4話 響衛との雑談/神戦指名
響衛
トラモダンジョン協会。ダンジョン協会は世界で1番安全な場所と言われている。建物の中で魔法が使えないからだ。それに、ダンジョン協会の所有者は世界を管理している神。犯罪を侵そうものなら、神直々に審判が下る。封筒の束をセツナに渡し、メッセージを見ながら目的の場所へ向かう。
会議室5。扉を開くと、会議室の用途で使われていないことに気付く。武器や魔法陣が描かれたポスター。大量の本が本棚に置かれている。
大きな机に、豪勢な椅子に座っている男が第5を管理している神。響衛だ。
「よく来たね。そこに座りなよ」
用意された椅子に座る。ふかふかでキャスターが付いているので、回転して遊べるな。
「それで、要件は何ですか?」
「神戦の話と世間話かな。どちらから聞きたい?」
響衛は雑談が好きなタイプの人間だ。話が逸れることは目に見えている。世間話は後回しだな。最悪、話を遮って予定が出来たと逃げれる。
「神戦の話から聞きたいです」
「……やっぱり、世間話からしようかな~」
「何で聞いたんだ?」
「後で繋がってくるから!?ごめんって!!」
メロウの威圧は神にも効くほど。足を組んで訪問者を待ち構えていたが、メロウと話をするに連れて姿勢を正していた。メロウは神戦の特集を開く。どういう人物が選ばれているのか再確認する。俺が選ばれているのは不自然だ。それに、序列4桁の人間が選ばれているところを見ても、この神戦は何かしらの基準で選ばれている。各世界で基準が違うのか?響衛に聞いておく必要がある。
一応、神としての威厳が必要だ。システムを操作しているメロウを見て、咳払いをする。だが、全く動じない。本当に肝が据わっている。
「神は個人のステータスを見ることが出来る。だが、スキル、魔法適正、身体能力は見ることが出来ない。個人情報は保護されていて、死後にシステムのみが確認出来る。それは知ってる?」
システムを開き、ステータスを確認する。
メロウ
【召喚龍】【森羅万象】【ガーデン】
25歳 男 第5世界 魂レベル10
第5世界序列729位
身体能力と魔法適正は違うところから見る必要がある。個人情報を確認出来ないなら、どこで判断するのか。まず、序列だろう。神や世界が評価している順になっているはずだ。後は、魂レベルか?
「知らなかった。神戦はどうやって選んだんだ?」
流れとしては完璧だ。誰が出場者を選んだのか。神戦はどのような基準で選ばれたのか。
「まぁ、他の神も入れ知恵してるみたいだから言うけど、第5はフロラが最初に選ばれている。17歳にして序列1位だからね。次は派閥推薦。ここで、メロウは選ばれてる。第4のルナは龍恩さんが選んでいるみたいだ。後は、序列と魂レベルで決められている」
思ったよりも話してくれている。俺が2番目に選ばれたと。龍恩派閥の誰が俺を推薦したのか気になるが、深入りすべきではないだろう。
「なるほどな。理解した」
メロウの言葉に安堵する。メロウの信用は勝ち取りたい。これから龍恩派閥として生きていくならば、絶対に必要な条件だ。
「今の26歳、25歳、17歳は魂レベル10が多い。26はルルカ。25はノア、カヤ。17はルナ、フロラ。龍恩派閥は、この5人を元神だと推測している。勿論、メロウも目を付けられているよ?」
笑いながらメロウを見る。システムを操作していた手が止まっていることから、情報の整理をしているのだろう。鋭い推理力を持っているメロウなら、第零で何が起こっていたのか気付くかもしれない。
「それで、何が言いたいんだ?」
「世界は魂レベルの平均を5に設定されている。魂レベルが高い者が居るならば、低い者も発生してしまう。才能を持っている者が先導しなければならないよ」
響衛の言葉から読み取れることは、魂レベルが低い者のためにも、俺が先導する役目を果たせ。神戦の話を聞きたく無いな。絶対に面倒なことを押し付けられる。
響衛の考えも分かるが、俺は違った考えを持っている。わざわざ、魂レベルの平均を定めているということは何かしらの理由がある。魂レベル10が大量に居た世界が滅びているとか……ありそうだな。
それに、魂レベルが低いからと言って何も出来ない人生を歩むのか。違うな。才能が無ければ、他の事をすれば良い。適材適所。ダンジョン協会も理解して、難度を設定しているはずだ。全ての人間に役割がある。魂レベルが高いからと言って、先導する立場にあるのかというと疑問が浮かぶ。才能主義は世界の考えに反しているだろう?序列に人への影響力が含まれている点を見ても明らかだ。
真に受けることは止めておこう。もしかしたら、響衛の考えじゃないかもしれない。神戦の話を聞いてから判断するべきだろうな。
響衛
「神戦の話を聞こうか」
「この神戦は不自然な点が多い。まず、参加世界が少ない。そして、各世界対抗ではなく、他世界の人間とチームを組む必要がある。このルールになった理由をメロウに話しておこうと思ってね」
豪勢な椅子から立ち上がり、本棚から1冊の本を取り出す。本の題名は、龍恩神会議事録。魔法陣が描いてあるので解析すると、自動書記と言ったところだろうか。直接書く訳ではないらしい。響衛はページを捲って探しているので、気になった事を質問する。
「第3世界の未知数って何ですか?」
「あれはね……失礼の無いように話さないとなぁ。え~と、ユラーゼ派閥と言うべきではないか。元ユラーゼ派閥の五知とセイラが管理者として選ばれたんだけど、、う~ん。管理者権限が何者かに奪われたらしいんだよね。あはは」
「なんか、すみません」
困った顔で話す響衛に自然と謝罪が出る。ユラーゼ派閥と聞くと俺が悪いみたいになるじゃないか。ユラーゼという名前は、第1世界で結構居たぞ。どうせ、他人だ。
「あった。第1から第5にしたのは、キングだ。他世界の人間とチームを組むようにしたのは……セイラだ。キングが出場者として出るという噂があったらしく、キング派閥が固まることを恐れた龍恩とセイラがルールを決めたって書いてるね。アロードが記しているから間違いない」
本を閉じ、メロウを見る。嫌そうな顔をしている彼を見ると、アロードを思い出す。常に未来を予測して動いている者。龍恩さんもそうだった。意図を汲み取り、自分の役割を理解し仕事をしていた。あの2人と同じ様に見えるメロウは神になっても上手くいくだろう。いや、それ以上か。
「キングが神王に固執しているという噂も聞くようになった。この神戦は危険だ。もしかしたら、神戦の途中に龍恩派閥対キング派閥の殺し合いが始まるかもね。ユラーゼ派閥も復活傾向だし、出場者も異常なほど強いし。カオスだよ」
「神戦は神も第10に来れると書いてありますけど、ルールを変えた方が良いんじゃないですか?」
「神戦は各世界の上澄みが選ばれる。元々神戦は……派閥に勧誘するために作られているんだ。だから、このルールが無ければ神戦の体裁を保てない。龍恩さんは保守的な考えだから大幅な変更を嫌う」
響衛は手を軽く振って、疲れている様子を見せる。普段は第零に居ると話していた気がするから、響衛も大変なんだろう。
「まぁ、龍恩派閥の出番は無いでしょうね。出場者の中で解決しますよ」
響衛の動きが固まる。驚いたようにメロウを見て、2回頷く。メロウの言葉と、アロードから言われた忠告。
「ありがとう。頼んだよ」
机の上に置かれていたコートと帽子を身に着ける。壁際に置かれていた剣を腰に装備し、絨毯に描かれた魔法陣の上に立つ。複雑な魔法陣は転移魔法だろう。
「神戦の準備で第零に向かうからよろしく。神戦頑張ってね。後、アロード先輩にもよろしく」
光となって消える。アロード先輩か。先程は呼び捨てだったが、どうやら上下関係があるらしい。嫌な役割を引き受けてしまった。キング探しから始めるべきだな。まぁ、明日のチーム決めで考えよう。
会議室を出て、ダンジョン協会のロビーへ向かう。セツナがダンジョン協会の服装で働いている姿を見て、学生の頃を思い出す。セツナの夢が叶うとは予想していた。だが、魔法屋でも働くなんて思っていなかった。男除けなんて笑っていたが、同棲すると言い出した時は覚悟を決めたぐらいだ。フロラをどうしようか。一夫多妻制は認められているが……王族相手にしたら殺されるだろ。
翌日。魔法屋には、仕事帰りのセツナと学校の制服を着たフロラが居る。窓から見える外は薄暗く、フロラは転移魔法で城まで帰るのだろう。
システムには中継がされており、可愛らしい声と低い声が聞こえて来る。システムの音は、脳内に直接届く感じなので、慣れる必要がある。
「始まりましたよ!」
フロラは年相応の動きをしている。少し幼く見えるのは、魔法を使い過ぎているせいだろう。記憶が消え、魂が若返るので、肉体も魂に合わせるために若くなる。だからと言って寿命が増える訳ではないのだが。
中継のページを大きくすると、左下に司会は灯りとアロードと書かれている。龍恩派閥が中継か。早速、チームを決めるみたいだ。画面には10人の名前が表示される。
1ルルカ 2カヤ 3アーサー 4ノア 5フロラ
1帝 2ミハヤ 3ヴィルアート 4ルナ 5バートン
左の数字は所属世界の数字だろう。フロラとバートンは第5世界で生きている。
「メロウさん!私の名前ありますよ!」
「凄いな。家庭教師として誇らしいぞ」
「確かに、凄い」
メロウは魔法担当、セツナは学問担当としてフロラの家庭教師をしていた。この3人で居る時間は長く、和やかな雰囲気が魔法屋に漂っている。
『ではでは、ルルカの指名が始まりましたぁ。早いですねぇ、第3世界のエルテイトを選んだみたいです』
すると、ルルカの名前の下に所属世界と名前が表示される。最初から第3世界の人間を選ぶなんて面白い指名の仕方だ。
フロラを見ると、エルテイトを選ぶつもりは無かったらしく、自信満々の表情でメロウとセツナを見ていた。
第3世界のアーサーはロアを選んだみたいだ。ロアの序列は3位。早く選ばれるのは納得出来る。
ノアの指名が終わり、フロラに回ってくる。フロラは迷いも無く、ダンテを選んだ。名前を押すだけらしく、操作を見ていたメロウは出場者の情報を見る。火力という文字だけで判断しただろ。
「何でダンテを選んだんだ?」
「ちょうど、固定砲台が欲しいと思っていたので」
「フロラも後衛でしょ」
「ああ、そうだったぁ……」
失敗してるじゃねぇか。右手を一生懸命動かしている姿を見て笑ってしまう。多分、前衛を探しているんだろうな。
第2世界のミハヤはセツナを選んだ。序列を効率良く上げるには、ダンジョン攻略が主流。ダンジョン協会長と書かれていることからダンジョンに詳しいと考えたのだろう。
トラモ城。バートンはロア、ログダと共に居た。ロアが3番目に選ばれたからか、余裕の笑みを見せていた。ログダは手を合わせて擦っており、時折、机に頭をぶつけている。落ち着かない。
順番がバートンに回ってくる。予め決めておいた出場者はまだ残っている。本来ならメロウを指名したいが、他世界縛りがある以上、仕方なく奈落を選択する。
「ふふ、序列で選んだのね。大剣使いなら前衛。役割が被るでしょ」
うるせぇ。喉元に込めた空気をゆっくりと吐き出す。煙草に火を点け、隣のログダを見て冷静さを取り戻す。ヤバい奴を見ると落ち着くな。
『では、ルルカお願いします!』
中継から灯りの明るい声が聞こえてくる。すると、ログダが立ち上がる。
「良かったぁ。ルルカさんのところだぁ!全世界最強と一緒だぁ!」
『第5世界のログダを選んだか』
低い声が遅れてやってくる。中継にラグがあるのか。雄たけびをあげているログダを横目に考えることが増えた。さて、残っている前衛は誰かな。
第4世界。ダンジョン協会の会議室には、龍恩、ルナ、ルーカスが座っていた。ルナは出場者一覧を見て、選ばれていない出場者を紙に書いていた。
「フロラか。優れた感覚を持っているな」
ルーカスの酒を飲む姿に龍恩は笑う。ダンジョン協会は飲酒禁止なんだけど、と心の中で呟く。
「ルーカスは序列3位だからね?もっと早く選ばれてもおかしくないよ」
龍恩の建前。魂レベルを見たら、最後に選ばれてもおかしくない。特に書くことが無かったので、社会的地位を書いておいた。選ばれたのは、僕のおかげだったりして。
指名は順調に進み、ルナに選択権が与えられる。残っているのは、メロウとガイア。バートンとメロウは第5なので、一緒のチームにはなれない。自動的に決まった。
「もし、メロウとガイアを選べたらどっち選んだの?」
「ガイアさんです。序列は9位で、第1世界出身ですから。第1と第5は天と地ほど差があると書物に書かれていました」
ルナの記憶では、第1が最強だった。神の6割は第1出身。ラスティナ、ユラーゼ、エリーという最強が育った世界だ。
龍恩はルナが持っている本を凝視する。ダンジョン協会内にある図書館のマークが表紙に見える。その本って、何千年前のやつ?
「俺はメロウだな」
酔っぱらっているが、ルナの話を聞いて冷静になっているのか。地面に倒れ込んでいたはずのルーカスは、ルナの隣に座る。
「序列は3桁で後半。龍恩派閥推薦も何かしらの能力があるから。ルナとの共通点が多い。それに、魔法屋さんって書いてあるだろ?多分、女の子の神がメロウを選んでいる。容姿が優れている可能性が非常に高い。若い子は容姿で判断するからな。龍恩派閥推薦なら、神になるかもしれない」
鋭いルーカスの意見。ルナは納得した表情を見せ、龍恩も頷く。満足したルーカスは再び地面に寝転がる。酒癖が悪くなければ、序列1位の器。本当に残念だ。
「正解だよ。ルーカスが言っていることは全て真実だね。メロウを選び、紹介文を書いたのは灯り。容姿も優れていて、人への影響力だけで729位。龍恩派閥じゃなくても神になるポテンシャルを持っている」
龍恩が人間を褒めることは珍しい。メロウという名前を聞いた時に悪い顔をしていた。それで、男嫌いの灯りが積極的……ガーデンメンバーか……私が死んだ後に作ったパートナーか。龍恩を弄るために本心は隠す。前世の記憶を持っていない、普通の人間を演じる。
「そんなに凄い人なら、どうして、左側の数字を1にしなかったんですか?」
凄い親子だね、と心の中で呟く。出場者一覧の数字は龍恩とセイラで決めた。ルナを2にしたのは龍恩。神戦を経て、序列を上げさせたいから。そして、メロウを6にした理由は、ユラーゼ派閥が復活して欲しくないから。メロウは龍恩派閥で働く方が良い。その方がガーデンメンバーも幸せなはずだ。灯りとアロードは喜ぶだろうなぁ。
「龍恩さん?」
「……メロウは知る人ぞ知る人間だからね。目立たせたく無かったけど、龍恩派閥として神戦には参加させたかったみたいな?」
ルナはメロウを評価する。恐らく、龍恩派閥になる人材。将来、一緒に働くかもしれない。神戦に興味は無かったが、1つの目的が出来た。メロウと仲良くしよう。
龍恩は席を立ち、会議室の端にある転移魔法陣に魔力を流す。
「じゃあ、神戦楽しみにしてるよ」
「は~い」
光となって消える寸前。ルーカスが立ち上がったことを視認する。僕の言っていることをしっかりと聞いていたらしい。相手にしたくない天才だ。
次話で神戦のチーム表が出ます。