5話 神戦前日/チーム表
神戦前日。第零。神戦の最終確認を行うために、各派閥の代表者が会議室に集まっていた。灯りとアロードは最終確認のために遅れて来るみたいだ。第零と第10の往復は魔力消費が激しい。遠隔も考えたが、灯りとアロードは直接来ると言って聞かなかった。
右上にある龍のマークを凝視する。すると、4件の新しいメッセージと開いたままだった神戦特集が自動的に開かれる。メッセージはどれも返信する必要の無いもの。だが……響衛からのメッセージには既読を付けた。部下を安心させるために返信をする。
神戦の特集には、確定したチームが表示されている。どこが優勝してもおかしくないかな。
1ルルカ 2カヤ 3アーサー 4ノア 5フロラ
3エルテイト 4ジーク 5ロア 1絶 1ダンテ
5ログダ 3アイリス 2楓真 3フローリア 4ルーカス
1帝 2ミハヤ 3ヴィルアート 4ルナ 5バートン
3メア 5セツナ 4藍 1月家 2奈落
2ホルクス 4刃茶 2ミラレヤ 5メロウ 1ガイア
驚いたのは、ルルカが第3世界の人間を選んだこと。何かしらの意図があると考えた方が良さそう。キング派閥、いや、ユラーゼ派閥が関与している可能性がある。横目でセイラを見るが、爪を研いでおり、表情が髪に隠れて見えない。正面に座っているキングは、本を読んでおり吞気なものだ。ブックカバーで本の題名は見えない。
ユラーゼ派閥はセイラと凛。キング派閥はキングとカガリ。千年前と比べると、どうしても見劣りする。龍恩派閥が最弱だった頃の方が自由に生活が出来て楽しかったなぁ。
神戦は優勝チームを予想する必要がある。セイラはノアのチームを選んでいる。キングは帝のチーム。帝は突然現れた人間だ。情報は全く無く、ダンジョンのみで序列を上げていると報告されている。
龍恩派閥としては……圧倒的にルナチームだね。だが、目立たせたく無い。月家とメロウは裏で動くことが好きなタイプだ。2人の行動は手に取るように分かる。絶対に、表舞台にルナを推すはずだ。だから、龍恩派閥としてはルルカチームかなぁ。
扉が勢い良く開くと、灯りとアロードが会議室に入って来る。2人共、ガチガチの装備であり、灯りは動きやすさ重視。アロードは魔法使いとして杖を片手で持ち、用途の違う杖を2つ背負っている。
「遅れましたぁ~」
勢いよく椅子に座る灯りと杖を壁に立て掛けるアロード。第零を支えている2人だからこそ、他の神も多少の遅刻には文句を言えない。
「アーク王国の森に拠点を建てました。拠点の鍵は神であることです。人間に教えないでください」
「お疲れ様」
全員が座ったことを確認し、龍恩が会議を始める。まず、各派閥の役割を確認し、誰が仕事をするのか話す。ユラーゼ派閥はセイラと凛のみで仕事をするつもりらしい。予想通りなので、仕事は少なめにしておいた。この神戦が終わってから働いてもらおう。
「それで、出場者の管理は龍恩派閥が行うことになっている。肉体は神と同様で、心臓部に黒色の魔石を使用する。痛覚を感じないように魔法陣を組み込んである。死んだら魂は第零に転移され、第零に保管している肉体に魂を移す。いつもの神戦と同じで、1回死んだら神戦は終わりって感じだね」
役割の確認を終え、恒例の神から見た優勝候補を神戦特集に追加する。
「……え?ルナチームじゃないの?」
灯りが隣に座っている龍恩を睨む。灯りは真っ直ぐな子だ。常に今を大切にする考え。未来を予測しながら動く龍恩とは考えが合わない。
「戦力だけで見たらルナチームが優勝候補だと思うけど、月家とメロウだよ?絶対に神戦に興味無いでしょ。優勝しても、願い事は無いからルナに権利を渡すって言いそうでしょ」
本心は語らない。アロードも龍恩の考えを理解しているため何も言わない。灯りは脳内で月家とメロウの声で龍恩の言葉を再生する。完全に一致した。
「ああ~やる気無さそ~」
「言い過ぎだろ」
アロードは他の神を見ながら龍恩と灯りを止める。神戦の準備をしている神に失礼だと考えた。セイラは気にしてないと手を払う。凛は剣を磨いており、話なんて聞いていなかったみたいだ。本当に自由な神達だ。
「じゃあ、会議はお終いかな。僕達3人は第10にずっと居る予定だから、何かあったらメッセージよろしく」
そう言って龍恩の転移魔法で3人が消えていく。会議室には、ユラーゼ派閥とキング派閥が残る。
「セイラ」
帰る準備をしているセイラにキングが声をかける。セイラは話したことの無い男から呼び捨てにされたので不愉快だと感じている。凛も殺気をキングに飛ばす。先程まで研いでいた剣をキングに向けた。
「喧嘩するつもりは無い。ユラーゼ派閥からの感謝を聞きたくてな。ノアとカヤ。ランスロットと柚なんだろ?それで、五知と師檻が第10の管理者。ユラーゼ派閥の復活を実現させたのは俺だ」
ユラーゼ派閥について知らないが、龍恩がランスロットに反応していたこと思い出す。恐らく、ユラーゼ派閥の大切なポジションに居た人物なのだろう。
だが、想像していた空気感では無かった。セイラは視線を逸らし、凛は苦笑いをしている。カガリはキングの陰に隠れた。
「ユラーゼ派閥はユラーゼがリーダーだから成り立った組織よ。ユラーゼが死んでから、ランスロットと柚は後を追ったわ。だから、私たちもどう接して良いのか分からないの」
セイラの言葉は重みを含んでいる。キングに恩を売らないための虚言では無い。
「それに、セイラと師檻はユラーゼが死んだ後に失恋してるからね~」
凛の口を塞ぐために、セイラは思いっ切り床を蹴る。そして、凛に触れた瞬間に転移魔法を発動した。会議室にはキング派閥が残されてしまった。
「思ってたのと違う」
心の底からそう思う。カガリも感じていたようで頷いて反応する。
「失恋ってなんだよ」
「あの感じは……ユラーゼに振られてますね」
ユラーゼと名乗るのも良いかもしれないな。神戦はユラーゼ派閥で固まるだろう。師檻と仲良くすることで五知とも繋がりが出来る。
「俺もそう思う。(神戦を)どう立ち回ろうか」
監視カメラを警戒し、場所を変えることに決める。会議室には誰も居なくなった。夕暮れの明かりが部屋を刺す。監視カメラなど最初から止めてある。セイラと凛を殺すことを考えたが、使える心情を持っていた。都合が良い。
認識阻害の魔法を解くと、ヴィルアートとエルテイトが現れる。龍恩が座っていた席にヴィルアートが座り、キングの席にはエルテイトが座る。
「この神戦はキングに力を貸さない。エルテイト、良いね?」
「は~い」
「それと、俺はルルカチームと合流するから安心して良い。ルルカチームは優勝を狙える。力を貸してあげなさい。願い事は透明の魔石にしよう」
システムを見て、警戒するべきチームを考える。帝チームの優勝は絶対に有り得ない。ルナチーム、フロラチームは1人戦力にならないことを考えると、ノアチームとカヤチームのどちらか。キングの動きで大分盤面が変わってくる。
「もし、邪魔だったら出場者を殺しても良い。死んでも神戦に参加出来ないだけで、自世界で復活するからな」
「理解した」
エルテイトの声質が変わる。魂の暴走をお互いに経験しているので、普段は感情を抑えている。他人を演じることで感情が暴走しない。
「俺はキングの支配を調整してくる。ロゼミ、頼んだよ」
「バルドラグも気を付けて。神戦で会いましょう」
互いに前世の名前で呼び合う。お互いに封印していた人格が現れる。
会議室の明かりが消え、真っ暗になる。様々な思惑が交錯した神戦。
第1では、システムとしての矜持を示そうとする者。
第2では、魔法の才能は無いが、神になるためにどうしても優勝したい者。
第3では、幼馴染の隣で神王になると宣言した者。
第4では、目の前で寝ている娘の活躍を願っている者。
第5では、神戦など興味が無く、森の中で龍と共にバーベキューをしている者達。
龍恩はシステムを閉じ、肉体の準備をする。ルナチームには、龍恩派閥の魔法陣を刻む。龍恩の加護。これで、居場所が分かる。もし、行方不明になったら、龍恩派閥の出番だ。
第5の魔法屋。システムの時計は23時59分。全世界の時刻は統一されていると聞いている。転移先が昼だと嬉しいな。
「あと少しかぁ。1巡目に指名されたから頑張らないとな~」
セツナの弱々しい声。珍しい姿にフロラは笑う。8歳下の子に笑われてるぞ。
「フロラ。何回も言ってるが、魂を用いた魔法は記憶を消費して効力を発揮する。どれだけ才能に恵まれていても、自分を大切すること」
才能を持っている者は何かしらの業を持っている。腐敗した世界に英雄が現れるように、世界が優秀な魂を求めることがある。だが、人間社会というのは、優秀な魂を持った1人だけで世界が変わるほど単純なものでは無い。
魂のレベルが低かろうが、世界から見たら大切なピースの1つ。各々が普通に生きていれば、世界は良いほうへ向かいかう。まぁ、この普通が難しい。人間は環境に適応するために変わる生き物。環境が複雑化すればするほど変異が起こる。世界や神でも予想出来ないことが起こってしまえば、未来を見通せるスキルを持った者でも分岐が曇る。きっと、エリーさんが想定していた未来とは異なっているはずだ。そう言えば……エリーさんに託された願いを忘れてしまったな。
「私を心配してくれるのは、メロウさんしか居ませんよ」
時計の両針は0を指す。フロラは足元に転移魔法陣が展開されたことを確認し、メロウの頬にキスをする。普段出来ない大胆な行動。転移魔法のお陰で素直になれた。
フロラは光となって消えた。リーダーから転移が始まるみたいだ。
「メロウって女誑しだよね」
しっかり見てくれていないと出来ないアドバイスをしてくれる。落ち着いた性格と整った顔。膨大な魔法の知識。多くの冒険者がメロウを信頼している理由が分かる。女性冒険者と関係を持つ気が無いのに、深く関わるところは……直して欲しい。
「うるせぇ」
適当に返事をするメロウを見て微笑む。セツナにしか見せない素のメロウ。気を許している特別な存在だと思ってくれていると妄想する。乙女のような表情をしているセツナもメロウの虜にされた1人だった。足元の魔法陣を見て、神戦が始まることを悟った。
セツナは静かに転移して行った。2巡目の転移が始まったか。3巡目に選ばれた俺は魔法屋を見渡す。窓には魔法陣が描かれており、防犯対策は完璧だ。神戦から帰ってきたら死体が転がってるかもしれないな。龍も魔法屋に居ると言っていたから心配は必要無いか。
足元に魔法陣が展開される。神戦は初めてだ。第5の出場者として、5位以内には入りたいな。まぁ、リーダーのルナ次第だ。体が光となって消える。消える直前、窓ガラスから見える龍の鱗は月夜に反射していた。