ウイルス
ファクトリーバーガーでいつものセットを堪能した俺は、シフトから上がった成美と合流した。
ポニテのまま、制服は着替えて私服の幼馴染がそこにいた。
「お待たせ」
「そんなに待ってないよ」
そういって、俺はヘルメットを彼女に投げて渡した。
今はヘルメットは二つ常備している。
以前、彼女に俺のヘルメットを貸して、ノーヘルで運転したときに『隼人の匂いがする』と言われ。
臭いのかと気になり、それ以来彼女のヘルメットを用意したのだ。
実質、俺の後ろに乗るのは彼女だけだから、彼女専用のヘルメットだ。
「よいっしょ」
「すっかり慣れたみたいだな」
「何度も乗ってるからね」
最初はおっかなびっくりしながら、すごい力で俺にしがみついていた彼女も、今ではもう慣れたようにバイクにまたがっている。
「それにしても、ログアウトするのにもステーションまで行かないといけないの不便だよな」
「仕方ないわよ、なんだかんだいって……ここは現実じゃあないもの」
俺の言葉に彼女が答える。
この世界ではログインとログアウトをする場所が決まっており、現実ではログインは自宅などからできるが、ログアウトだけはこの世界のステーションでと決まっている。
こっちに入り浸ってる俺と違い、成美は現実世界に帰るのにステーションによるのだ。
「お前ももっと便利な近未来エリアで、バイトすればいいのに」
「……労働基準が厳格化されるの嫌だから」
「まあ、これぐらい緩い方がいいのか」
成美の回答に妙に納得しつつ、俺はバイクをステーションへと走らせた、
「!」
目の前が一瞬ぐんにゃりとした感覚がした。
「成美!掴まれ!」
「!」
この感覚には覚えがある——サイバー攻撃だ。
最近、あちこちで世界的なサイバー攻撃が無差別テロのように行われているという、
俺も成美もこれを経験するのは初めてではない。
「ヒャッハー――!」
ガラの悪いバイクに乗った集団が周りに現れた。かつて暴走族と言われた存在に似ている。
目的はイマイチわからないが、サバに負荷をかけつつ、そこにいる人員を無差別に攻撃するプログラムらしい。
俺は奴らに囲まれるよりさきに、壁を駆け上がりすぐさまウイルスから距離をとる。
成美がいないなら、奴らと一戦交えるのもありだが、彼女が背にいてはそうもいかない。
俺のバイクは特別性で、色々とモッドを詰んでいる。
壁走りモーションやら、エアダッシュモーションやらバリエーションに飛んでいるのだ。
壁走りから、隣のビルへエアダッシュをして、俺は奴らをまいた。
ステーションにつくと、我先に帰ろうとする人ごみがそこにはあった。
「ふう、モッド詰んでてよかった」
「ありがとう、どうやら奴らのせいでバスとかも止まってるみたい」
成美がそういって、ヘルメットを外すと俺に渡した。
「今日ぐらい、隼人も帰らない?」
「いや、俺はいいよ——成美、早く行け」
「わかった、ありがとう」
成美が手を振って、ステーションへと入った。
「さて――」
俺はもう一度バイクを走らせて、奴らのもとへと向かった。