ファクトバーガー
「ふう、ついたついた」
バイクのエンジンをとめ、俺はヘルメットを外して店内に入る。
ファクトリーバーガー、かつて世界でも広大なシェアを誇っていた世界的大手ハンバーガーよりも早く、この電子世界に出店してその地位を確立した店らしい。
早々に電子世界でのノウハウ、また販路を切り開いたため、価格は非常に安い。俺の小遣いでも毎日通えるくらいだ。
店に入るとすぐに若い女の店員が俺に声をかけた。
「いらっしゃいませ、って隼人じゃない」
ポニテに店の帽子とコスチュームに身を包んだ女子が、俺のことを呼ぶ。
「成美、お前今日シフトだったのか?」
彼女は司城成美16歳、俺の幼馴染だ。俺は12歳からこの電子世界で活動していたが、彼女は14歳の時にこっちに来た。
なんでも電子世界ではバイトの年齢制限がないからという理由で、色々な費用をためようと成美はこちらに来たと言っていた。
「あんたもバイトの一つくらいしたら? 毎日バイクで警察と追いかけっこしてないでさ」
「余計なお世話だ、いつもの頼む」
やれやれといった表情で、彼女は手慣れた手つきで俺の注文を入力する。
『チーズバーガーセットポテトサイズアップ』ここで俺がいつも頼むメニューだ。
「今日は何時に終わるんだ?」
「あと1時間くらいで終わりよ」
俺の問いかけに成美が答えた。時計を確認すると深夜の1時に近づいていた。
「若いうちから夜更かししてバイト漬けはどうかと思うぞ」
「いいのよ、電子世界で労基法とか決まる前にできるだけ稼いでおきたいから」
余計なお世話と思いつつも苦言を言う俺に、成美が答える。
「しかたねえ、食べ終わるまで待ってろ。送ってやる」
「やりぃ、ありがと」
俺がそういうと、成美が指を鳴らしながら笑った。
「おまたせしました、ごゆっくりどうぞ」
マニュアル通りの応対をされながら、受け取ったトレイにはナゲットがサービスでついていた。
廃棄の近いものだろう。電子世界はあらゆるところがまだ緩い。
こういうのも当時の昭和っぽさなのかなと思い、俺は彼女の好意を受け取った。