で校門を出て帰宅する。
するとそこに壮汰が小走りでやって来た。
「マナ、キットカットは?」
「あー…壮汰………食べちゃった(笑)」
「食べた??」
「夜中に受験勉強してたらお腹減っちゃって」
「まじで?今年何もなし?ひでー」
「えー?もしかして楽しみにしてた?」
「マナしかいないんだよ。俺にチョコくれるの」
「ほんとにー?こっそりもらってるのかと思ってた」
「他の人は俺らが付き合ってるって思ってたりして」
「そんなことないでしょ」
そう言うと壮汰は「そうかなぁ…」と目を伏せて、「今年は何もないのな」と呟いた。
「来年はあげるよ」とそんな予定も立てられないのに私は言った。
もう一緒に帰れる機会すら僅かなのに…。
「そう言えばさ、ゆかりって今年はおみくじが中に入った手作りチョコを渡すんだって」
私は話を変えた。
「え?ちょこに紙を入れるの?」
「うん。飲み込んだらどうするんだろうね」
「あいつ、相変わらずだな」
「ね」
「俺なら合格祈願のお守り入りでも良かったよ?」
「うそー、そんなのバチ当たるよ」
私は口元を緩めて笑ったけど内心悲しかった。
引き出しの中のチョコレートが思い浮かんだ。
壮汰に「ばいばい」といつも通り手を振って家に入る。
机の引き出しを開けて、手作りチョコの入った紙袋をゴミ箱に投げ捨てた。
一人で食べる気にはなれなかった。
「帰り道に渡すチャンスはあったのにな」
私は目尻を拭った。
あれから壮汰は無事に京都の進学校に合格した。
私も無難に地元の公立高校に通うことになった。
コロナ渦だったこともあり、壮汰と会うことはほとんどなかったけどLINEではよく近況報告をしてきた。
そして私は大学生になり京都の大学へ。壮汰も京都の大学に進学した。
あれから6回のバレンタインデーが来て、7回目のホワイトデーが過ぎた。
2025年3月15日、サンドーム福井。
「一日遅れだけど、今年のホワイトデーだよ」と壮汰が取ってくれたライブだった。
「ええええー」驚く私に壮汰は満面の笑みだった。
あの中学三年のバレンタインデーの翌日、ゴミ箱に捨てたチョコレートを渡したのは母だった。
「マナには内緒ね」
そう言ってわざわざ壮汰の家までこっそり届けたことを、だいぶ経ってから知った。
母は私の部屋のゴミ箱の中から、くしゃくしゃの紙袋を見つけていたのだ。
あの時私はチョコと一緒に手紙を入れていた。
「春からなかなか会えないけど、これからも仲良くしてね」
ただ、それだけだった。
だからかな、壮汰は京都の高校に行ってからも私によく連絡をしてくれた。
そして今、私たちの目の前にPerfumeがいる。
私は壮汰を見た。
すると彼は笑顔で私を見て、「チョコレート・ディスコだね」とイントロと同時に言った。
私たちはPerfumeと一緒に肩を横に振って踊り、笑い合った。
ライブを終えて私たちは地元の駅に着くと、お互いの実家に久し振りに帰って行った。
中学生のあの時のように。
でも、あの日とは違う。
これからも、私たちは二人なんだし。
いつもありがとうございます。
次回は、3月17日22時を予定しています。




