中間試験
その日の校庭では、陰陽学園中等部一年の実技試験が行われていた。
もちろん、科目は体育ではない。
陰陽師学園で唯一学べる専門科目──陰陽術である。
「直線札飛ばし200m始め!」
各クラスで出席番号順に生徒が試験を受けていく。
彼らが一学期に学んだのは、技量の均一化を目的とした基礎的な技術が多い。
必然的に試験の内容も陰陽師における基礎的な内容となる。
「どうだった?」
「入学した時よりもかなり速くなった!」
「俺も!」
それでも、各々成長を感じていた。
各家に伝わる技術はどうしても偏ったり独自のものとなりやすい。
技術や教育方法が常に改良されていれば良いが、古いものをそのまま使っている家もある。
そんななか、いくつもの家が集まって指導内容を協議し、1年間のプレオープンで改善点を反映した学園のカリキュラムは優れていた。
「みんな良いよ! 本番は練習のように、緊張しないで実力を出そうね!」
さらに、阿部家が見つけてきた教育者は伝え方も上手い。
優れた陰陽師が指導も上手いとは限らない。
きちんと専任の先生が教えることで、生徒たちの技量は上がっていた。
流れるようにいくつかの試験を受けた生徒たちは、最後にこの試験を受ける。
「札の作製と威力測定、始め!」
陰陽五行のうち、かなり普及している焔之札について教わっていた。
生徒たちは用意されたまっさらな札に墨で描いていく。
完成した札を先生の下へもっていき、写真を撮ってもらう。
その札を持って校庭の真ん中へ移動し、霊力を注ぎ込みながら呪文を唱える。
「~~~──焔之札」
妖怪を想定したターゲットへ飛ばし、見事に燃え上がらせた。
計測係の先生は温度測定器を覗き、燃焼時の温度を確認する。
最初に教わったのは、焔之札の中でも物理的影響の割合が高いものである。習得難易度が比較的簡単だから。札の威力が高ければ高いほど、炎の温度は高くなる。
火が消えた後は、ターゲットの破損具合を確認する。
そうして、各生徒の実技試験は採点されていく。
「やった! 黒焦げだ!」
「ど、どうしよう。失敗しちゃった」
「思ったより燃えなかったな」
手ごたえを感じた者もいれば、普段の力を発揮できなかった者もいる。
校庭に集まった生徒たちは、試験を終えた同級生と思い思いに感想を交わすのだった。
「あれ、全員終わったんじゃなかったっけ?」
「誰だろ、あの二人」
「知らねぇのか。精鋭クラスの奴だよ。俺らと同じ一年」
一般生徒たちの視線の先、試験監督の先生に話しかける見慣れない男女がいた。
「すみません、ちょっと早く来ちゃったんですけど、大丈夫ですか」
「はい! 大丈夫です! ちょうど終わったところです。こちらから順にどうぞ」
なぜか生徒相手にかしこまる先生に、一般生徒たちの視線が集まる。
「なにあれ、偉い家の奴?」
「女子の方は源家だったはず」
「でも、先生が頭下げてるの男の方じゃね?」
「確か名前は……峡部だっけ」
そんな注目を集める男女が試験を受けていく。
「直線札飛ばし200m始め!」
「えっ、札が消えた!」
「もう向こうにある。いつ飛ばしたんだ」
「ズルじゃないの? 速すぎて見えなかっただけってこと?」
「って、いつの間にか手元に戻ってきてる!」
・
・
・
「札の作製と威力測定、始め!」
「あれぇ? もう描き終わったの?」
「まだ30秒も経ってないのに……」
「手品で先に書いたやつと入れ替えたとか……」
ドカーン
「………」
「同じ焔之札……だよな……」
「ターゲット、灰も残ってないんだけど……」
「つーかさっきから驚いてばっかだな」
一緒にいた源家の長女も素晴らしい結果を残していたが、男子生徒の逸脱した結果に呑み込まれていた。
「「ありがとうございました」」
注目を集めていた二人は淡々と試験をこなして速攻で帰っていった。
試験終了後は各自解散となっていたが、一般生徒たちは最後まで残っていた。
あまりに衝撃的な光景に茫然としながら。
「あ、あれが……精鋭クラスか」
「お前たち、あんまり参考にするなよ。あれは一部の例外だからな」
先生に言われるまでもなく、参考にならなかった。
~~~
夏休み前に立ちはだかる最大の敵、それが中間試験である。
前世ではテスト週間に知識を詰め込み、まぁまぁな結果を残していた。
しかし、転生してからの俺は前世の復習という形でさらなる知識の定着を経ている。
中学一年生のテストなど敵ではない!
と、思っていたのだが……。
「嘘だろ」
学園は実力主義なところがある。
『運動会では順位が目に見えるのに、テスト結果を周知しないのはフェアではない』
個人情報の扱い的にどうかと思うが、そんな理由で試験のトップ10が廊下に掲示されるようだ。
同学年の生徒がクラスの垣根を越えて掲示板の前に集まっている。
「お前何問間違えた?」
「俺は2問。載ってないや」
「やった、9位だ」
「あいつ頭良かったのか」
一般科目の総合点数で順位付けされたそのリストを見ると、俺は9位だった。
おいおい嘘だろ。歴史の問題で一問ケアレスミスしただけで、他全問満点だったのに。
8人が1位タイ、俺を含めて20人が9位タイでずらっと並んでいる。
トップ10なのに28人いるんですけど。
「源さんは一位ですか。おめでとうございます」
「ありがとうございます。峡部さんも惜しかったですね」
一緒に結果を見に来た源さんは、当たり前のように一位だった。
人生一周目ですよね。
どうやって全教科満点取ってるんですかね。
しかも、源さん以外にも7人天才がいるのかよ。
人生2周目ですら勝てないとか、やってらんねー。
陰陽財閥とのコネによって偏差値爆上がりした影響がこんなところに……。
俺は御山の大将でもいいから一位になりたかった。
テンションダダ下がりな俺に、源さんが教えてくれる。
「専門科目の実技結果があちらに掲示されているようです」
隣の小さな人だかりは陰陽師科の集まりだったか。
そちらへ移動すると、頂点で輝く俺の名前が。
1位タイなんて許さない、単独トップである。
「当然の結果ですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
堂々の一位!
ふふん、どうよ!
一般科目で荒んだ心が癒される。
……子供相手に張り合って、俺は何をしているんだろう。
「うん、やっぱり俺には陰陽師しかないな」
頭脳労働よりも、妖怪退治で頑張るとしよう。
直接人助けする方が達成感も大きいはずだし。
こうして、夏休み前の障害は全て消えた。
一人暮らしを始めてから初の夏休み、楽しむぞ!





現代陰陽師は転生リードで無双する 肆