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【書籍化】現代陰陽師は転生リードで無双する  作者: 爪隠し
第8章

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九尾之狐討伐①

 陰陽師学園での生活が始まって早々、俺には大切なお仕事が待っていた。

 散々後ろ倒しにしていた“九尾之狐討伐作戦”である。

 神様が怒っていないことは確認できているのだが、ずいぶんお待たせしてしまったのでかなり心苦しく思っていた。

 その準備が、ようやく整ったのだ。

 歴史に名を残す妖怪だけあって、国家レベルの調整が必要だったらしい。

 東部家と源家には感謝である。

 まぁ、そもそも錦戸家が邪魔しなければ、もっと早く着手できたのだが。


「峡部さん、本日はよろしくお願いいたします」


「こちらこそ、バックアップよろしくお願いします」


 最初は俺と親父、可能なら前衛の御剣家を加えた少数パーティーで戦うつもりだったのだが、結果を見れば大所帯となってしまった。

 俺と親父、御剣家と戦闘部隊の皆さん、東部家と源家の一門、俺の知り合いが勢揃いである。

 ここまでして初めて、九尾之狐の封印を解いても良いと国が許可を出したそうだ。


「お忙しい御当主自ら参加してくださるなんて、なんだか申し訳ないですね」


「仕事ですから」


 峡部家が受けた依頼なので、うちが金を出す必要がある。しかし、我が家にこんなオールスターを雇う金はない。

 なので、費用は国からの討伐報酬で賄う予定だ。

 脅威度6弱が“討伐までに掛かった経費で報酬が下がる”のと逆に、脅威度6強は年々報酬が上乗せされている。

 先の見えない管理費用が負担となっており、封印が壊れるリスクも踏まえて増額されているとは、源さんの談。

 千年単位で積もり積もった報酬は、協力者にお金を支払っても十分な利益が期待できる。


「それに、今後は共闘体制となるのですから、源家に遠慮は不要です」


「そうでしたね。ご迷惑をおかけしないように頑張りますよ」


 学園入学前、源家の当主である源 (らん)様から俺に提案があった。

 源さんを戦闘のパートナーにしないか、という驚きの提案である。

 源家の秘術は他者の陰陽術を強化する効果を持ち、これまで安倍家の右腕──盟友として強敵と戦ってきたのだという。

 戦闘に限らず、占術を強化することで終焉之時を予言したりと、かなり汎用性のある秘術である。

 しかし、嵐様曰く、その真価を発揮するにはかなり手間がかかるようで。


『長き時を共に過ごすことで、被術者を理解し、龍笛術の効果を上げる必要があります。特に戦闘を観察することは重要となる為、この度の九尾之狐討伐に娘もお供させていただけないでしょうか』


 今後力を貸してくれるというのなら、ありがたい限りだ。

 精錬技術も盗めるものではないし、俺にとってデメリットはないに等しい。

 終焉之時対策の一環でもあるというこの申し出を断る理由はなかった。


「この前のお話では、音を聞くと言っていましたが、具体的には何を聞くんですか?」


「それは秘密です。まだ私も観測できていないので、もともと説明のしようもありませんが」


 いろいろ話を聞いていると、今回の戦いだけでなく、かなり長期間にわたって一緒にいる必要がありそうだ。

 源さんとは付き合いが長いし、陰陽術について話すといくらでも時間を費やせるから、一緒に過ごすのは別に構わない。


 だが、これって浮気にならないだろうか。

 明里ちゃんに一言断っておいた方がいいか?

 いや、仕事だし、源家と安倍家は仲良いし、事情を知ってるよな。

 そもそも婚約であって、まだ結婚してないし。

 うん、大丈夫だろう。


 今更そんなリスクに気づいた俺が自己弁護していると、こちらへ駆け寄ってくる武士見習いの足音が響く。


「聖くん! 雫ちゃん! お待たせ!」


「走らなくても大丈夫だよ。時間ピッタリだから」


 陰陽師学園の武士科に入学した純恋ちゃんとは、すでに顔を合わせている。

 双子の百合華ちゃんと一緒にこっちへきたらしい。

 新しい生活環境へ飛び込んだにも関わらず、脅威の適応力で馴染んでいた。

 こちらへ駆け寄ってくる彼女は、いつも通りの元気な笑顔を振りまいている。


「ふたりともよろしくね!」


「よろしくお願いします。御剣家の守りがあれば心強いです」


 今回の討伐には純恋ちゃんも参加する。

 嵐様が丁寧にお願いしてきたのに対し、御剣様はとても気軽に言ってきた。


純恋(すみれ)も同行させる。よろしくな』


 いやまぁ、こっちも付き合い長いし、今回はがっつりお世話になるし。純恋ちゃんに経験を積ませたいという御剣様の気持ちも理解できるからいいんだけど、気軽に連れて行くには危険すぎやしませんかね?

 事前情報では戦闘自体は苦戦することがなさそうだし、大丈夫そうではあるんだけどさ。


「それじゃあ、全員揃ったことだし行こうか」


 正門前からバスに乗り、やってきたのは京都の街中。

 ここに、九尾之狐の成れの果て、殺生石のカケラが一つ保管されている。

 現地には既に大多数が揃っていた。


「おぅ、主役のお出ましだな」


「縁侍君、久しぶり」


 縁侍君は大学へ行かず、高校卒業と共に御剣家で働いている。

 次期当主として、御剣様に扱かれているようだ。

 19歳になった彼は体も大きく成長し、現場を経験したことですっかり大人びていた。

 ひと足先に社会人となってしまったのだ。

 もう一緒に肝試しをすることもないだろう。ちょっと寂しい。


「今回は爺ちゃんもいるし、安心して戦えよ」


「縁侍君がいるから心配してないよ。ごめん、ちょっと挨拶回りしてくるね」


 最初に声を掛けてきた縁侍君も重要人物だが、優先すべき相手がこの場には多すぎる。

 まずは東部家。

 当主本人と補助役として分家の数名が来てくれた。


「恵雲様、今日はよろしくお願いします」


「やぁ、聖君。こちらこそよろしく頼むよ。とはいえ、私たちがすることは何もないだろうけどね」


「そんなことありませんよ。万が一倒せなかった時は、再封印よろしくお願いします」


 続けて源家。

 こちらは当主と共に分家の方が多数来ている。

 なんとなく、こちらを見つめる視線に敵意が混じっているような。

 当主以外は初見のはずだが、どっかで会ったっけ?


「源様、本日はよろしくお願いいたします」


「娘共々よろしく頼む。君の強さは重々理解しているが、くれぐれも気をつけてくれたまえ」


 分家の前だからか、以前会った時よりも厳格な雰囲気を纏っている。

 源さん曰く、娘に対しては結構甘いそうだが、一週間ぶりの再会で動揺するほど過保護ではなさそう。


「雫、学園はどうだ?」


「有意義な時間を過ごせそうです」


「そうか。彼の音は聞こえたか?」


「いえ、まだです。今回聞こえなければ、日中の同行を願い出るつもりでした」


「そうだな、それが良い」


 親子の会話を温かい目で見ていたら、分家の皆さんが二人にも厳しい視線を向けていることに気づいた。

 もしかしなくても、源さんが俺の“盟友”となることをよく思っていないご様子。

 社内政治的なサムシングが働いているのだろう。

 大変そうですね。

 頼むから九尾之狐討伐の邪魔だけはしないでくれよ?


「御剣様、今日はよろしくお願いします」


「うむ、お主は攻撃に専念すると良い。他のことは全てこちらで対応する」


「ありがとうございます。皆さんもよろしくお願いします」


「聖君と初めての共闘だ! みんなやる気に満ちてるぜ!」

「「「うぉおおお!」」」


 ありがたいことに、顔馴染みの皆さんがやる気を出してくれている。

 成長を見守ってきた子供の晴れ舞台、大人としていいところを見せようとしているのだろう。

 まぁ、たぶん出番はないけれど、俺の為に頑張ろうとしてくれている事実が嬉しい。

 コネ作り頑張ってよかった。


 方々への挨拶を終え、最後に親父が一言送ってくれた。


「普段より観衆は多いが、いつも通りやりなさい」


「うん」


 これだけ豪勢なバックアップがいるんだ。

 仕留め損なう心配なんてしていない。

 とはいえ、九尾之狐討伐は年単位の長丁場となる。

 討伐成功へ向けて縁起を担ぐためにも、初戦は確実に勝利しなければ。

 前世ならいざ知らず、今の俺ならそれができる。


「九尾之狐を討伐した御家として、歴史に名を刻むとしよう」


 今ここに、九尾之狐討伐作戦が開始された。

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