名もない村 5
しばらくして、ルシルはリサに言った通りリアムを迎えにいった。
人の範疇を越えた魔法を使いリアムの位置を特定すると、背中から魔法の翼を生やし、飛んでいきリアムに気づかれないよう離れた場所に着地した。
その時腕に身に付けていた金のリングが当てられた光を反射するように輝いていた。
そこから歩いてリアムの場所まで向かう。
この辺りにも多少魔物がいるようだが、リアムは傷一つ負っていない。
リアムがいたのは崖を少し下った場所。
普通の人間では行けそうにない。
それどころか魔物すら近づけなさそうだ。
「リアム、上がってきてくれ」
あの翼を見せるわけにはいかないため、リアムに上がってくるように呼び掛けるルシル。
その声が聞こえたのかリアムは片手を挙げてこちらに合図を送ると、鹿のように器用に崖を上ってくる。
その身のこなしから運動神経の高さを感じるが本人はそこまでその実感は無さそうだ。
「わざわざ、探しに来たのかい?心配しなくてもちゃんとルシフェルとしてやっていくさ」
「そこに関しては心配してない。ただ、リサ王女が心配していたからな」
それにため息をつくリアム。
「仮にもリーダーならさ誰かを特別扱いしない方が良いよ?まあ、僕が言えたことではないけど」
「俺の芯はずれてない。ルシフェルを作ったのもリサ王女を守るためだ」
「僕には他にも理由があるように見えるよ?」
リアムの発言に一瞬驚くルシル。
その一瞬をリアムは見逃さない。
「そんなに驚かなくても、君は僕の元々の素性を知ってるんだからさ」
「そうだったな。それで、何でその素性を話さなかったんだ?」
実はここに来るまでの間にリサとカイラがミーナにリアムが何を話したのか聞き出していたのだ。
主はカイラであったが、リサも興味津々といった感じだった。
その際にミーナがあの方が何をされていたのかを聞きたかったと言っていたことからルシルがリアムが言うであろおうと考えていた事を言っていないことは明白だった。
「君は分からないかも知れないけど、僕の立場って、友達が出来にくいんだよ。皆上っ面だけだし。
今の記憶を失った彼女にその立場のことを話すと今までの努力が水の泡に思えてくるだろ?」
リアムはおそらくミーナと仲良くなるために時間をかけてきたのだろう。
その時、声には出さなかったが、ルシルは確かに共感していた。