7. 町長とルーク
先ほどユルバンと話していたのは、一体誰だったのだろうか。
以前見かけたことがある気がする。たしか、町長、と呼ばれてはいなかったか。
だとしたら、町長が青果店に何の用だ。
__きっと、自分を雇ったことについてだろう。
今日は青果店で働き始めて二日目だ。一日目の開店直後、客が一人来ただけで、その客もルークを視界に入れるなり帰った。もう噂が回っているのかと考えると、気分が重い。
そこまで考えて、首を横に振った。
ユルバンが、待て、と言った。きっと今、町長に説明してくれている。
町長や、町の人々が何と言おうと、ユルバンは決めたのだ。ルークを自分の店で雇う、と。
ユルバンに階下から呼ばれたのは、三十分後である。
ルークが下に降りると、町長がこちらを見つめてくる。
なんとなく居た堪れなくて、あちこち視線を彷徨わせる。たまたま目に入った壁掛け時計の針は、すでに開店時間を過ぎていた。
「ユルバンおじさん、店開けなくていいの?」
少しの間腕を組んで考え込んだ後、ユルバンは膝を叩いた。
「よし、今日は不定休日だ!」
・ ・ ・ 。 沈黙が訪れる。
「はあ!? 何言ってんの、おじさん」
「何を馬鹿なことを言っているんだ、ユルバン」
そして、ルークと町長の声が重なった。2人は互いに見合わせ、町長が肩をすくめる。
__まったく、君の店主は自由だな。
言葉は発していないが、町長の目がそんなことを言った気がした。
__ほんとにね。
そんな気持ちを込めて、肩をすくめ返した。
「…………お前ら仲良いなあ」
ユルバンがしみじみと呟いた。にこにこ微笑んでいて、少し気味が悪くなったのは内緒である。
「ルーク、こいつはジュスト。俺の従弟で町長やってんだ」
名前を初めて知った。町の人々は彼を「町長」と呼んでおり、名前で呼ばれているところは見たことがない。
というか、今何か重要なことを聞いた気がする。
「ええっ、いとこぉ!?」
ユルバンの言葉を反芻してみて、驚いた。
なんとユルバンと町長は従兄弟だったのか。
ルークは2人を見比べる。
なんというか、
「ぜんっぜん似てないね、ユルバンおじさんと町長さん」
ガタイのいいユルバンと、線の細い町長。若干目元は似ている気がするが、気がするだけだ。
恐らく、彼らを見て従兄弟だとわかる人は少ないのではないだろうか。
「………………まあ、よく言われる」
「昔っからな」
町長のぼそっとした返答に、ユルバンが付け加える。
2人の幼少期を想像してみると、ガキ大将とそれを冷めた目で見る少年が思い浮かぶ。なるほど確かに言われるだろう。ルークは勝手に納得した。
「父さんと叔父さんはそっくりだったらしいんだがなあ」
「父と伯父は祖母似だったらしい。俺は母似、ユルバンは祖父似だからな」
ユルバンの呟きにジュストが返す。
2人は父親同士が兄弟の従兄弟だということがわかった。
「ところでルーク、ジュストが訊きたいことあるんだってよ」
「おい、ユルバン!」
「ききたいこと?」
ほれほれ、とユルバンが町長をうながす。
俺、なんかしたっけ? 眉間に皺を寄せるジュストを見て、ルークは不安になった。
「____…………恨んでいないのか?」
少しの沈黙の後、町長は言いにくそうに、でもはっきりと口にした。
「俺や、町の人々は、お前に酷いことをしたと俺は思っている。恨まれても仕方がないと思っている。だがどうしてお前は、ユルバンや俺と普通に喋っているんだ?」
________普通に、喋っている?
「なあ俺、フツーに話してる?」
「ああ、驚くほど普通に」
自覚は、ない。
むしろ、町の人と話すのは怖いとさえ思っていた。
ユルバンと話すのだって、最初は嫌だった。
だって、また嫌われたら。出て行けと言われたら。ゴミを投げつけられたら。
思い出すと、なぜか胸を掻きむしりたくなった。
途切れ途切れの呼吸音が聞こえてくる。
あれ? ユルバンおじさんと町長さん、どっ