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灼熱の『ざまぁばけーしょん』追放された結果もうどうでもよくなったのでひたすら休んでいたら勝手にざまぁしてました。俺は夏休みを満喫します。何か大変なことが起こったみたいだけどもう遅い。

作者: 天岸日影

「俺が……追放?」

ある夏の暑い日の事だった。

あまりにもさんさんと照りつける日光に憎しみを抱き始めた今日この頃、俺、ウィリーはパーティを追放された。

「そうだ。足手まといなんかもういらない。荷物をまとめてさっさと出ていけ!」

超絶イケメン最強魔法剣士のパーティリーダーはが冷たい目で見下ろしてくる。

「いや、待ってくれよタロイモ。いくら何でも随分唐突じゃないか。」

「タルナデスだ!いい加減リーダーの名前ぐらい覚えたらそうだ!」

「すまん。ソメチメス。」

「一瞬で間違ってんじゃねーよ!」

「すまんすまん。だけそ、リーダーの独断で決めるってのはナシだぜ。」

「無論、俺様だけの判断じゃない。聞いてみるか?おい、ボアレス!お前も賛成だろ?」

拳士ボアレス。闘争に憑かれた男、その拳は岩をも貫く。

「オレ……コワス……スベテ……コワス……クダク……ツブス……ハカイスル……」

「ほらボアレスだってそう言ってるじゃないか。」

「っく……どうやらその通りのようだ……。だが、二人賛成では心もとないというやつだろ。」

「当然だ。おい。マジュリー。お前も賛成だろ?」

魔術師マジュリー。魔法を識り、魔法に愛される女。ひとたび呪文を唱えれば、それは天変地異となる。

「ねぇ、素材、素材はどこ?あたしの素材はどこ?足りない……足りないのよ……アナタ触媒にしていい?」

「ほらマジュリーだってそう言ってるじゃないか。」

「っく……どうやらその通りのようだ……。だが、まだ二人残っているぞ。」

「はっはっは。ならアレグザンドラにも聞いてみるぞ。おい、アレグザンドラ聞いてるよな。」

剣士アレグザンドラ、剣に生き、剣で生かす女。その斬撃は空間をも切り裂く。

「…………………………」

「ほらアレグザンドラだってそう言ってるじゃないか。」

「っく……どうやらその通りのようだ……。だが、まだ全員じゃない。おい、リサリサ、聞いてるよな。」

賢者リサリサ。智を愛し、智を惹きつける女。その智謀は神すらも翻弄する。

「さっきから聞いてれば全然会話がかみ合ってないまま進行してるというか、会話になってないまま話が進行してる気がするんだけの気のせい?ていうかさ、ウィリー君、私にコイツらの御守りを押し付けようとしてない?ね、聞いてる二人とも。まさかウィリー君逃げる気?ね、ちょっと聞きなさい二人とも。聞け!聞けって!ね……聞いてよぉ……」

「ほらリサリサだってそう言ってるじゃないか。」

「っく……どうやらその通りのようだ……。全員……まさか全員俺の追放に賛成なのか。」

「その通りだ。ホラ、荷物をまとめてとっとと出ていけ!おっと、それは置いてけよ。」

「ま……まさか、『荷運びの腕輪』まで置いてけというのか?」

「その通りだ。これはパーティーの共有財産だ。もっともぉ?荷運びの腕輪すら無いウィリーが再就職なんて無理無理の無理だけどねぇ?」

「くそう、タルタロスめ……」

「タルナデスだ」

「タルルルスめ……追放したうえ、数少ない売りポイントまで潰してくるとはなんと酷い奴だ……」

「はっはっはっは悔しかろう。あと、俺様はタルナデスだ。」

「覚えていろよ!いつか後悔させてやるかな!」

「後悔?お荷物君ができるものならそうしてみな?」

あまりの悔しさに、俺は自分の荷物をとって駆け出したのであった。





とにかくどうするか。俺は冒険者ギルドに泣きつくことにした。

「エルザさん……」

「は~い、冒険者ギルド一番の看板娘、エルザルート・アル・エ・オ・イストラント・アス・イ・デ・ナルルート・ヴィンデム・オンクストリアですよ~。」

「俺……パーティを……追放されちゃって……」

「あちゃ~。パーティを追放されましたか~。でもですね。ウィリーさんって、あんまりお金使ってないじゃないですか。贅沢言わなければ、それなりに再就職先が見つからなくても大丈夫じゃないですか~?」

「……あ、確かに。」

いかに貢献度配分とはいっても、高ランクパーティーの報酬は桁が違う。

最近かなーり渋かった気もするが、最初の頃の収入だけでも結構なもんだ。

「ま、気軽にやっていきましょうね~。」

「はい。アドバイスありがとうございます。俺、夏休み、満喫します。」

「あれ~?ちょーっと油断しすぎかな~?ソロだって働けるよ~。聞いてる?おーい聞いてる?ウィリー君?」

よし、夏休みの始まりだ!





「うーん、いいねぇ夏休みってやつは。」

日がな一日ゴロゴロとして過ごす。

安宿も、ちょっとした冷却魔術で快適快適。

窓辺から灼熱の中あくせくはたらく人達を見下ろして爽快。

明日の予定とか、準備とか、圧倒的恐怖とか、粉砕の危機だとか、素材化の恐れとか、会話という名目の一方的な話しかけとか、そういうのを気にしなくていいんだぁ……

これこそまさに極楽浄土。

いやいや、まさに至高の時間……


……

…………

……………………


「飽きた。」

流石に一か月食っちゃ寝は長すぎたのであった。




「エルザさん……」

「は~い、冒険者ギルド一番の看板娘、エルザルート・アル・エ・オ・イストラント・アス・イ・デ・ナルルート・ヴィンデム・オンクストリアですよ~。」

「俺……食っちゃ寝に……飽きちゃって……」

飽きとは恐ろしい。

快適な冷房環境を捨て、だらだらと汗をかきながらギルドまで来てしまった。

「あちゃ~。飽きちゃいましたか~。あんなノリだったのに早いですね~。でもですね。ウィリーさんって、あのタルナデスさんパーティーだったでしょう?」

「そうです。タラスガワの。」

「タルナデスさんね~。」

「そうそう。それですそれ。」

「いまちょ~っと大変らしいですよ~~?」

「まさか、あいつら性格はともかく強さは折り紙つきじゃないですか。性格はともかく、性格はともかくさ。」

「強いことは今でも強いですよ~。ですけど……」

それは驚くべき事件であった。


◆◆◆



事の起こりは、ウィリーを欠いたパーティーが、ダンジョン『ピリム』の最下層のボスを撃破したことにあった。

「はっは~。やっぱ俺様最強!」

タルナデスは非常に機嫌が良かった。

ウィリーを追放したことで、スムーズなダンジョン攻略が可能となったからだ。

夢だったSランクパーティにも認められるはずだ。

何もかもが順調。

高笑いも止まらない……が、すぐにその笑いを引っ込めることになった。

神々しい光と共に、何者かが、いや、高貴なる御姿が舞い降りてきた。

「礼を言うぞ。貴様の名を申せ。」

ひれ伏すタルナデス。

そこに居たのは、邪悪なる者に封印された女神、リリオリアだった。

本来ならば、神殿の奥深くにまします女神リリオリアの姿を、冒険者ごときが見ることなど出来ることではない。あるいは、Sランクパーティーなら、もしかしたら一生に一度お目にかかる機会が……ありうるのだろうが。

「ははっ。タルナデスと申します。」

「タルナデスよ。余は数か月前に悪辣なる者に封印され、このダンジョンの奥深くに隠された。神殿の者にすら見つけられなかった余を見つけた功は大きい。神殿の者に伝えておこう。」

「ははっ。ありがたき幸せ。」

「余は神殿へ帰る。教主どもも心配しているからな。」

「どうぞ御心のままに。」

「素材……」

「ぬ……そこの魔術師。一体どうした。」

「素材……素材……素材…素材素材素材ソザイソザイソザイソザイソザイソザイいいいいい!!!!」

「貴様、何をする!」

突如女神に襲い掛かる魔術師マジュリー。

「素材、これほど素晴らしい素材は無いわ。私の素材待って!!!」

「おい、マジュリーやめろ!女神さまに不敬だぞ。やめろ!おい!おいって!」

大いに慌てるタルナデス。

ここままではパーティ全員死刑もありうる。

だが……

「私はね、素材の確保に失敗したことは無いの。神すら封じる魔の鎖。いでよ最高緊縛術式『凡夫人生がんじがらめ』これはね、何の取柄もない小さな人間の人生と同じ程度のがんじがらめになってしまう魔法。たとえ女神でも抜け出せない。」

「貴様!やめろ、余を縛るなど……わ、にゃ!」

「ボアレス、アレグザンドラ、リサリサ。ぼっとしてないで止めろ!」

「コワス……ハカイスル……」

「……」

「え、ほんとどうするのアレ?だって女神様に手を出した時点で人生詰みだし、真正面じゃマジュリーちゃんには勝てないし、ボアレス君は言うこと聞かないし、アレグザンドラちゃんは何考えてるか分かんないし、ウィリー君ならなんとか説得できたのに……」

「素材化・完了!」

恐ろしい事に、女神の体は抜け殻となり、球体の『力』の塊と変化した。そのそばは小さく幼女のようになった女神が浮かんでいる。

「余は……余はぁ……」

「これは有効に使わせてもらうわぁ~~~!!!!」

「待て、余の体を持っていくな、待て!」

そのとき……とうとう拳士ボアレスが動き出す。

「コナゴナニスル……」

突如、マジュリーに襲い掛かるマジュリー。

「やれ!そこの拳士!余の体を奪い返せ!」

防御障壁ごと吹っ飛ばされる魔術師マジュリー。

無傷だが、衝撃で女神の体を取り落とす。

「ハカイ!ハカイ!ハカイ!」

落ちてきた元女神の体を受け止めることもなく拳で粉砕するボアレス。

「ツヨイモノ……ハカイ……ハカイスル……」

消滅する破片を呆然と見送る一同。

「あ、あたしの素材がぁ~~~!!!」

「余の体が……」

「うあああ!俺様の夢がああああ!」

「ほんとに……ほんとに女神様の御体が失われてしまったの……ほんとに?いいえ、これは夢……明日になれば……きっと何事もなく……」

「…………」



これは後に『ピリムの悲劇』と呼ばれることになる。



◆◆◆



「つまり、今はタなんとかと賢者リサリサが失神して幽閉。魔術師マジュリーは指名手配。拳士ボアレスが討伐隊の装備を全て破壊しつつ籠城。剣士アレグザンドラは拷問を受けるも防御力が高すぎて切り傷すら与えられない……と。」

「もう看板娘のエルザルート・アル・エ・オ・イストラント・アス・イ・デ・ナルルート・ヴィンデム・オンクストリアも大変です~。」

「そうですか。ま、俺には関係ないですし、俺を追放した奴らには『ざまぁ』って言ってやりたいですね。寝ている間に勝手にパーティ方かいって。俺何もしてないのに、くっくっく、はははは、笑えますねほんとに。」

もう笑いがあふれてしょうがない。

「あ、その、追放の件なんですけれど~。」

途端に笑いが収まる。

なんかこう、良くない流れを感じる。

「えっと、何か?」

「手続き、終わってませんよ?」

「へ?」

「ウィリーさんって、前回あのまま帰りましたよね?パーティー追放の手続き、終わってませんよ?」

「ま……まさか……」

「あらあらあら~~。大変ですね~~。女神様に狼藉を働いたパーティのメンバーですね~。神殿に連れていかれて幽閉ですかね~~。」

汗。

暑いのに、冷や汗。

「ですが、幸運ですね~~。丁度リサリサさんが……」

バーンと勢いよく開けられるドア。

そこに居たのは賢者リサリサだった。

息は上がり、ぼたぼたと汗が滝のように流れている。

どれだけ急いで来たというのか……

「ウィリー君!ウィリー君!」

「あ、ちょ、リサリサさん。」

「よかった。無事?無事なの?」

「え、まー、まだ無事ですね。」

この後神殿に連れていかれて無事じゃなくなります。

「よかったぁ~。」

「いや、良くないでしょ。もう一生寝てたいです。」

「悪いが、ウィリー君、寝ている暇はない。」

「死刑ですか?なら永眠できますよ?」

「ウィリー君。私が賢者であることを忘れてないか?女神様の復活方法は既に考えてある。これが成功すれば全員無罪だ。」

「ならば……」

「だけどパーティー全員の協力が必要なんだ。当然、ウィリー君も来るよね。大丈夫。タルナデス君はすっかりしょげてしまって何も言わないよ。パーティーリーダーのも快く降りてくれた。そして今度はウィリー君がパーティーリーダーだ。嬉しいだろう?追放した奴らを、上に立って使う立場になるんだぞ?」

「は?」

賢者リサリサはにっこりと笑う。

「これからよろしくね。パーティーリーダーのウィリー君。」

「い、嫌だ……嫌だ~~~!!!」

夏休みは、いつか終わる。

終わらない夏休みが有ったっていいではないかと、そう願った。

だが、事態は俺の知らぬ間に推移し、夏休みを護ろうと思っても……もう遅い。

俺を置いてけぼりにして新しい仕事が始まった。





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