名もない村 2
「そうでしたか。もしよろしければ空き部屋か空き家を一晩貸していただきたいのですが」
こういう小さな村に宿はない。
あるのは空き家か空き部屋となる。
「あいにくですが、丁度一月前に貸し出していた空き家に人が入りましてね。相部屋という形でよろしければ」
「それでも構いません」
相部屋であったとしても野宿よりは断然安全である。
「それでは確認してきます」
そう言って初老の男性はその空き家だった家と思われる方向に歩いていく。
「一月前って・・・・・・」
リサの発言により皆の視線がリアムに向く。
一月前といえばタイラル王国が天使の襲撃を受けた時期と重なる。
「どうだろうね。僕は奇跡的に王国の外にいたから逃げられたけど中々逃げられるものじゃないよ」
「んなネガティブに考えんなよ。知り合いかもしんないだろ?」
「確かに知り合いは多かったけど、親しかったのは1人だけだし、その人はもう・・・・・・」
リアムは悔しそうに歯を食いしばる。
「わ、わりぃ」
その様子にアレンも慌てて謝る。
まだ知り合ってばかりであったためかリサ、カイラも驚いている。
ルシルだけは何か知っているようだった。
◆
少しすると先程の初老の男性が戻ってきた。
「大丈夫だそうです。それと、先に言っておきますが、彼女は記憶喪失の状態でして、もし知り合いであれば・・・・・・」
引き取ってほしいと言いたいのだろうとルシルは気づく。
この小さな村では1人増えただけでも生活が苦しいのだろう。
それでも約一月もの間家においているのは、この男性の優しさだろう。
「分かりました」
おそらく記憶喪失の彼女の知り合いを探すためにわざわざ空き家に住ませているのだろうとルシルは考える。
そうでなければ空き部屋に住ませるはずだ。
◆
「ここです」
木製の家で他の家よりある程度綺麗になっている。
おそらくここを通る商人や旅人等に貸し出すためだろう。
初老の男性が中にいる人物に話しかけながら中に入っていくのをついていく。
「はじめまして、記憶喪失で名前が分からないので名前はありません。よろしくお願いします」
そう話す彼女に何か違和感を覚えたがそれはすぐに消えた。
それと同時に後ろからリアムの驚く声が響いた。