2.誰がやってもいいんですけどね
「温かいお茶です」
ぽこぽこぽこ…
他の社員のお茶を入れるのもここでは坂口 奈々の役割となりつつある。給湯室で全員のカップを洗い熱湯を注ぐ。前もってカップを温めておくとお茶が冷めにくくなるし消毒にもなるからと配属初日に7つ上の先輩から教わった。
うちの後輩、誰も代わってくれないな〜
「坂口さん今いいですか?」
給湯室の入り口から顔を出したのは後輩の奈良さんだ。黒髪ボブの新人ちゃん歳は確か21だっけ。
「…飲み会行くんですか?」
彼女も誘われたらしい。
「あー。予定確認しますって逃げちゃった、奈良さんは?」
キュッキュッという音が止んだ。カップを洗う手が止まっている。
「私、予定ありますって言ったんです!」
見かけによらず芯が強い。彼女らしい返答だ。
「そしたら、田代さんじゃあいつなら大丈夫なんだ?ってその日に合わせるって言われました… 参加するしかありません」
あ〜やっぱり。こちらの予定を優先してくれるのは有り難いけど、飲み会(誕生日会)ずらされたら意味ないよね〜。
「頑張ったねー、でもやっぱ、行くしか選択肢ないって事か…ありがとう」
隣にいる奈良さんの顔にはくっきりと〝遠回しに断ってるの察しろよ〟と書いてあった。私は彼女の奮闘に感謝を伝え急須のお茶を注ぎ出した。
「坂口さんも参加してくださいね」
丁寧に洗ったカップを水切りカゴに干し、一抜けはさせないと言わんばかりの笑顔を残して彼女は給湯室を去っていった。
お茶入れるの代わってくれないのね
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