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第6話

 回帰後のエリザベスの日常は穏やかであった。魔法授業で出される課題を無難にこなしたことで、差別や罵声を受けることも無くなった。

 賢者の指導を受けた後では授業時間が煩わしいと感じるほどである。


 だが慢心などできるはずもない。自身には必ず試練が来ることを知っている。

 その日まで時間魔法を使いこなすため、魔力の総量を増やすことが決定的だ。

 得られる効果が大きいだけに、魔力の消費が激しいことが唯一の弱点とも言える。魔力が切れた途端、寿命を失っていく危険性を孕んだ能力だと理解するよう、師匠に何度も反復された。


 自室で1人の時間は魔力を増やすための時間に当てた。

 魔力は時間経過で回復していく。睡眠が最も回復効果が大きい。

 就寝直前には瞑想しながら、魔力切れ直前まで消費させる。筋力訓練と同様に、翌日は筋肉痛にも似た痛みや脱力感に襲われる。これを繰り返すことで魔力の総量値が増えていくのだ。


 瞑想時に魔力が尽きるまで、どれだけ余裕があるの把握することは、自分の限界値を把握することと同義。それを知らずに戦地へと駆り出され、動けずに戦死した魔法使いが無数に存在する。

 エリザベスは二度目の人生だが、肉体はまだ幼い。許容できる魔力を増やすことは絶対に必要だった。


 達成したいことはあれど、焦ってはいけないと自分に言い聞かせる。

 己を鍛えることと、大切な存在を守ることを第一とし、歳月を重ねる必要がどうしてもあるのだ。


 ……


 段々と魔力が尽きるまでかかる時間が長くなっていく。

 それが魔力量が増えている証でもあり、己が確実に強くなっているという実感にもつながった。


 ひと月ほど経った段階で、エリザベスの魔力量は処刑時とほぼ同程度までに増えていた。とは言え、以前はまともに魔法を習えなかったことに加え、魔力を消費することなどほぼなかった。改めて自分が冷遇されていたのだと振り返ることになった。


 季節が変わる頃には随分と魔力量が増えたことで、エリザベスはやるべきことを再び整理する。

 羽ペンと紙を机に広げ、今の時点でやるべきことを確認するのだった。


 (今は穏やかだけど、いつ、私と母様が危険に晒されるか分からない。環境が変われば兄も新たな攻撃を企ててくる危険性もある)


 それを阻止するためには強力な味方が必要だった。

 マリアとマイケルが再び凶刃に晒されぬよう手を打ったが、これはあくまで防衛手段であり、自分を守ってくれる存在とは言い難い。実力と権力を持つ人間とのつながりが絶対に必要だと考えた。


 (だとすれば、この2人よね……)


 回帰前の処刑に反対の声明を発表した2人の名が浮かぶ。


 クラウザー公爵とウィンチェスター侯爵家のシャローラ令嬢。


 (でも、あの2人とはまともに話したこともないのよね……)


 なぜ、政治的立場を危うくしてまで反対をしてくれたのか不明であった。

 それを確認する術もなく今の時代に飛んでしまったので、もはや知ることは叶わないだろう。当時の惨めな自分さえも守ろうとしてくれた人物ならば、頼ってみるのもいいと思われる。


 (シャローラ侯爵令嬢は私の5つ年上とは言え、社交界にはまだデビューしていない……お母様にお願いしてお茶会へ招待してもらうのがいいかしら)


 ウィンチェスター家あての手紙を書き、令嬢シャローラへの招待状を作成した。


 封書し、後は母にお茶会の開催をしてもらうだけだ。


 「よし!」


 自室を飛び出し、母の元へと向かう。

 メイドに確認を取ると、庭園にて読書しているらしい。


 「お母様」

 「あらエリザ。どうしましたか?」

 「一つお願いがあるの」

 「何かしら?」


 本に栞を挟み、テーブルに乗せる。


 「お茶会を開催してほしくて」

 「あなたが?珍しいわね」


 怪訝な顔をするが、予想通りの反応なので、気にすることはない。


 「えぇ、仲良くなりたい人ができたから」

 「あら?どなたかしら」

 「ウィンチェスター家のシャローラ令嬢なんだけど」


 家名を口にした直後、穏やかだった母の表情が曇った。

 嫌悪感というよりは驚愕しているといった様子だ。

 視線を逸らし、何やら考え込んでいる。


 「お母様……?」


 まさかの反応に困惑する。


 「あなた殺してほしい人でもいるの?」

 「えッ?」


 思いもしない問いかけに素っ頓狂な声をあげてしまった。


 「目をパチクリさせているところを見ると、知らないようね……。ウィンチェスター家は皇室に仇なす存在への暗殺を担っている家よ。あなたに何の企てがなくても、連絡をとった段階で警戒されるわ」


 母が額に手を当ててため息を吐いた。


 ウィンチェスター家が貴族社会の闇を抱えているという噂は聞いたことがあったものの、貴族社会との関わりを絶たれていたエリザベスにとっては知りようもなかったことだった。


 俯いて困っているエリザベスを見かねた母がテーブルに置いてあるベルを鳴らした。

 数秒ほどで執事がやってくる。


 「月末の日曜日にお茶会を開催するので、その手配をお願いします」

 「畏まりました」


 執事が一礼をして去っていく。


 「いいの?」

 「あなたの提案には驚いたけど、まだ家業と関わっていない令嬢ですし。彼女だけではなく、複数の令嬢へ招待をすれば問題にはならないでしょう。でも、くれぐれも慎重にね」


 要求が通り、破顔する。


 「ありがとうございます。お母様」


 懸念材料が増えたものの、シャローラと交流できる場の設定はできそうだ。

 庭園を歩く足取りが弾む。

 自室へと戻り、シャローラの名に丸をつける。


 「後もう1人はどうしようかしら」


 王城から離れた領地を治める公爵を呼び出すことなど簡単にはできない。

 クラウザー公爵との出会いをつくるため、思いつく限りの可能性を書き込んでいった。

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