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体内工場

 聖が体内工場と呼ぶ、霊力の精錬を司る場所。

 そこでは、日々過酷な労働を強いられていた。

 なお、結局精錬しているのは聖自身なので、指示を出すのも加工するのも聖である。

 大量のミニ聖が工場で働いているようなイメージが、体内工場の日常だ。


 〜第壱精錬〜


 第壱精錬工場は、霊力から霊素を取り出す場所である。

 体内から湧き上がる霊力をかき集め、巨大な遠心分離機に投入するのだ。


「全力で稼働しろ! 絶対に止めるなよ! 俺達が止まれば、後の工程が全てストップする! 死ぬ気で回せ!」


 工場長の指揮により、幾多の遠心分離機がフル稼働している。

 霊漿と霊素を分離し、取り出した霊素は次の工程へ運ばれていく。

 第壱精錬は赤子から続けていることもあり、聖が寝ていても自然と精錬されていく。

 つまり、第壱精錬は24時間年中無休の地獄のような労働環境である。


 聖が最も気軽に使うのが霊素であり、式神への報酬で色をつける時にも使われたりする。

 式神達にも大変人気な一品である。



 〜第弍精錬〜


「順調順調。引き続き頼むぜ、マシーン達よ」


 ここでは、ベルトコンベアーで流れてきた霊素のうち、大きくて重いものを選別する。

 遠心分離機である程度サイズ分けされているため、最初にザックリ仕分けした後、規格外品を取り除く作業がメインである。

 初めは職人が手で分類していたが、今では篩にかけて機械的に分けられている。


 効率化の成果だ。


 選別を潜り抜けた霊素は重霊素と名付けられ、集めれば通常の霊素よりも強くて重い攻撃を放つことができる。

 また、食べ応えがあるのか、それとも卵時代にたくさん食べたからか、サトリのお気に入り料理でもある。


 貯蔵用の一部を除き、大半は次の工程へ回される。

 なお、小さくて軽い普通の霊素は第壱精錬工場の保管倉庫へ貯蓄される。



 〜第参精錬〜


 ここでは、聖が今まで溜め込み続けている特殊な霊素が作られていた。

 選別された大きくて重い霊素はこちらへ流され、プールへ投入される。


「おーい、1層と3層の液が足りなくなってきたぞ。補充しろ」


 プールには密度の異なる数種類の液体が満ちており、浮遊選別法によって霊素の密度で分類される。

 密度を統一することで操作性が増すのだ。

 聖はこれをジス霊素と呼んでいる。

 いつかきっと役に立つと確信し、聖はジス霊素をしこたま貯蔵している。


 ~第肆精錬~


 貯蔵用を除き、次の工程へ流れてきた霊素は巨大な容器に投入される。

 いっぱいになれば密封され、がっちり蓋が固定される。

 なぜなら、第肆精錬では圧力が肝となるからだ。


「圧力上昇開始!」


 プシュー


 密度を統一した場合、圧力をかけると霊素が合体することが判明した。

 各密度の霊素を合体させ、大きくする。

 最大5個までくっつき、第肆精錬内でも強弱を付けられるのだ。


 聖はこれを融合霊素と名付けた。



~第伍精錬~


 最大数5個で融合した霊素の大半は次の工程へ運ばれ、研磨される。

 融合霊素は表面がごつごつしており、操作性が悪い。

 その荒を削ることで操作性が増し、陰陽術の威力も上がるのだ。


「研磨機のメンテナンス終わって暇だなぁ」


 最初は職人が一つ一つ丁寧に時間をかけて作っていたのだが……第陸精錬が発見されてからは、すべて機械で一気に表面を削るようになった。

 聖はこれを原石霊素と呼んでおり、ここまでは結構簡単にできる。

 一時期は精錬霊素の実験で重宝していた。

 しかし現在、ここで作られた霊素は全て次の工程へ運ばれるため、ほとんど在庫はない。



~第陸精錬~


 聖が最も重宝している精錬霊素──宝玉霊素である。

 ここでも、さらに磨く。

 ある程度滑らかになった原石霊素を、今度は表層が削れるくらい磨いて元の半分ほどの大きさにすると、それ以上削れなくなる。

 それが宝玉霊素だ。

 聖が作り出せる機械では表層部分は削ることができない。

 ゆえに、第伍精錬の職人は全てこちらへ移籍し、その研磨作業に専念している。


「あっ、割れた!」


「そこは優しく磨かないとダメだろ」


 表層を削らなければならないうえに、その力加減は繊細さが求められる。

 作るのに時間がかかる理由だ。

 それでも職人の技術向上は著しく、昨今では製造スピードが飛躍的に上がっていた。

 いくら作っても足りないので、この工程は第壱精錬と同じくらい酷使されている。


 そんな工程を経て、宝玉霊素は作り出される。


〜〜〜


「おーい、お前達! 次の工程の手掛かりが来たぞ! 手伝え!」


「またか」

「次はうまくいくんだろうな?」


 工場長達は部下の一部を従え、まっさらな土地へやってきた。

 ここは第陸精錬工場の隣、第漆精錬工場が建つ……予定の場所だ。


「今度はなんだ? また茹でるのか?」

「それは意味なかっただろ」


 どこか諦めモードに入りつつある工場長たちをよそに、開発部の聖が新たな精錬アイデアを高らかに宣言する。


「次は、蒸留塔を建てる!」


「蒸留塔だぁ?」

「できるのか、そんなもん?」

「これまでもなんか完成したし、できるだろ」

「全ては俺たちの想像力次第ってな」


 すべて聖なので、自問自答である。

 新たな開発は常に自分との戦いなのだ。


「できたところで、霊素は液体になるのか?」

「そこもほれ、想像力次第」

「成せばなる。成さねばならぬってな。ほらやるぞ!」

「「「おぉ!」」」


 こうして、聖の第漆精錬探求が始まった。

 とはいえ、実験をするのはこれが初めてではない。

 かつての実験同様、探求は困難を極める。


「うわぁ! 霊素が弾けて塔に穴開いた!」


「液体にならないぞ。どうする?」

「気圧下げてみるか」


「高温にするにはどうするか……」

「この前加熱した時も焦げ跡一つ付かなかったしなぁ」

「試しに霊素の削りカスを燃料にしてみよう」


「液化霊素、上手く吐き出さないな」

「もう少し噴出口について勉強するか」


「どこで凝縮するんだ?」

「凝縮点調べるところから始めよう」

「実験開始だ!」


「熱量と液化霊素の配分で最高効率を探そう」

「宝玉霊素の消費が激しいな。こっちも効率化を進めないと」

「時間かかるぞ、こりゃあ」


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・



「「「できた!」」」


 幾多の失敗を繰り返し、様々な工夫をすることで、ついに蒸留塔が完成した。

 宝玉霊素の液化にも成功し、あとは本格稼働するのみである。

 これまでの集大成として、出来上がったものを確認すると……。


「……こんだけ?」

「……宝玉霊素を大量投入したのに、どこ行っちゃった?」

「余さず回収したはずなんだけど……」


 原油の蒸留塔と同じく、凝縮点の異なる霊素をそれぞれ分けて集めた。

 それを冷やして固めたのだが、その精製物は器にサラサラの粉が乗っているだけ。

 全部合わせても質量保存の法則が仕事をしていない。


「でも」

「あぁ」

「間違いない」


 工場長達は頷きあう。

 これまで何度試行錯誤しても見つからなかった、進化の確信を胸に。


「これは、第漆精錬霊素だ!」


 感じる力が違う。

 見た目が違う。

 美しさが違う。


 精錬するたびに磨かれていく一種の神聖さが、彼らに確信を与えた。

 長らく発見できなかった次なる力の開発に、嬉し涙が止まらないほど。

 ただ、一つ残念なことが。


「一週間あたりこの量だと、第漆精錬霊素で実験できるようになるのは……一年後?」


 更なる効率化が必要だった。

 性質も不明なため、命名は実験の後になる。

 こうして、第漆精錬霊素は完成した。

 

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