ハヤブサファイター
自由気ままな奔放な生活とはおさらばだ。
俺は雇われ、準公務員の扱いでこの世界のウイルスバスターとして働くことになった。
隊員やメンバーはほとんどいない、権堂がトップという以外俺にはわからない。
「バイクのモッドは事前に申請して、こちらへ提出しておくように」
「怠ったら?」
権堂の指示を聞きながら、俺はバイクのメンテナンスをしていた。いろいろと細かく面倒な手続きが増えたため、俺は素朴な疑問として問いかける。
「フレンドリーファイアがおきる。それもよけてやる!ってなら、すきにしろ」
権堂がニヤリと笑いながらそう答えた。
「――」
防衛隊の練度からして、俺にかすり傷を与えられるような気もしないが、
味方に撃たれて死ぬなんて間抜けな死に方はしたくない。
「承認まで時間がかかるとか、やめてくれよ」
「そいつはプログラム次第さ」
俺が渋々と受け入れたのを確認して、権堂がそのまま立ち去った。
「しかし、俺一人とは――世知辛い話だ」
バイクにまたがり、そう呟いて俺はふと時計を見た。
「そういえば——成美、もうじきくる時間か」
時刻は夕方近く、学校を終わらせて成美がログインする時間に近づいていた。
いつもは迎えに言ったり、行かなかったり。特に約束や決まりごとはない。
「あいつに説明するべきか――」
あいつの性格上、自分も首を突っ込もうとしかねない。幼馴染として、お互いある程度理解しているつもりだ。
大胆な事はできないが、世話焼きだからなし崩しにこちらに来てしまいそうな気がする。
「内緒でいいか」
そういって、俺は上着を一枚羽織った。
これは権堂より支給された、プロテクトキーを内蔵した隊員服のようなものだ。
「――内緒にできるかなあ」
さすがに「ハヤブサファイターのFF」のロゴが入っていれば、目立ちもする。
俺の趣味とも思われたくないし、かといって言い訳がない。
「新入りさん、悩み事?」
「ん?」
少女に声をかけられて俺は振り向いた。
「ここのエンジニア系を担当してる、武市春香――16歳だけど飛び級なの」
「へえ、岡田隼人」
春香という少女に自己紹介されて、俺は自分も素直に名乗る。
基地に似つかわしくない少女だと思ったが、飛び級だと説明を受けて納得した。
「一応、あなたのバイクのモッドやプログラムはこちらでバックアップも取ったから」
三つ編みのおさげが特徴的で、やや童顔っぽい彼女は見かけによらず優秀なようだ。
「それにしてもずいぶんゴテゴテよね……これ全部自作?」
「そうだが——」
俺の返答に、彼女は興味深そうにモッドのバリエーションを眺める。
「昭和らしくないけど、悪くないんじゃない?」
「どーも」
昭和らしくないというなら、いま彼女が手にもつpad端末も昭和らしくない。そういいたいが、俺のモッドも似たようなものだ。
ここは沈黙がベターだろう。と俺は頷くにとどめた。