01 見世物小屋の獣人
賑やかな街並みには似つかわしくない、大きな看板が街角に掲げられている。
<珍獣・希少種、勢揃い!>
商人が鞭を軽く振り回しながら声を張る。
「さあ、さあ!見ていってください!なかなか手に入らない貴重な獣人です!丈夫で長持ち、壊れる心配はありませんよ〜!」
檻の中から呻き声が響く。
鞭が肌を裂くたびに、獣人のくすんだ金色の髪が揺れ、整った顔が苦痛に歪む。
通行人は足を止め、眉をひそめて視線を向ける者もいれば、好奇心に駆られて立ち止まる者もいる。
「やめろ……俺を――見るんじゃねぇ!」
叫び声が街角に響き渡る。
通行人は立ち止まり、互いに顔を見合わせると、次々に足を早めて立ち去る。
そのとき、檻の前で一人の少年が立ち止まる。
リオル・アルベルト。
幼いが凛とした顔立ちに、淡いグレーの髪と薄紫の瞳。上質な服を纏うその姿は、街のざわめきの中でもひときわ目を引く。
「あんたも、俺を見に来たのか?」
檻の中で琥珀色の瞳が光り、少年をじっと見据える。
「人間どもは本当にクソだな。金のためならなんでもする。俺を売りたいなら、ちゃんと売れよ。こんなふうに見せ物にするなんてさ。」
「……」
「あんたは貴族の坊ちゃんみたいだから、俺のことを珍獣くらいにしか思ってないんだろうな。そうだろ?」
さっきまで黙っていたリオルが、にやりと笑いながら口を開く。
「はは、お前、獣人のくせによく喋るんだな」
その瞬間、檻の中の獣人の表情が険しくなる。
歯を食いしばり、瞳が鋭く光った。
「よく喋るのは生まれつきだ。余計なこと言わずにいけよ。どうせあんたみたいなガキには懐かないんだからな」
リオルは薄紫の瞳をわずかに光らせ、静かに問いかける。
「そうか……お前はどんな奴に懐くんだ?」
「俺をちゃんと扱ってくれる奴に決まってるだろ?人間じゃなくて、心の温かい獣人に違いない」
「心の温かい獣人か……で、それはいつなんだ?」
獣人はしばらく首を傾げ、諦めたように肩を落とす。
「さあな……いつ来るかはわからない。明日の太陽が昇る頃かもしれないし、ずっと先の話かもしれない」
「そうだな……救いの手が差し伸べられるタイミングは、誰にもわからない」
少しの希望を胸に、慎重に言葉を選ぶ。
「救いの手か…じゃあ、あんたは?もしかして俺を助けてくれるつもりなのか?」
リオルは檻の中の獣人をじっと見据え、口を開いた。
「……お前は、そうやって救いの手が差し伸べられるのを待つだけか?」
獣人の瞳が揺れ、しばらく沈黙する。
やがて、低く断固とした声が返ってきた。
「違う。俺はただ待ってるだけじゃない。いつか、必ず自分でここから抜け出してやる。そのためには……まず、ここから脱出しなきゃな」
「そのためなら……人も殺せるか?」