表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
225/251

祖母とクズ男とジョンの主


 隙間時間ができたので、俺は久しぶりにバラエティー番組をつけてみた。


「本日のゲストは、今話題の陰陽師、大仏(おさらぎ) (ひかる)さんです!」


 いや、誰だよ。

 名前だけなら強そうだけど、名の知れた陰陽師にそんなのいないぞ。

 話題なのは陰陽師であって、この人ではないという意味か?


 ネットで調べると、陰陽師出身のタレントと書いてあった。

 なるほど、家を継いでたまに活動し、地下アイドルとして活動していた、と。

 ビジュアルが三枚目だから人気が出ず、役者に転向したり迷走した末、陰陽師ブームに乗っかって注目され始めたらしい。


 他の検索結果から、大仏さん以外にも陰陽師系タレントが多数現れているようだ。

 YouT◯berだけでなく、テレビ業界にまで進出するとは……少し前まで想像もできなかったな。

 まぁ、こっちよりは意外でもないけど。


【陰陽師謹製の道具なら円術具店へ】


 ネットの海を泳いでいると、見知った名前のポップな広告がちょくちょく表示される。

 あの店主が、商売っ気を出すだと?

 ほぼ間違いなく陰陽庁か阿部家の指示だろう。

 本職のカタログと違って、御守りなんかが多く掲載されていることから、詐欺商品対策なのかもしれない。

 騙される前に正しい店へリーチさせる狙いか。

 是非とも話を聞いてみたいが、予約が埋まっていて全然会えていない。

 繁盛しているようで何よりだ。


「聖、行きますよ」


「はーい」


 今日は、祖母のお見舞いの日である。



 〜〜〜


 病室にて、祖母は難しそうな顔で頷く。


「それは大変でしたね」


 ここしばらくの間に起こった、陰陽師関連の出来事を共有した。

 詐欺には眉を顰め、召喚ガチャ爆死には悲しみ、人命救助には大層喜んだ。

 祖母の電話から始まった社会の変革は、二年も経たずに大きな変化に発展した。

 過去のことは祖母も一般人サイドで体感していただろう。ゆえに、祖母が気になったのは陰陽師サイドの新しい情報だ。


「中学受験されるのですか?」


「うん、これがパンフレット」


 そう、ついに陰陽師学園の開設が公表された。

 既存の中高大一貫校を買収し、阿部家が全面改修したらしい。

 その学校は山奥の全寮制という時代錯誤な代物で、少子化の波に呑まれて経営破綻寸前だったとか。やはり金、金はすべてを解決する。

 なぜそんな辺鄙な場所を買収したのかといえば、陰陽師の育成という目的にピッタリだからだ。

 改良した札の実験や、新しい術具の開発、日常訓練など、陰陽師に危険はつきものである。我が家の訓練場のように広い土地が必要なのだ。

 その点、山奥ならばどれだけ爆発しても一般市民に被害が及ぶことはない。


「一般の方も入学できるのですね」


「うん。霊感が必須だけど、学力と霊力量次第で専門科目も受けられるんだって」


 陰陽師総人口増加の為、完全な素人でも陰陽師になれるカリキュラムが構築されている。

 陰陽術は代々家で受け継がれていくものなので、普通は教えてもらえない。

 男女関係なく、その全てを習得できる時代が来るとは、ご先祖様たちも想像していなかっただろう。

 陰陽師の家系においても、次世代育成のコストは高い。それを外部委託できるうえに新しい術まで教われるとあらば、断る理由はどこにもない。

 一部の偏屈を除いて、次世代の陰陽師は全員集まるだろう。


「学力次第で国が補助金を出してくれるし、街にもシャトルバスで行ける。宿舎とか校舎とか、陰陽術に関わるものは新設されたばかりだから、綺麗らしいよ」


 なんか、良い話題しかなくて詐欺みたいだな。

 これだけの好待遇なので、一般人や弱小陰陽師家が入学するには大きな壁が存在する。

 霊感・霊力量・学力……これら新しい評価基準で選抜されるのだ。

 特に、一般人の霊感と霊力量はどんぐりの背比べなので、学力がモノを言う。

 大学は東大並みに熾烈な争いとなるだろう。

 情報公開から間もないというのに、既に予想倍率はとんでもないことになっているらしい。

 ニュース曰く、現代に残されたフロンティアへ人々が集まっている、とのこと。


「宿舎ですか……聖さんがもう家を出てしまうとなると、麗華さんも強さんも寂しいでしょう」


 陰陽師学園は京都市の北側にある山奥に存在する。当然、実家から通うことはできない。

 特別待遇な俺は、阿部家が用意する一軒家で暮らすこととなっている。

 学校に隣接する土地に、関係者用の住宅が建てられるらしい。

 勉強に集中できるよう、ハウスメイドも配備されると聞いている。

 いよいよ、一般人からVIP待遇へと格上げだ。


「遠くへ行ってしまうのは寂しいですが、頑張ってくださいね」


「頑張る。あと、頻繁に帰ってくるつもりだよ。式神で空を飛べるようになったから」


 毎日通うわけにはいかないが、週一か月一くらいは帰ってくるつもりだ。

 お母様もそれを聞いて安心していたし、優也も笑顔を浮かべていたから、それが正解だと思う。


「塩砂家のお嬢さんの治療のためですね」


「ううん。それは関係ないよ。ただ単に家族に会いたいだけ」


 これまで通り東北へ通う予定だったが、関西から移動するとなれば、今以上に時間を取られてしまう。

 どうやって時間を潰すか悩んでいたところ、そんな懸念はすぐに否定された。

 なんと、陰陽師学園には詩織ちゃんも来るらしい。

 色々心配はあるが、お世話係さんも一緒なら問題ないだろう。


 今後の予定も話し終え、そろそろお暇する時間になった。


「皆さん、お見舞いに来てくださってありがとうございました。サトリさんとジョンさんにもよろしくお伝えください」


「また来るね」


 しばしの別れ、お達者で。

 俺たち一家は病室を出て、エントランスへ向かう。

 祖母が元気そうでよかったねと、家族でほのぼの会話しながら歩いていた時のこと。

 出入口近くで、二人の大人と五人の子供に遭遇した。


「姉さん……」


「麗華……」


 遭遇した相手が、まさかの伯母一家である。

 つまり、美麗さんの隣に立つあの男が、お母様を悩ませる元凶だな?

 ……なんか、思ったより落ち着いた雰囲気というか、女遊びとギャンブルをしているようには見えないというか……。

 いや、人は見かけによらないという。

 祖母の前でいい格好をするために擬態しているのかも。 


「麗華、ちょっといい?」


「はい。構いませんよ。三人とも少し待っていてください」


 伯母に誘われてお母様が外で話をしてくるという。

 俺たちは他の患者さんの邪魔にならないよう、エントランスの端に移動した。

 しかし、そうか、彼らが親戚か。

 今日初めて会うから、他人にしか思えない。

 さらにはお母様を悩ませる諸悪の根源がいるとなれば、身内として接することなどできようはずもない。


「もしかして、峡部 聖?」


 ん? 突然名前を呼んできたのは、五人の子供のうち一番小さい男の子だ。

 九歳くらいだろうか、しきりにスマホと俺の顔を往復している。


「そうだけど……どうして知っているの?」


「こいつに妖怪が取り憑いてるんだ! 倒して!」


 俺の質問に答える前に、末っ子君がそんなお願いをしてくる。

 彼の指さす先は父親で、とても切迫している様子だった。

 本当に妖怪がいたらまずいので、とりあえず確認する。


(え? どこに?)


 以前、俺も同じことを考えた。

 義理の伯父のクズ具合を聞いて最初に疑ったのが、妖怪の影響だ。

 しかし、そのときに親父に否定されているし、現在確認しても妖怪の影はない。

 念のためグルリと全身を目視したが、やっぱりいない。


「取り憑いてないよ。どうしてそう思ったの?」


「嘘だッ!!」


 全力で否定してきた。

 こういう時、子供の戯言と一蹴してはいけない。何か根拠があるんだろう。

 俺は念のため確認する。


「お父さん、見える?」


「いや、見えない。聖に見えないなら、取り憑いていることはないだろう」


 親父曰く、俺の方が視覚の霊感が高いらしい。

 これは、家にいるパターンか?

 俺は疑いの掛けられている伯父へ提案する。


「よければ、家を見に行きましょうか。家にいた場合、全員陰気を浴びているかもしれないので」


「あら、どうしたの。この空気は何?」


 そのタイミングで伯母とお母様が戻ってきた。

 事の経緯を説明すると、伯母は苦笑いを浮かべて謝る。


「この子ったら。ごめんね、聖君。うちの子が迷惑かけて」


 と言いつつ、タイミング見計らって止めにきたよね。

 妖怪がついているんじゃないかと、貴女も少し心配してたよね?


「ママ、止めないでよ。絶対妖怪のせいだって」


「大丈夫よ」


「聖君って言ったか。うちの子が変なこと言って困らせちまったな。俺が全部悪いんだ。許してくれ」


 伯母夫婦は揃って必要ないという。

 本当に大丈夫だろうか。

 子供だけが異変に気が付いていて、大人たちが気のせいだと笑った後、取り返しのつかないことに──そんなホラー作品が世にはたくさんある。


「本当に大丈夫ですか?」


「あぁ。最近俺が心変わりして、子供たちが戸惑ってるだけなんだ。最低な父親だったから、これからはいい父親になろうと頑張ってるところで……あまり上手くいってないけどな。あぁーこんな時に父親が言うべきは──うちの子とこれからも仲良くしてくれると助かる。末っ子は陰陽師のファンなんだ」


 伯父が頭を掻きながら言う。

 なんか、想像していたのと違うな。もっと調子の良いクズだとばかり思っていた。

 本人の言葉を信じるなら、心変わりしたということか。

 なら、妖怪のせいではないな。


「だから、その子は僕のことを知っていたんですね」


「聖って、強い陰陽師なんでしょ? それでも、見えないの?」


「いないものは見えないね。それに、妖怪がいたら良い変化は起きないよ」


「えぇ~、本当に?」


 ここまで疑われるということは、よっぽど変わったんだろうな。

 切っ掛けが何であれ、お母様の憂いがなくなったのなら俺としてはどうでもいい。

 それよりも気になることがある。


「ところで、どうして名前を知ってたの? どこかで紹介されてたりするの?」


 俺の名前を知った経緯が気になる。

 エゴサしても全然俺の名前出てこないのに、なんでこの子は知っているんだろう。


「thiscordで知った」


「何それ」


 聞いたところ、次世代の掲示板みたいなものらしい。

 部屋を作ってチャットやボイスで仲間と会話できるそうだ。

 どおりでネット検索しても出てこないわけである。クローズドなところで語られていたか。

 でも、そうか、知る人ぞ知る強い陰陽師として名を馳せていたか。

 それも悪く無いなぁ。

 いやいや、もっと有名になって後世に語られるくらいの人物にならなきゃ、すぐに忘れられちゃうだろ。


「強さん、子供たちも、帰る邪魔しちゃってごめんなさい。みんな、行くわよ」


 伯母一家は祖母のお見舞いへ向かっていった。

 なんか、前に会った時よりも自信に満ちているというか、余裕が感じられる。

 戻ってきたお母様の顔も晴れやかだし、家族の問題が解決してよかったよかった。

(母親たちのやり取り)


「もう少ししたら、まとまったお金返せるから。ごめんね。たくさん迷惑かけて」


「お母様から聞いていましたが、お義兄さん、本当に心変わりされたのですね。以前お会いした時よりも丸くなったような……」


「そう。妖怪に襲われた話は聞いてるでしょ。その後、なんか……ジョン教会ってところに通い始めて。それから、私にも子供にもどんどん優しくなって」


「John?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ