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ノーマーカー  作者: 夏乃夜風
メロウ編
1/55

1話 第零/キング視点

主人公は出て来ません。1回目の神戦は、1話が重要になります。



 第9世界。商店街の路地裏に鮮血が散乱していた。心臓部には黒色の魔石が埋め込まれており、神であることが分かる。


「キングさん、スキルは何を手に入れましたか?」


 真後ろから丁寧な言葉が聞こえる。低く、威圧感のある言葉に体が硬直した。誰も居ないことは確認していた。どこからやってきたのか。恐らく、転移魔法だろう。音の鳴らない魔法。暗殺に向いている。


「【召喚龍】ですよ。知っているでしょう?」


「ええ、勿論。少し会話がしたいと思いまして、【暴食】を使った後に声を掛けただけですよ」


 後ろを振り向くと、黒のスーツを着た好青年。そして、商店街の方から少女が覗いている。2人共、神である。


「キング派閥の誰かが迷惑をかけたか?」


「いいえ。キングさんについて話そうと考えていました。そろそろ、第零の序列が上がりそうだと思いまして」


 視界の左端を凝視すると、様々な情報が溢れ出る。一般的には、システムと言われている。肉体に備わっている機能であり、他の人は見ることが出来ない仕様になっている。


 システムから第零の序列を調べると、キングは2位と表示されている。1位は龍恩。千年近く1位をキープしている化け物だ。ただ、勢いは衰えており、変革を望む者が多い第零には合わない。第零に居る神はキングを望んでいる。


「【召喚龍】も手に入れた。俺は龍恩さんの上位互換だろうな。あと少しで1位に成れる」


 返り血で服が汚れている姿を見て、ヴィルアートは微笑む。周りの人間を利用し、時には犠牲を厭わない。支配している罪悪感が湧かない稀有な存在。実力も才能も十分だ。


「そう言えば、神王という称号はご存知でしょうか」


 神王。千年前に出来た称号だと聞いている。第零のシステムを書き換える権利を与えられるらしく、多くの神が血を流した。最終的には、ユラーゼという神が持っていたらしいが、魂の暴走で処刑。その後、神王を持つ者は現れなかった。


「聞いたことならある。だが、神王という称号が今もあるか分からないだろ」


「ありますよ。システムの方に教えて貰いました」


 笑顔で恐ろしいことを話す。システムと神は分離していなければならないと言われている。システムは神を監視する役割を担っているからだ。システムから情報が漏れるということは、本来あってはならない。


「その方の言うことが正しいなら、キングさんは、あと少しで神王に成れます」


 隠れて聞いていた少女がキングに駆け寄り、1枚の紙を渡した。紙にはユラーゼのステータスが書かれている。



ユラーゼ“神王”


【召喚龍】【森羅万象】【ガーデン】


430歳 男 第1世界 魂レベル10


第零序列1位



「神王は、2人しか成っていません。初代神王のラスティナ。そして、ユラーゼ。ユラーゼは、才能に恵まれているというわけではありません。人への影響力が他の者に比べて桁数が違ったとか。ラスティナ、ユラーゼに共通している固有スキルは【森羅万象】です」


 ヴィルアートはシステムを人差し指で操作する。誰かにメッセージを送っているように見える。少女は何も言わず、ヴィルアートの隣に立っている。


「【暴食】は1年のクールタイムがあるんだぞ?何故、言わなかった」


「まぁ……龍恩さんと本気で戦う機会が現れるかもしれません。魔物を支配する力は持っておいた方が、物事がスムーズに進みます」


 歯切れの悪いヴィルアートを見て、他の理由があると察する。ただ、深く踏み込むことはしない。スキルは持っておいた方が良い。それに、1年という期間はあっという間に進む。


「1年後に【森羅万象】を手に入れることが出来たら神王に成れるんだな?」


「そうです。神王に成れば、第零を支配したと言っても良いです。だよね、エルテイト?」


「ん……?そうですね」


 エルテイト。会うたびに見た目が変わっているので、誰か分からなかった。ヴィルアートの穏やかな目を見ると、家族だと推測出来る。もし、ヴィルアートと戦うならエルテイトを盾に脅すのも悪くない。


「ただ、【森羅万象】を持っている者は滅多に居ません。龍恩ですら持っていないレアスキルですからね」


 ヴィルアートの言葉で理解する。龍恩は【森羅万象】を持っていなかったから神王に成れていないのだろう。ヴィルアートなりに情報を共有してくれている。


「第零では【暴食】を使えない。世界からペナルティを貰うからな」


 キングの言葉を待っていたと言わんばかりに、ヴィルアートはエルテイトの肩を叩く。エルテイトが魔法陣から1枚の紙を取り出す。そして、キングに風魔法で飛ばす。


「なら、第10に居る、元ユラーゼ派閥の五知を狙うのが良いでしょう。人間の頃に魂の暴走があり、魂を損傷しています。魂を用いた魔法は使えず、魔力量も並み。身体能力は62。戦闘能力では人間にすら劣ると言えるでしょうね」


「考えておく。とりあえず、1年待たないといけないからな。今日は神会議があるんだ。龍恩と雑談でもしてくる」


「では、私たちも失礼しましょう。エルテイト、手をつなぎなさい」


「は~い」


 2人の体は光となって消える。最初の威圧的な雰囲気から親子のようなやり取り。落差が大きく、体が硬直したままだった。後ろを振り返ると、鮮血は綺麗に消えていた。神の肉体に含まれている血は魔法で作られている。魔法は空気中に消えるもの。落ちている魔石を拾って、剣に吸収させる。


『転移魔法』


 キングの体は光となって消える。静かだった路地裏に、商店街の喧騒が戻って来た。微かに龍の咆哮が聞こえた気がする。





 第零。ガラス張りの建物へ転移した。会議室を覗くと、既に龍恩とアロードが待っている。キング派閥の席には、禄登勢が座っている。


「禄登勢、今日は俺も参加しよう」


「ええ、待っていましたよ」


 定期的に開かれている神会議。神会と略されることもあるらしい。雑談がメインらしく、キング派閥が出来てから数回で代理を使っている。雑談には興味が無い。


「本題から入ろうかな。究極の人手不足。世界を10個も維持出来ないと現場から聞いている」


 龍恩は茶化すように話す。だが、龍恩の目は笑っておらず、キング派閥へ鋭い視線を向けていた。禄登勢が微かに震えるほど。常人なら耐えれない威圧だ。


「これは八つ当たりなんだけどね。あぁ、あの時にユラーゼを殺さなければ良かった」


 空気が悪くなったと感じたのか、自責を始める。切り替えの早さ、周りを見ていることは評価出来る。同じ派閥主として参考になるところだ。


「ユラーゼさんが死んだら第零は崩壊すると、龍恩さんを説得しましたよね?」


「でもさ、僕の立場を考えて欲しい。龍恩派閥は第零創設時から続いている伝統的な派閥だよ?1万年も続いている派閥が第零の規則を破れないって。それに、龍恩の名を貰ってから500年も経ってなかったし」


「じゃあ、俺を悪者にして転移させた方が良かったですね」


「いやぁ、僕もリーダーとして背負うべきなんだよなぁ」


 雑談が始まってしまった。千年前はキングも禄登勢も生きていない。会話に参加出来ず、暇を持て余す。システムを見ると、神戦の出場者候補が送られて来る。


「神戦があるのか?」


 キングの言葉に龍恩が反応し、システムを操作する。アロードは机に肘を付いて操作しているようだ。


「届いたね。とりあえず、この神戦を行う理由を説明しておく」


 姿勢を正し、キングと禄登勢に視線を送る。色々と文句を言いたいが、グッと堪える。立場が無ければ、キングを殺していたと心の中で笑う。


「第1から第5を合併しようと考えている。この神戦を通じて、第1から第5の出場者を仲良くさせたい」


 だが、出場者候補には、第6から第10の者達も含まれている。各世界から出場者を3人選出するみたいだ。


「仲良くさせることが目的なら、第1から第5までで開催すれば良いだろ」


「それは神戦の意義を否定することになる。神戦は、各世界の文明を均すことが目的として作られている。それに、神戦の優勝者に与えられる権利は、世界バランスを簡単に変えてしまうから…」


「神戦を始めた頃は世界バランスがバラバラだったんでしょう。ですが、今はバランスが良い。龍恩さんは慎重過ぎますよ」


 禄登勢が珍しく反論する。すると、キングに視線をやり、言ってやったとドヤ顔をしている。どうやら、キングを盾に今までの鬱憤を晴らしたようだ。メッセージで止めろと送る。あと少しで神王になれる。神王に成れる?あれ、誰から神王になれると言われた?


 禄登勢から分かりましたとメッセージが届く。すると、第零内でアンケートが始まる。次の神戦を第1から第5の出場者のみで行うことに賛成か反対か。禄登勢を睨むと嬉しそうに頷く。本当に息が合わない。


「じゃあ、第10でやりましょう。ユラーゼ派閥でしたっけ?残党が人間を支配していると聞いています。これは神として見過ごせません。神戦がてら潰しましょう!」


 禄登勢の言葉に3人が反応する。キングはユラーゼ派閥の残党。つまり、五知が第10に居ることを調べている。もし、神戦であれば、違和感なく接触出来る。


「アロードは、どう考える?」


 珍しく、龍恩は自分の意見を述べない。何か言えない事情があるのか、考え込む仕草を見せている。


「第10はユラーゼ派閥が作った世界。他の世界に遅れを取っていたから、五知と師檻が文明の発展に力を貸したところまでは知っています。既に第10のランキングは……9位です。そろそろ、第零に帰って来させて仕事をさせましょう。他のユラーゼ派閥も来るでしょう」


「同意見だね。それに、ランスロットと柚が人間として転生してるらしいし」


「ノアとカヤですか?」


 アロードも噂で聞いていたらしい。しっかりと名前を憶えている。


「そうそう、ノアは【ランスロットの加護】持ち。カヤは神にしか使えない魔法を乱発してるって聞いてる。そして、セイラのお墨付き。2人は確定で元神だね」


 龍恩は楽しそうに話す。だが、目は笑っていない。時折キングを睨み付け、システムを見る。一連の流れにキングは違和感を抱いていた。


「多数決の結果、第1から第5の出場者のみで神戦を行うことに決まりました。キングさん!圧倒してますよ!」


 吞気な禄登勢を横目で見て、スムーズに行き過ぎている現状を俯瞰する。そもそも、何故、第1から第5を合併するのか。人手不足から管理が大変だと自然に考えてしまっていた。管理という面で見れば、2つの世界ずつ合併すれば5つの世界になる。6つの世界よりも、管理は楽なはず。


 誰かが思い描いた展開になっている。こう考えれば、龍恩の様子がおかしく、俺を警戒していることに理由出来る。アロードと禄登勢は気付かない。これは派閥主であり、第零序列1位、2位の勘が違和感を警告する。


「キングさん?」


「悪い、少し考え事をしていた。龍恩、今の第零は変化を求めている。神の考えを理解出来ない者は神王にはなれない」


 軽く牽制をする。龍恩は片手を払う仕草を見せ、呆れたようにため息をつく。


「神王になるつもりはない。それに、変化を求めた結果として、世界を維持できないという問題になっている訳だけど……理解してるかな?」


 盛大な皮肉を吐く。仕事をしないユラーゼ派閥、キング派閥。どこにも所属していない神。ユラーゼに殺されれば良かったのに、と心の中で呟く。


 キングと禄登勢は何も返事をしない。何を言っても負ける話だと分かっているからだ。沈黙が続いたところで、会議室の扉が開く。1人の美少女が龍恩の隣に座る。


「神戦らしいじゃん。また、中継係でしょ」


「ちょうど、灯りを呼ぼうとしてたんだよね。お願いしても良いかな?」


「勿論、良いわ。第7世界も魔族が圧勝したせいで、戦争は起こらなさそうだし」


 灯りは第7世界を管理している。第7世界レベルランキングは1位。圧倒的な個々の強さが売りの世界と評価されているらしい。


「執慈ちゃんは生きてる?」


「それは前世の名前でしょ。今の名前はレンよ。レンは戦争に参加してないから生きてるわ」


「まだ、家事やってるんだって?」


「そうよ。王族として生まれたのに、家事を自分でやってるみたい。やっぱり、執慈って変わってるよね~」


「変わってるな~」


 また雑談が始まってしまった。これだから、龍恩派閥と話したくないんだ。知らない人間で盛り上がれるわけないだろ。


「第10世界で神戦を行う。ユラーゼ派閥の復活を願ってな」


 席を立ち、会議室の扉を開こうとすると、ドアノブが勝手に動く。見覚えの無い神がキングを素通りして、龍恩の元へ歩く。


「お久しぶりですね。龍恩さん」


「久しぶり。セイラが第零に来るなんて珍しいね」


「この神戦でユラーゼ派閥が復活しそうなので来ましたよ」


「ノアとカヤのことだね?」


「それと凛が言うには……」


 キングは興味が無かったので、会議室から出る。どうせ、第零は俺の物になる。落ちぶれた派閥などキング派閥には敵わない。


 ただ、ユラーゼとは戦ってみたい。人間の頃、最初の神戦で魅せられてしまった。鮮やかな魔法が次々と相手の魔法を相殺していく。属性の偏りが無く、1対3を簡単に何回も勝ってしまうほどの余裕。会場。いや、世界がユラーゼに魔力を流していた。


 そう言えば、あの時も冬だったな。会場に雪が降っていた気がする。建物から出ると、薄着の女性が待っていた。露出が多く、見ているだけでも寒そうだ。


「カガリ、来年は良い年になりそうだ」


 キングを見て、頬を赤らめるカガリ。建物から2人を眺めていた龍恩は、雑談している灯り達に混ざる。少しだけなら、現実逃避も悪くない。



 

龍恩りゅうおん

禄登勢ろくとせ

灯り(あかり)

本文にルビがある文字は気にしないでください。普通に間違えです。

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