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ホンモノの仕事とは何なのか、父は、何を聞いても答えてはくれなかった。
どこで何をしていたのか、どうして血まみれなのか、ホンモノということはニセモノの仕事もあるのか、私にはさっぱりわからなかった。
風呂場の洗面台には、血で濡れたスーツが丸めて置かれていた。
シャワーを浴びて出てきた父の身体は、傷こそ無いものの、全身が痣だらけだった。
服や身体を汚していた血液は、被ったものか、あるいは、吐いたものかもしれない。
父は自室でゆっくりと部屋着に着替えていた。
ピロロロローン。
父の携帯電話が鳴った。
ボロボロの身体で、覇気のなかった父だが、かかってきた電話には、声のトーンをひとつ高くして応答していた。
「はい、お世話になりますー。はい、ええ、ほおほお、それはまた大変ですねえ。ええ、こちらとしても、杉田様のお役に立てれば嬉しい限りでございますよぉ」
玄関から風呂場まで、廊下は血で汚れていた。
ナメクジの這った跡のように、糸を引いた血痕が輝く。
玄関の外はというと、不思議なことに扉の前に血溜まりがあるだけで、それがどこかへ続いているというようなことはなかった。
だから、私は血みどろの理由を、父が玄関先で帰宅と同時に血反吐を吐いたのだと睨んでいるのだ。
「ええ、あー、鈴守りですね。はい、もちろん、一つよりは二つ、二つよりは三つ持っていた方が、霊に対する抵抗力は高まります。はい、ありがとうございます。あと二つですね。代金の方は以前の振込先へ、入金確認次第、すぐにお届けさせていただきます」
父はにこやかに電話を切ると、糸が切れた操り人形のように脱力した。
「携帯持つのもしんどい」
そういってスプリングの硬いシングルベッドに身を投げた。
「鈴守り、二つ梱包。用意できたら、集荷を呼べ。送り先は……」
番地まで正確に住所を述べる。
「お前も15か」
天井を見ながら父が言う。
「献血がどうしてボランティア頼みか、わかるか」
突然を何を言い出したのだろう。
「臓器提供しかり、どうして対価を払わないと思う?」
「さあ、わからない」
「対価を払うと、それを売る奴が出てくるからだ」
全身の力を抜いて、喉だけを震わせて言った。
「自分のことを売る奴、他人のことを売る奴、どちらも出てくる。希少で欠かせない、それでいて無価値、そういうことにしておくんだ」
血まみれからの連想ゲームで、献血の話だったのだろうか。
「クラスメイトが自殺したって?」
「どうして知ってるの」
「これだけは言っておく。大事なことだ。自殺はするな。良いことなんかひとつもない」
「……うん」
「命は一つ、失えば戻らない、この上なく希少だ、しかし、価値は無に等しい。投げ売って、何かに換えようとするな」
「うん」
「何にもならん」
そう言って、思いついたように疲弊しきったはずの上体を起こした。
「金は別だ。できるだけふんだくれ。お前も一日も早く稼げるようになってくれ」
「………」
良い話の雰囲気がぶち壊しだった。
お前みたいな奴が臓器を売り、また、他人に売らせるのではないか、と思った。