1年の成果
今日も今日とて、九尾之狐討伐に精を出す。
和尚さん、もう少し綺麗に砕けなかったのかな。
欠片多すぎるんだけど。
だからこそ、中等部一年で学んだ成果を披露する場面が用意できたとも言えるのだが。
「おや、峡部殿。今日は陣を用意しないので?」
「業火之札を使います。いつもより離れてください」
「札なのに離れる必要が?」
「予想以上に火力が高いんです。さすがは秘術といったところでしょうか」
なんか、源家の関係者がやたら近い。
普段であれば、御剣家の皆さん以外はほどほどの距離感で接してくるというのに、今日は源家の分家連中がやたら話しかけてくるのだ。
後ろにいる源さんから圧力を感じる。近くにいる男は嫡男派閥の人間なのだろう。
「お気をつけください。封印を解除します」
管理者が封印を解くと同時、狐が姿を現した。
今日のは比較的力を持ってそうだな。5弱くらいだろうか。
宙に浮かせていた札を瞬時に飛ばし、その炎を解き放つ。
ちょっと強かろうが関係ない。
学園で教わった秘術は霊力効率がものすごく高いのだから。
「灼熱の焔が罪科を問う──業火之札」
ゴウッ
青く巨大な火の玉が九尾之狐を呑み込んだ。
いつもより距離を取ったにも関わらず、俺たちの肌をチリチリと焼くほどの火力。
断末魔を上げる暇すら与えず、塵に帰してやった。
「「「おぉ……」」」
周囲から漏れ出る感嘆の声に、俺の承認欲求が満たされる。
業火之札(物理特化バージョン)のお披露目は期待通りのものとなった。
準備に時間がかかるのと、使用する素材が高いことを除けば、強力な攻撃手段である。
今回の欠片相手にはオーバーキルだったが……一度は実戦で使わないとダメだし、必要な出費だったんだよ、うん。
「いやはやお見事。さすがは峡部殿!」
戦闘の余韻が消えた直後、源家の男がヨイショしてきた。
なぜだろう、コイツの褒め言葉は全然嬉しくない。
「殿なんてやめてください。貴方の半分も生きてないのですから」
「そうはいきますまい。峡部殿の実力は国宝級。敬意が自然と湧き上がってしまうのです」
こ、こいつ、プライドを捨てて俺に擦り寄ってきてる。
短い付き合いではあるが、この男がプライドの高いタイプの人間ってことくらいは知っている。
そんな男がヘコヘコするということは、厄介なお願いをしてくるに決まってる。
何を求めてくるのか今から怖いんだが。
戦闘の後片付けをしていると、源家当主が帰る前の挨拶に来た。
交流を持って長いこともあり、仰々しいやり取りは必要ない。
お疲れ様、じゃーまたねー、そんな軽い感じで解散する。
「雫、向こうで少し話をしよう」
「わかりました」
秘術の進捗を確認するんだろう。
源父娘は近くの建物へ場所を移した。
源さんが離れるタイミングを見計らったように、分家の男は満を持して探りを入れてくる。
「今日もお疲れ様でした。ところで、来月の10日、何かご予定はありますかな?」
用件を先に言え。
内容次第ではこれから予定が入るんだよ。
とは思いつつ、口にすることはできない。
九尾之狐討伐も佳境に入ってきた。ここでチームの空気を悪くすることはできない。
否が応でも、社会人としてエアリーディングスキルが発揮されてしまう。
「家で研究するつもりでしたが、その日がどうかされましたか?」
「その若さで自己研鑽に余念がないとは素晴らしい。ですが、外へ出て交流を深めることも大切だと愚考します。源家が主催する懇親会へ来ていただければ、より広い人脈を築けますよ」
逃げ道は用意しておいたが、なんだそんなことか。
源家にはお世話になっているし、懇親会に参加するくらい別に……いや待てよ。
招待するとしたら、一番近くにいる源さんが誘ってくるはず。
さっき当主と話した時だって、話題にも上がらなかった。
これは間違いなく、源家の政治絡みだ。
「予定が近くなったら源さんにスケジュールを伝えますね」
「いえいえ、姫にそのような雑事を押し付けることはできません。こちらから招待状を送りますので、何卒お時間をいただければ!」
隠したがってるの見え見えだよ。
中学生相手なら適当言っても誤魔化せると思ってるのか。
思ってるんだろうな。普通の中学生は権力闘争とか派閥争いなんてわからないものだし。
ただし、社会でいろんな世界を見てきた俺にその手は通用しない。舐めたマネしてくれやがって。
こんなもんさっさと断ってやる。
……いや待てよ。
昔お母様にも唾をつけていたし、今後も俺を陣営に取り込もうとあの手この手でまとわりついてきそうだ。
俺が活躍するたびに声をかけられては時間の無駄だ。
なら、子供を利用したら痛い目を見ると学ばせてあげよう。
「分かりました。楽しみにしていますね」
「ありがとうございます! 一同歓迎いたします!」
こんな必死に感謝するとは。
この男にも妻子がいるんだろうな。
プライドを捨ててまで子供を誘導しないといけないなんて、大変ですね。
よかったね、お仕事を完遂できて。
お前らの期待通りの動きをすると思ったら大間違いだがな。
〜〜〜
一年の成果は秘術だけではない。
声帯もまたバージョンアップしたのだ。
まずはテンジク療法で下ごしらえ。
「テンジク、喰え」
「キュイー」
カリカリカリカリ。
何を食べているのかよく分かっていないけれど、このコンボで怨嗟之声の負荷が軽減されることは分かっている。
お次はいよいよ新声帯の出番だ。
死ね殺す苦しめ憎め怨め呪え絶望しろ死ね死ね死ね煩い黙れ消えろ滅べ殺してやる道連れだ恨めお前のせいだお前さえいなければ死ね殺す頑張れ愚かな惨めだ無駄だ意味がない苦しめ無様な縊り殺してやる無能め雑魚が詫びろ消えろ汚物め気持ち悪い嫌いいらない臭い馬鹿死ね怠い辛い阿保気に入らない溺れ間抜け燃えて殺す死にたいキモいブス死ね生まれてこなければウザいダサいクズ落ちろ無駄だった穀潰し親不孝者恥晒し縁を切る負けるな顔を二度と見たくない役立たず醜い死んで詫びろ疎外感怒れ羨ましい忌まわしい死ねひもじい怖い悲しい殺してやるぅぅぅぅ!!!
クリアな音質に加え、以前よりも腐食耐性がグッと上がり、連続使用時間は1.5倍にまで延びた。
心なしか、以前よりも負の感情の流入が少ない気がする。
素晴らしい成果だ。
治療を受けた詩織ちゃんが新型声帯の効果で聴力を取り戻す。
「詩織様、プレイリスト1番を再生しますね」
♪ ♪ ♪
「すき〜、きれい〜」
詩織ちゃんのマイブームはまだ続いている。
自分で歌えるようになるべく、聴力が戻ると歌を聞きたがるのだ。
歌詞を一生懸命覚える少女の姿に、東部家の皆さんもホッコリしている。
詩織ちゃんの後、塩砂家当主の満様にも同様の治療を施す。
詩織ちゃんの時ほど負の感情が緩和された気はしないけど、満様の顔色は以前よりも良くなった。
その効果のほどは、長年苦しんできた満様の方が理解している。
「いつも、より、とても、楽になった。ありがとう」
「どういたしまして」
効果はもとより、怨嗟之声を抑える時間も延びた。
円さんの提案した素材と、博士のアイデア、そして源さんの正確な加工技術。みんなの協力によって改良することができたのだ。
俺1人の成果とは言えないが、実益が得られたのでヨシ。
お世話係さんも涙を流して喜んでくれている。
「ありがとうございます。峡部様」
「いえいえ」
さらにあちこちから感謝の言葉を贈られた。
「ありがとう!」
「ありがとね」
「本当にすごいな」
「応援してるよ!」
ふふん、中等部2年も頑張るとしよう。





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