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【書籍化】現代陰陽師は転生リードで無双する  作者: 爪隠し
第7章 社会変革編

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変革


 関東陰陽師会の執務室にて、リモート会議が開かれていた。


「彼は、現在の日本における最高戦力の一角です。年齢的にもさらなる成長の余地がある逸材。二度と、このようなことがないようにしていただきたいです」


「当然だ」


 安倍晴明を責めるのは、関西陰陽師会の新頭領 阿部である。

 元は同じ祖先を持つこともあり、頻繁に連絡を取り合っていた。

 しかし、その仲が良好かといえば、そんなことはない。


「その当然が、身内の暴走で脅かされたことに危惧しているのです」


「そなたにだけは言われたくない。錦戸の自己顕示欲に火をつけたのはそちらだろう」


 あと少しで寿命を迎えるはずだった錦戸 金。

 彼が自らの功績を遺すことに執着するようになったのは、阿部家が世界の対魔組織をまとめてからだった。

 この時代の最も大きな功績として、阿部家が陰陽師界で語り継がれることは間違いない。

 そして、錦戸 金は人知れず死んでゆく。そんな未来がほぼ確定した。

 その頃から、錦戸 金は迷走を始める。


「秘術と式神の回収。そなたが始めた政策に錦戸が同調した結果、峡部家先代当主を死に追いやり、没落の危機に追い込んだのだぞ」


「その責任は私にはありません。私はあくまでも各家と同意の上で契約を結び、技術継承を受けました。錦戸家は違法行為を是とし、勝手に真似しただけです。むしろ、その狼藉を黙認していたそちらに責任があると思います」


「止めなかったはずがあるまい。単独で動いていたにしては強気な態度で命令無視し、最後は我が家が実力行使に至った。最終的にその成果を買い取ったというそなたに、本当に責任がないのか?」


「中途半端な成果はいらないと、向こうから商談を持ちかけてきたのです。私が裏で糸を引いていたと疑われるのは心外です」


 阿部は瞑目して首を振る。

 これ以上追求したところで、何かを得られる可能性はなかった。


「過去よりも、今です。次に峡部 聖が狙われた場合、どうするおつもりですか」


「懇親会で実力を示す前から、かの家は監視下にある。錦戸に限らず、どの勢力がいつ手を出してきても、逃すことは可能だった」


「なぜ、その頃から監視をされていたのでしょうか?」


「永き歴史の中で恩を受けた。ただそれだけだ」


 そこで口を閉ざした晴明だったが、ふと思い直したように続ける。


「否、もはや隠す必要はないのかもしれん。峡部家は悪意を己の手で退けた。そして東部曰く、次代の当主は名声を望んでいるという。ならば、話してもよいのか……」


「共に終焉之時へ立ち向かう者として、隠し事はしないでいただきたいですね」


「繰り返すが、そなたにだけは言われたくない」


 どこまで話すか思案した後、晴明は簡潔に要点のみ話すことにした。

 今回の騒動に関わる、峡部家の歴史の一端を。


「そうだな……三百年前の一時期、脅威度6弱を相手にしていたのは峡部家だった。その力を求めた他国の勢力に家族を誘拐され、救出劇の最中に子供を失った。当主は秘術を安倍家に託し、表舞台から姿を消した。秘術継承の代価の一つとして、峡部家が二度と狙われないよう、これまでの活躍や関連情報を抹消する約束を結んだ」


 それ以上を説明する気はないというように、晴明は口を閉ざす。

 これまで秘されてきた情報を受け取った阿部は、しばし思案した後に感想を告げる。


「占術に特化した安倍家が、どうして唐突に武威を示すようになったかと疑問に思っていましたが……まさか峡部家が関わっていたとは」


「武力だけではない。これは占術の精度向上にも繋がり、妖怪被害を現在まで抑えることができた」


「そのような汎用性の高い秘術、隠しておくおつもりで?」


 近々開校される陰陽師学園で公開すべき──そんな阿部家の意図を理解していながら、晴明は答える。


「無闇矢鱈に広めるべき技術ではない。陰陽師界の治安維持の観点からも、まだ公表すべきでないと判断した。最大の難点は、習得するまでに死ぬ子供が多すぎることだ」


「安倍家の教育が必須ということですか。導入するには多くの改良が必要となりますね」


 晴空(せいくう)は正確には第一子ではない。

 安倍家の教育という名の選別を乗り越え、生き残った霊力の多い子供だけが安倍家の子供としてお披露目される。

 晴空の前に生まれた子供達は、皆天へと還っていった。それは現当主の子供時代も同様。

 安倍晴明という日本の守護者は、それだけ重い使命を背負って誕生する。


「しかし、あるいは、その秘術を自力で再開発し、三百年前よりも強大な力を手に入れた峡部の血が交われば……」


 死んでしまう子供が少なくなる可能性がある。

 歴代の晴明がその可能性を考えなかったわけではない。

 しかし、目立ちたくないという三百年前の願いを思えば、ようやく無名になった峡部家と接触することは憚られた。

 安倍家の姫が婚姻するということは、それだけ重要な家ということ。世間の注目は避けられない。

 それは、三百年前の願いに背く行いだった。

 そして今は、むしろそれを望んでいる。


「彼を体制側へ引き込むことには賛成です。くれぐれも、彼の機嫌を損ねるような真似はしないでください」


「無論だ」


 暗殺者による誘拐事件が聖の知らぬ間に終わり、新たな動きが始まろうとしていた。


「ところで、錦戸 金をやったのは貴方ですか?」


「違う。あのようなことができるとしたら、それは──」


「神、でしょうか。峡部家が受けた神の依頼を、恐れ知らずなことに邪魔していたそうですからね。罰が下ってもおかしくはありません。ずいぶんとタイミングがよろしいものとは思いますが」


 阿部の脳裏には、一瞬見えたサトリの幻影が浮かんでいた。

 とはいえ、そのような能力を持つ霊獣など聞いたこともない。


「正しき行いをする者を、天照大御神は見守ってくださる。互いに、神に恥じることなき働きを」


「言われるまでもありません」


 余計な気を回す晴明へ、阿部は無感情に返す。

 用は済んだとばかりに、リモート会議は終了した。


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