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【書籍化】現代陰陽師は転生リードで無双する  作者: 爪隠し
第8章

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霊圧



 夏休み終盤、俺は実験室で擬似声帯の加工に勤しんでいた。

 今使っている声帯はただの声帯ではない。新たな素材を付け加えることで改良を試みているのだ。

 実験室の機材を借りることで、とんでもなく硬い素材を削ることができる。

 黙々と削る作業を続けると、さすがに飽きてくる。

 俺は隣で別の作業をしている仲間へ話題を振ってみた。


「夏休みが終わりますね……」


「そうですね。しかし、やっていることは普段と変わらないのでは?」


「まぁ、それはそうなんですが」


 源さんは淡々と返事をする。

 彼女は俺が作った擬似声帯で接続実験中だ。

 円さんに教えてもらった複数の素材を使い、肉体との接続を試みている。

 触手を使わずに繋げることができれば、俺に依存することなく道具を使えるようになる。

 そうすれば、塩砂家の治療も自由に行えるようになるだろう。


「なんというか、こう、長期休みの解放感によってなんでもできるような気になる、みたいな」


「精鋭クラスの自由度はかなり高いです。峡部さんが望めば、今と変わらない生活ができるのでは?」


 源さんの言う通り、精鋭クラスの自由度は高い。

 1学期の間に事務側へお願いしたことは、ほぼ全て叶えられている。

 俺の勉強に必要だと判断されれば時間割も変更するし、必要な道具は全て即日用意してくれる。

 今実験に使っている素材も学園が用意してくれた。

 そう、俺は学園に何も縛られていない。

 中学生というよりも大学生、あるいはそれ以上の権利と自由を与えられている。


 それでも前世の感覚は抜けず、夏休みの解放感とそれが終わりを迎える寂しさを抱かずにいられない。

 そこへちょうどやってきた円さんが同意してくれた。


「わかるなぁ〜。夏休みってだけでテンション上がるよね〜。はいコレ、ご注文の品だよ」


「ありがとうございます。早っ、もう届いたんだ。ちょうど使いたいと思ってたやつです」


 円さんは今朝届いた俺宛ての荷物を置き、実験室の椅子に座った。


「術具店の(せがれ)特権で、配送順を弄ってるからね。即日配達さ〜」


 それは倫理的にどうなのだろうか。

 まぁ、コネってそういうものだよね。

 ありがたく利用させてもらおう。

 円さんはちょうど暇だったのか、俺の加工作業を観察してきた。

 いや、もしかして俺の加工法に何か間違いが?

 術具店の倅なら俺より上手く加工する技術を知ってるかも。


「でも、聖君が夏休みを好きなのは意外だな〜。常に陰陽術関連で何かやってるでしょ。源さんの言う通り、休みなんて関係ないのに」


「峡部さんが遊んでいる姿は想像できません」


 俺の不安を他所に、円さんは先ほどの話の続きを求めた。

 続けて源さんまで心底不思議そうに言う。


「いえいえ、昔はいろいろ遊びましたよ。虫取りしたり、川遊びしたり」


「昔って、聖君はまだ中学一年生だろうに」


「もっと小さかった頃ってことですよ。源さんは自然を遊び相手にしませんでした?」


「安倍家で集会がある時、付き合いで遊んだことはありますが……。何が楽しいのか理解できませんでした」


 そうですか。

 知ってたけど、同意を得られる相手じゃなかったな。

 そうだ、この場にいながらずっと会話に混ざってこない彼にも聞いてみよう。


「博士は子供の頃、夏休みをどう過ごしましたか?」


「わっ、私か?!」


 なぜか博士は、俺が話しかけると挙動不審になる。

 源さんや円さんが話しかける時は落ち着いているのに、何が原因なのだろうか。

 一緒に研究したいと誘ってくるくらいだから、嫌われているわけではないんだろうけど。


「私も子供の頃は……虫取りや川遊びをした」


「博士、嘘つかないでくださいよ〜。博士は滅多に外に出ない本の虫だったって言ってたでしょ」


「お、お前っ!」


 なんでそんな嘘ついたんだろう。

 俺の味方になろうとしてくれたのかな。

 優しい人だ。


「円さん、そう間近で見られているとやりづらいんですが。何かやり方を間違ってますか?」


「いや〜、術具の加工に間違いなんてないよ。正直そのやり方はかなり大変そうだなとは思うけど、そのやり方だからこそ生まれる効果とかあったりするしねー」


「つまり、もっと簡単な加工方法があると?」

 

「まぁねぇ〜。そっちは俺が過去に試してダメだったから、今回は聖君のやり方でいこう」


 ちょっと待って、本当に楽な加工法があるのかよ。

 この硬い素材を削るの超大変なんだけど。

 先に加工法教えてくれません?

 と、オブラートに包んで言ってみた。


「えー。そんなことをしたら、聖君の柔軟な発想が邪魔されちゃうじゃないか」


 教えてくれなかったのはわざとか。

 ちゃんと実験の打ち合わせはしているから、その時に教えてくれない時点でそうとしか思えないが。


「そもそも、そうやって削るの、俺にはできないんだよね〜。どうやってるの?」


「え、普通に削ってるだけですよ」


 打ち合わせで説明したじゃん。

 大まかにカットした後、この機材で削るだけだ。


「普通にやったんじゃあ、削れないはずなんだよね〜。押し付ける以外に何かやってるでしょ」


 あぁ、そういうことか。

 これは部外秘……ってほどでもないな。

 誰でもできるし、教えてもいいか。


「霊力を込めながらやってます」


「あ〜、うん、なるほどね。ところでその素材、下処理しないとろくに霊力を込められないと思うんだけど?」


「え? 何言ってるんですか? 普通に込められますよ。ちょっと抵抗ありますけど」


 円さんたら、変なことをおっしゃる。

 確かに霊力を込めづらい素材はいくつかあるが、これはそれほどでもない素材だろう。


ちょっと(・・・・)? 本当にちょっとだと思ってる?」


 家で一度加工したことあるけど、その時に霊力を込めたら削りやすくなることに気づいた。

 気合を入れて霊力を込めるようなものではなく、試しにやってみたらできた。

 その程度の代物だが?


「源さん、試しにやってみてくれな〜い? 君の方が俺よりも霊力多いだろうから」


「はい」


 円さんは源さんへ未加工の予備素材を手渡し、霊力を込めさせた。

 すると、滅多に仕事をしない源さんの表情筋が眉間に皺を寄せる。


「……込められません」


「ほらね! 普通はこうなんだよ!」


 えっ、なんで?

 札に注ぐのと同じ要領なのに。


「前々からそーじゃないかとは思ってたけど、やっぱり聖君の霊力は……」


 うっ、精錬霊素の存在に気づかれたか?

 続く円さんの言葉に俺は安堵した。


「圧力がものすご〜く高いんじゃないかな?」


「……圧力?」


「そう、圧力。霊力の圧力だから、博士と俺は霊圧って呼んでる。人が物に霊力を込める時に、流し込む力のことだよー」


 電圧的な?

 親父と比べて霊力を込めるスピードが速いことには気づいていたけれど、そこまで他人と差があったとは。

 技術について閉鎖的な陰陽師ゆえの盲点だった。


「実は、これも陰陽術研究で鍵となる部分じゃないかと思っていてねー。博士と研究を進めているんだ! それでね」


 ジャジャーンと円さんが取り出したのは、霊力適性チェッカーと似た箱型の装置だった。


「霊力を込めづらい素材を利用して、使用者の霊圧を測定する──霊圧チェッカーさ」


「それは試作品だ」


 博士が注釈を入れる。

 なんでも、霊圧の測定サンプル不足で定量評価できないとのこと。

 どれくらいの霊圧が平均なのか、これから協力者を募って数値を確認するらしい。


「だから、是非とも聖君に協力してもらいたくって〜。お願い!」


「それくらい、いくらでも協力します


 俺も自分の霊圧がどんなものか気になる。

 過剰に喜んでみせる円さんに促され、霊圧チェッカーに手を置いてみた。


「これ、どうやって数値化するんですか?」


「まずは霊力を込めづらい素材で作った接触部に手を乗せてもらう。自然に放出される霊力で札を光らせて、その光量で測定しているよ。まぁ、霊力適性チェッカーと仕組みは全く同じだね〜」


 初歩の初歩にして消費霊力が少ない、光る札。最初に教わった知識が後々になって活躍するなんて、胸が熱くなる展開だ。

 照度自体はすぐに数値が出るらしく、俺は円さんと一緒に表示パネルを見ていたのだが……。


【ERROR03】


「あっれ〜、上限超えちゃったみたい。ちょっと待ってね〜。今レンジ変えるから」


 円さんは箱を開け、中から照度計を取り出した。

 ダイヤルを弄って元に戻し、再度測定を行う。


【ERROR03】


「いやぁ、これは予想外だ。最大レンジでいこう」


「普通最大レンジから測定するものでは?」


「近くにいた学園関係者に協力してもらったときは、最低レンジで十分だったんだ〜。聖君が桁違いだったってことだよ」


 ほぉ、俺の実力の一端が滲み出てしまったということか。

 俺の精錬霊素が生み出す破壊力は、一般陰陽師よりも遥かに強い。

 そりゃあ桁違いにもなるだろう。

 次の測定では数字が出た。

 だが、その数値に円さんは顔を顰める。


「聖君、意識して霊力を込めてくれる?」


「はい。……あれ、数値変わりませんね」


「あぁ〜、たぶん札の方の限界が先に来たみたいだね。いくら霊力を注いでもこれ以上は光が強くならない。聖君の霊圧は普通の人の100倍以上ってことしか分からないや」


 そっか、そんなに違うのか。……で、霊圧が高いと何かいいことがあるのだろうか。


「これを測ってどうするんですか?」


「おそらく、保有する霊力の総量に比例するんじゃないかと予想していてね〜。陰陽師ごとの霊力量でポテンシャルを判断したり、月光浴みたいな成長法の効果を確認したり、使い道はいろいろあるさ」


 なるほど、戦闘力を測り、成長率も確認できる機械か。

 それは欲しい。

 将来生まれるであろう我が子の育成に必須だ。


「協力できることがあれば言ってくださいね」


「あ〜。せっかくの申し出は嬉しいんだけど、聖君の数値はどう見ても外れ値扱いになるから、測定は源さんに協力して欲しいかな〜」


「構いません。私も興味があります」


 桁、違うんだもんね。

 どんな素材でも霊力を込められるから、素材選びにも協力できない。


 うん、俺は大人しく擬似声帯作ってるね。




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