陰陽師学園入学式
今なお注目を集める陰陽師という存在。
そんな陰陽師を育成する教育機関発足が発表された当初、世間はとても注目した。
「自分も陰陽師になりたい!」
人々が期待に胸を膨らませて募集要項に目を通した。
そして、絶望する。
陰陽師科の必須項目に「霊力を保有すること」と書かれていたからだ。
陰陽師からすれば当たり前過ぎることだが、一般人には霊力の有無なんて分からないし、これまで感じ取ったことすらない。
一縷の望みをかけて、役所で霊力の有無を確認し、自分には応募資格すらないことを知るのだった。
陰陽師科がダメな場合、入れるのは普通科だけとなる。
それでは他の私立の普通科と何にも変わらない。
中途入学する者は京都へ転校することになるし、他県出身者は親元を離れることになる分、デメリットしかない。
陰陽師学園を目指す子供がどれだけいるか……。
そんな高すぎるハードルにも関わらず、陰陽師学園の普通科の入試倍率は脅威の100倍である。
募集要項には日本国籍と信頼性確認も含まれるため、外国人は入れない。純粋に日本人の子供達が殺到しているのだ。
その理由は二つ。
一つは、陰陽師や妖怪に関する知識を学べるから。
陰陽庁が情報を流しているが、専門的な知識を学ぶ為には陰陽師学園の特別科目を受講するのが最善である。その科目は現状、陰陽師学園にしかない。
もう一つは、陰陽財閥への就職に有利になるから。
卒業生には陰陽財閥の採用枠が設けられる。
超ホワイト企業と言われる陰陽財閥に就職できれば、将来安泰である。
これから需要が伸びる陰陽師産業に配属された暁には、専門知識がアドバンテージとなること間違いなし。
しかも噂では、成績優秀な者は出世コースに乗れるとまで言われている。
そのメリットをよく理解している親は、こぞって子供を陰陽師学園へ入れようとした。
結果、日本における陰陽師学園の偏差値はかなり高くなった。
なお、日本最高に至らなかったのは陰陽師科が足を引っ張っているからだ。
陰陽師科は学力関係なく、一定の霊力量を超えていれば全員入学できる。
陰陽師を増やすための学校なので当然だ。
陰陽師の家系に生まれた子供なら、秘術を学べる環境へ通わない手はない。
それでも、霊力を持っていると判明した一般人にはその魅力が伝わりづらく、入学を躊躇う者もいた。
陰陽師として活動するとなれば、妖怪に殺される可能性が出てくるのだから。
そこで提示されたわかりやすいメリットが、式神である。
陰陽師科に入ると、高校卒業までに一人一体式神をプレゼントされる。
自分が戦わずとも戦果を得られると聞き、役所で霊力持ちと判断された子供の大半が入学を決めた。
かくして、陰陽師は有名私立のスポーツ推薦枠みたいな存在となった。
陰陽師学園なのに……。
なお、武士科もあるのでスポーツ面でも勝てない。
〜〜〜
俺が新しい家にやってきてから一週間が経った。
入学までに必要なものを揃えたり、学園の敷地を散策したり、街までお出かけしたり。
この地へ馴染むために活動していたら、あっという間に時が過ぎていった。
そして、いよいよ入学式だ。
「新入生入場」
幼稚園から大学まで包括した学園なので、会場は学園内にあるスタジアムが指定された。
普通なら学部ごとに区切って行う式典も、創立初年度の入学式だけは全員集合する。
「大学部入場」
「高等部入場」
「中等部入場」
幼稚園児と初等部はリモート参加である。幼い子供が退屈な式典を静かに聞いていられるはずがない。
なにより、親御さんに学園の財と権力を示せれば十分だから。
入場待機列の最後尾で学園生が吸い込まれていくのを眺めていると、ようやく俺たちの番が来た。
「精鋭クラス、入場」
晴空君を先頭に、名家の子供が続いて行く。
家格を考慮した並びと見せかけて、寄付金や実力を考慮した並びとなっているのだろう。
だって、一切寄付してない俺が真ん中にいるのだから。
「あれが精鋭クラスか」
「まだ小さい子も多いじゃん。本当に強いの?」
「どう考えてもコネだろ」
やっかむ声が聞こえてくる。
精鋭クラスとは、陰陽師科の中でも対終焉之時の戦力として期待されている子供達が、年齢性別問わず集められたクラスだ。
名家の血筋や類稀な才能ある子供を始め、すでに実績を上げている俺なんかも選抜されている。
コネというのも間違いじゃないが、血筋を尊ぶのはそれだけ術の改良や平和への貢献をしているということで、信頼と実績によるものといえる。
「親父達が言ってた峡部だ。確かに空気が違うな」
「封印してた脅威度6弱、全部倒したって聞いたぜ」
「御剣様が目を掛けてるらしいな」
東北出身の子供だろうか。
陰陽師科の集団から俺の噂話が聞こえてきた。
ふふふ、もっと噂してくれたまえ。
「私、あの子見たことある」
「超イケメンじゃん」
「名前なんだっけ?」
女の子達の声も聞こえてきた。
俺の名前は峡部 聖です。
「晴空様でしょ」
「あっ、そうだった」
……知ってた。
でもいいんだ。俺には婚約者がいるから。
他の女の子なんて目に入らないくらい可愛い婚約者がね!
「あの子可愛いくね?」
「もしかしてアイドルだったりする?」
「俺、告ってみようかな」
晴空君のすぐ後ろを歩く少女は、初めて会った時よりもずっと美しく成長していた。
まだ幼さが残るものの、すれ違う男達を振り向かせるような輝きを纏っている。
そんな少女――安倍 明里ちゃんが、俺の婚約者だ。
いやぁ、今でも夢かと思ってしまう。
転生して初めて目を惹かれた子と婚約できるなんて。
自力で恋愛関係に発展する可能性がかなり低いと気づき始めたところで、この大逆転ホームラン。
とはいえ明里ちゃんからすれば、俺なんてただのお友達でしかないだろう。
婚約者という肩書きを得た今、この学園生活を通してもっと仲を深めなければ!
そんな決意を秘めつつ、陰陽師学園の入学式に臨む。
開会の挨拶は、この学園設立の立役者である阿部家当主が務める。
「皆さん、ようこそ陰陽師学園へ。これだけ多くの優秀な人材が集まったこと、天照大御神へ感謝を。退魔組織の教育機関は、世界的にも類を見ない新しい試みです。皆さんにとっても多くの不安や葛藤があったことでしょう。しかし、この場に集まった皆さんの希望に満ちた目を見て確信しました。日本の未来は必ず明るいものになると!」
財閥のトップだけあって、その語り口は自然と人々の耳に入り込むものだった。
事実を伝えるところは冷静に、感情へ訴えかけるところは力強く。
中学生ですら耳を傾けているのだから、これこそが本物のカリスマなのだろう。
10分も続く長い理事長のお話は、あっという間に終わった。
「――この学舎で、日本を守る新たな仲間の成長と活躍を願います」
「理事長先生、ありがとうございました。続きまして、関東陰陽師会代表、安倍 晴明様よりお言葉を賜ります」
おっ、お義父様じゃないですか。
顔を見るのは婚約の挨拶をしたとき以来だ。
後でご挨拶しないと。
晴明様は開校と入学へ祝福の言葉を贈り、続けて陰陽師学園らしい話が始まった。
「ここにいる大多数が陰陽師の歴史を知らぬように、陰陽師とは、陽の下で暮らす民を陰から守る存在である。妖怪と戦う術のない無辜の民を守れるのは我らのみ。命を賭けて戦う我らを顧みる者がいないとしても、日の本の守護者として戦い続ける覚悟が必要とされてきた。この場に集まった未来の同胞にも、その精神を育んでもらいたい。しかし、時代は変わりゆくもの。この学園もまたその象徴の一つである。これからは陰陽師も陽の下へ出る時代となろう。国を挙げて陰陽師のバックアップを行い、強固な対妖怪戦線を構築していく。関東陰陽師会を始め、世界の退魔組織が結束し、諸君の成長を応援すると約束しよう」
御剣家で仕入れた情報によれば、安倍家は保守的な傾向にあるらしい。
体制側としては当然のことか。
挨拶の内容的にもそれは察せられるが、世界的大災害を前にはそうも言ってられないようだ。
子供にずいぶんと大きな期待を寄せて、大人としては情けない気持ちになるが、仕方がない。
彼らが大人になったら、この道で稼いでいくのだろうし。
俺は俺で力をつけて、彼らに過度な負担がいかないように頑張るとしよう。
あっ、挨拶が終わるなりお義父様が帰ってしまった。
この変革の時代、トップに時間的余裕はないようだ。
挨拶はまたの機会にしよう。
その後、名だたるお偉方の挨拶が終わり、入学式は無事に終わった。