天間
憤然と夜風を切って大股で歩く。そんなミコの後ろを追う愁い顔のアイは、何か言い出すタイミングを計るようにミコの背を見ている。そしてまた何も言わず視線を影に落とす。
ミコはそんなアイの事など考えず振り返る。
「アイはどうしてついてくるの?」
語気を強く、怒りが滲んでいる。暗にもうついてくるなと言っているようだ。
「愛してるから」
アイは自信のない声をしている。これがミコの望む答えでない事は承知しているから。
「私がそう望んで造ったから?」
ミコの言葉は愁いを帯びていた。
「違うわ。元はそうだった、でも今は違うわ」
弱くも必死な声であった。目尻が濡れている。
ミコから返答はなく森閑とした中、疑念が深まっていくのをただ感じていた。
「ミコトはカレンの過去をあの三日間以外は見ていなかった。」
ミコは驚きを隠せずにいた。カレンの過去について何か言われるとは全く予想していなかったのだ。
「そっ、それは今のカレンを愛してるから」
「分かっているわ」
慌てて弁解しようとしたミコをアイは優しく肯定する。
「カレンを愛してるから見るのが怖い事も、見ても見なくても愛し続けようという意志もさ。分かっているわ。でも私は」
ミコは視線を落として口元を苦しそうに結んでいる。
「コードと魂の繋がりは強いから、その指輪はやっぱり置いていけないわ。でも既に記憶にある事は消えないから」
アイは優しく微笑みながらミコに歩み寄る。そしてミコの手に視線をやり、そのまま手を取った。
「アイ」
「ほんとに見なくてよかった?これが最後になるから」
アイは指輪の方を見ている。
「アイ」
「これを回収したらもう会うことはないから、少しデート、してみたかった」
ミコはここに来た経緯など今は気にしていない。アイもそんな事を知っていて、ただ取り繕うように話し続ける。
「でもやっぱり私には無理だった」
「アイ」
語気を強めた呼びかけにアイは目を合わせた。顔を上げたとき大粒の涙が零れた。それと同時に指輪が抜けていく。アイの目は涙で一杯だった、それを少し傾ける、するとまた涙が溢れた。
「ミコトごめん」
唇にやわらかな感触がして熱い吐息と共にフッとアイは消えた。ミコの手には二つの切り札だけが残っている。
柔らかな風が頬を撫で、冷たく感じる。振り返ると朝日が見え、また春風のような暖かな風が身を包む。だんだんと涙を乾かし頬の熱だけが残った。ミコはまだ潤んだ瞳で朝日を見つめる。扇のように広がる光の中心に太陽の丸い輪郭が見え、太陽に丸い影が重なり、周りもなんだか暗く見えてくる。目を焼くように見つめていると流星の如く空を流れるものが通る。そっちに目をやると太陽の丸い影がそれに重なり、今度はその行く先をただ眺めた。
ミコは一人で歩き続け、太陽が頭上を通る前に端に辿り着いた。小高い崖に上がって見渡してみると、下にはごうごうと川が流れ、川の向こうは濃霧でよく見えない。こちら側で遠くに古風な建屋を見つけた。その建屋の方へ歩くと、古風な駅に着いた。駅の中には誰もいない。探していると近くから走ってくる足音がし、その方を向いたミコに誰かが飛びついた。
「カレン待った?」
ミコの顔が思わず緩む。
「ぜんぜん」
ミコの胸に顔をうずめたまま、頭を横に振る。
「生きとるんやね」
それを聞いてミコは急にカレンを離し、
「うん、そうだね、よかった」
恥ずかしそうにしている。
カレンは嬉しそうに笑みを浮かべている。
「ウチも一緒や。ミコに会って、いや、見た瞬間からずっとドキドキしとるもん」
「わ、私もだよ」
ミコは恥ずかしがりながらも口元は嬉しそうにしている。
「それと、んと、指輪のことなんやけど、無くしてしもたみたいで。色々と探してたんやけど見つからなくて、ごめん。」
カレンは自分が無くしてしまったと思っていた。
「大丈夫、そうじゃないから」
ミコは少し笑って、カレンはそれを不思議そうに見た。
「どういう事なん?」
「話すよ、色々と。指輪もまた戻ってから」
ミコは手を差し出し、カレンはその手を握る。
駅の改札機を通ると勝手に札が切られ、ホームには汽車が来て停まった。




