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評判


 学校だけでなく、世間は陰陽師の話題で持ちきりだ。

 これまで未知に包まれていた陰陽師について、国民は情報を求めている。

 妖怪とは何か、陰陽術とは何か、いろんな切り口から紹介されていた。


 その中でも特に重宝されている情報源こそ、おんみょーじチャンネルである。

 関係者にのみ公開されていたこのチャンネルも、ついに一般公開された。

 陰陽庁公認の動画とあって、再生数が爆発的に増えている。


「分かるよ。面白いよね」


 なんて、つい古参ムーブしてしまう。

 皆さん、不思議ワールドへようこそ。

 才能のある方は陰陽師学園でお会いしましょう。


「むっ」


 居間でニュースを読んでいると、嫌なタイトルが目につく。


【悪質な陰陽師の実態】

【裏金の流入先判明 陰陽庁】

【防衛費の増額は陰陽庁の差金】

【妖怪退治の報酬は破格の1億円?!】


 記者会見の時にも思ったが、報道機関の中にはどうしても日本を貶めたい存在がいるらしい。

 今回の陰陽師騒動に限らず、こういった逆張り報道は多い。PVを稼ぐために必死なのだろう。

 とはいえ、それらを除けば日本における陰陽師の評判は概ね良好だ。

 特にネット上ではネタにされて連日賑わっている。


『貴方は陰陽師ですか?』

『はい。依頼がないから無職なだけ』


『副業で陰陽師になろうかな?』

『じゃあクマ送るね?』


『【逮捕案件】近所の陰陽師宅へ突撃』

『逮捕されてよかったな。焔之札で丸焼きにされるよりマシだろ』


 様々な場面で陰陽師が出てくる。

 報道機関よりも先に話題になったこともあり、困惑フェイズを先に乗り越えていたのだ。

 おんみょーじチャンネルに続けとばかりに、陰陽師系YouTu〇erも増え、直接的な世間への露出が増えた。

 いち早くチャンネルを開設したところは結構人気が出ているようだ。

 俺も参入するべきだったか?

 いや、面白い話とかできないし、再生数一桁でダークサイドに呑まれるのがオチか。


『今日は弱小陰陽師のお仕事を紹介します! 脅威度4の妖怪に出会したら瞬殺されちゃう僕でも、こんな形で社会に貢献しているんですよ!』


「へぇー」


 彼らは少し前まで動画投稿素人だったはずなのに、なかなかどうして面白い。陰陽師業界の階段を一足跳びに駆け上がってしまった俺にとっても勉強になる内容だ。

 街中で脅威度2を探したり、関東陰陽師会の低難易度依頼を厳選したり、低価格で家の結界を張ったり。

 曰く、分家出身の陰陽師はどこもこんな感じらしい。

 脅威度2や3に苦戦するシーンは、とても興味深かった。


『うおっ! 死ぬかと思った!』


 演出のための過剰反応もあるが、半分は本気で戦っている。

 時々カメラマンも襲われて逃げているあたり、実際の現場感があって良い。

 札がこんなに効かないことがあるのか。話には聞いていたけれど、ビックリだ。

 おそらく、注ぐ霊力の量が足りていないんだろう。

 保有している霊力量がそもそも少ないのかも。

 やはり、不思議生物の捕食は正解だった。

 もはや影も形も見えなくなってしまったが、今もどこかにいるのだろう。

 これをどうやって子孫へ継承していくか、それが問題だ。


「詐欺が横行している……ねぇ」


 我が家の問題よりも目前に迫っているのが、詐欺師の問題である。

 賛否関係なく、実害が出ている関係で記事はそこそこある。

 偽物の御守りを高値で取引したり、お祓いと称して性的暴行を加えたり、霊感がないのに結界を張ったと嘘をついたり……枚挙にいとまがない。

 刑事さん曰く、実際の被害は報道よりも多く起こっているそうな。

 クズ共の悪行なのに、陰陽師全体の評判を下げてくるから腹が立つ。

 陰陽庁や関東陰陽師会に連絡すれば誰でも真偽を確認できるのだが、気軽に連絡するという手段が世間に浸透していない。

 ひとまず、消費者センターに相談役の陰陽師が派遣されたとか。

 警察側も阿部家と連携して何か始めるそうな。さすがに詳細は教えてくれなかった。


「ふむふむ。ほぉほぉ。へぇ〜」


 色々な記事を読んだが、背景を知ってみるとより面白い。

 目新しいものへの興味好奇心を満たすような紹介記事は、阿部家や陰陽庁の息がかかっている報道機関が出しているもの。

 懐疑的な意見や反対を表明しているものは、以前から左翼寄りの意見を垂れ流している報道機関だ。SNSなんかでは外資に乗っ取られているともっぱらの噂である。

 阿部様曰く、これら報道機関はわざと泳がせているらしい。

 世間への印象操作のため、上手いこと利用するのだとか。

 恐ろしい限りだ。


 たまたま後ろを通りかかったお母様が聞いてきた。


「聖は政治経済欄を読んで面白いですか?」


「うん。面白いよ」


 歳をとると、こういうことに興味が出てくるんだよな。税金持っていかれると特に。

 なお、俺は既にそこそこ納税しているので、増税のニュースが出るたびに舌打ちしている。


「聖は頭が良いですね。そろそろお風呂が沸きますから、キリのいいところで止めてくださいね」


「はーい」


 俺はタブレットの電源を切った。

 検索履歴に「峡部家」「峡部聖」「日本最強」が並んでいることは、お母様には内緒だ。



 〜〜〜



 錦戸家の最奥。

 豪華な和室で朝から酒を浴びている錦戸家前々代当主──錦戸 金は、声を荒げて問う。


「おい、峡部の件はどうなっている」


「一つを除き、失敗に終わっております」


 尋ねられた側近は端的に答える。

 数々の嫌がらせをしても本人まで届かず、周囲に打ち消されている。


 ・峡部家が受けた依頼を、裏で受注取消し処理する。

 →源家の人間がすぐに戻す。


 ・重要情報の一斉送信メールから宛先を外す。

 →同上


 ・飛行型式神の乱用で起訴しようとする。

 →御剣家に妨害され、安倍家と阿部家に止められた。


 ・峡部家担当区域に脅威度4妖怪が発生した際、出張中の盟友殿部家に通知を出さなかった。

 →聖が単騎で瞬殺していた。


 ・税務調査の対象にねじ込む。

 →峡部家財政担当、麗華の完璧な対応で指摘事項ゼロ。


 ・峡部家の悪評を流す。

 →源家の婦人会が打ち消す。


 これまで聖が築いてきたコネが、ここにきて活きる。

 峡部家を守るべく、陰で権力者が動いていた。

 その防衛網は頑強であり、錦戸家単体の攻勢では小揺るぎもしないほど。

 組織力もない峡部家に嫌がらせをするはずが、錦戸家の方が消耗させられている。

 唯一うまくいったのは、神からの依頼阻止だ。

 しかし、それはリスクの高い策であった。


「九尾の封印に関して、峡部家は焦りを見せておりません。東部家を筆頭に交渉人を立てて、待ちの姿勢です」


「なぜ音を上げぬ……」


「旦那様……天罰が下る恐れもあります。この辺りで手を引かれてはいかがでしょうか?」


 側近は主人へ諫言する。

 これまでも悪事は行ってきた。

 錦戸家の利になるとあらば、どんなことでも。

 しかし、これ以上は錦戸家が不利になるばかり。

 ゆえの諫言だが──。


「安倍家も苦言を呈しております。一つの家にこだわるよりも──」


「貴様、誰にものを申しておる?」


 底冷えする声に、側近は身を固くした。


「峡部家は我が傘下とする。これは決定事項だ。わかったらどんな手を使ってでも引き入れろ」


「……はい」


 若き日の金なら、間違いなく側近の諫言を受け入れていた。数年前でも、リスクとリターンが釣り合わないことに気づいただろう。

 しかし、年老いた今の金には届かない。

 主治医から余命宣告され、死の気配に怯える彼は、かつての聡明さを失っていた。


「そうだな、報告では家族を大切にしているとあったではないか。人質にとるのもありだな」


「それをしては、決して埋まらない溝ができてしまいます。いつ裏切るか……」


 かつてならば決して取らなかった選択を提案してくる。

 並の強者ならば有効でも、峡部家相手にそれはまずい。

 調べれば調べるほどに峡部 聖の異常性が判明するなか、そんな危険な案は本来採用されない。


「そんなもの、取り込んでしまえばどうにでもできる」


 しかし、死を前にした金は、躊躇わない。

 死というタイムリミットが見えてしまったことで、巧遅よりも拙速を尊ぶ。


「錦戸家の栄光のためならば、どれだけ犠牲を出しても構わん。……やれ」


(耄碌するとは、こういうことなのですね)


 側近は心の中で呟く。

 主人の言う栄光とは、錦戸家ではなく、錦戸 金の名前を歴史に刻むためのもの。

 その野望を隠すことすらできなくなった主人に、忸怩たる思いがある。

 しかし、側近は決めている。


「かしこまりました。最終手段として、準備を進めます」


 忠誠を誓った日から、死するその時まで、主人に付き従うと。

 たとえ錦戸家が破滅の道に向かおうとも、その信念は揺るがなかった。

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