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【書籍化】現代陰陽師は転生リードで無双する  作者: 爪隠し
第7章 社会変革編

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源クライシス



 東部家の訪問治療の帰り。

 東北から関東に向かって高速で空を飛んでいる最中、狭苦しい乗り物の中で、俺とサトリはカラオケを楽しんでいた。


 ♫〜


「誰〜かに〜なりたくて〜、進〜み出した〜僕の〜ス〜ト〜ォリ〜」


 ——♪


 空飛ぶ大蛇の口内に、スマホの音楽と俺の声が響き渡る。

 合いの手を入れてくれるサトリは天使だと思う。


 詩織ちゃんがなかなか袖を離さなかったので、今日は遅い帰宅になってしまった。

 退屈極まりない移動時間だが、スマホがあればいかようにも時間は潰せる。

 その日の気分で変わる娯楽は、なんとなくカラオケをチョイス。


「い〜とは〜吉に〜絡まるから〜」


 ——♪


 ふぅ、気持ちよく歌えた。

 負の感情に抑圧されていた気分を発散できたようだ。

 大蛇からしたら、飛行中に口内が震えてストレスかもしれない。すまん。


「次はサトリの好きな曲にしよう。どの曲が好き?」


 ——♪


「え、『自信エフェクト』? 気が合うね。じゃあアンコール行っちゃう?」


 四曲目を決めたその時、近くで俺の霊素が弾けるのを感知した。

 スマホでマップを確認すると、その方角は住宅街から外れた山脈を指している。

 というか、すぐ傍じゃん。


「大蛇、目的地変更。トップスピードで頼む」


 ググッと体にGがかかる。

 大蛇の背中に乗っていたら、とんでもない風圧で剥がれ落ちていただろう。


「間に合ってくれよ」


 霊素を感知したということは、俺の御守りが破壊されたということ。

 低級な妖怪に襲われただけなら良いのだが、脅威度4以上に襲われていた場合、追撃で殺されている可能性もある。

 トップスピードで向かうその先にいる人物は、一体誰だろうか。

 俺の知り合いの中で、土曜日の日暮れに山へ入る人物といったら……。


「源さんか」


 用意周到な源さんに限って、鬼火相手に不覚を取ることはない。

 おそらく想定外の妖怪に不意打ちされたのだろう。

 近くには源家当主もいるはず。

 それほど交流はないが、娘の危機を見過ごす人ではないと知っている。

 実力者である源家当主ですら危機に陥る敵が近くにいる状況……ヤバすぎる。

 少しでも早く駆けつけないと。


 マップの移動速度から予想するに、到着まで約10秒。

 近くを飛んでいて良かった。

 それでも、命の危機が迫っている中での10秒は長い。


 まだか、まだか、まだか?


「よし、大蛇、目を借りる」


 式神の目を借りることで外を視認できる。

 一刻を争う中、俺は目を凝らして夜の森を見渡す。

 御守りが壊された場所はあの辺りのはず……いた!


「減速しつつ、あの木の下で降ろせ。その後は上空で待機」


 ガパッと開く口から這い出た俺は、慣性によって地面を転がりながら大地に降り立つ。

 アクロバットの練習の成果を発揮し、最後は華麗に着地。

 コンマ数秒の差で、岩と源さんの間に入り、即座に簡易結界を張ることができた。


 岩が結界で受け止められている。

 ちょっとビビったのは内緒。


「源さん、怪我はない?」


「はい、無事です」


 声に疲労が滲んでいるけれど、命の危険はなさそうだ。


「間に合ってよかった」


 眼前の妖怪から目を離すことはしない。

 源パパを倒すほどの強敵だ。

 無視することはできない。


「情報を」


「5弱、殺人型、弱点不明、獣系」


「了解」


 さすが源さん、情報共有の仕方も習得済みだったか。


 素早く俺から距離を取った妖怪が、俺の足元に転がる岩を確認している。

 なぜ止められたのか理解できないとでも言いたげな仕草だ。


 それにしても、脅威度5クラスで殺人型とは珍しい。脅威度5弱以上の妖怪は、災害型の傾向が強いのに。

 そして、こういう敵は武士と共に戦うのがセオリー。結界があるとはいえ、紙装甲の陰陽師が前線に立って戦う相手じゃない。

 なるほど、さすがの源家当主でも遅れをとるわけだ。


 VIPな要救助者が二人もいることだし、ここは確実に対応するとしよう。

 札には既に宝玉霊素を込めてある。


「急急如律令」


 俺が札を飛ばすと同時、妖怪は俺に襲いかかってきた。

 脅威度5弱だけあって、誰が最も恐ろしい敵かちゃんとわかっているらしい。

 ただ、どんな選択をしたところで意味はない。俺の簡易結界を破れなかった時点で勝負は決まっている。


 ガァァァァァアアア!


 焔之札が炸裂し、妖怪の全身を炎で包み込む。

 業火に焼き尽くされた肉体はあっという間に焼け爛れ、悶えながら塵となって消えていった。

 オーバーキルだったな。


「他には?」


「2体、同行していた陰陽師が対応しています」


「じゃあ、そっちも片付けましょう。お父君の怪我は大丈夫ですか?」


「背中を大きくえぐられて出血が止まりません。頭も強く打ったので、早く病院で診ていただきたいです。他2体は脅威度4ですから、彼らで対処可能です」


 なら、要人の救護を優先しよう。

 源家当主に同行する選りすぐりの陰陽師なのだから、脅威度4くらい倒せるはず。

 後で戻ってきて事情を説明すれば問題ない。


 なにより、源パパの出血量がヤバい。このままだと死んじゃう。

 死なれたら今回の支出を誰が補填するというのか!

 宝玉霊素は安くないんだぞ!

 生き延びたうえで、たっぷり恩を感じてもらわなければ!


「……急いだ方がいいですね。大蛇!」


「お願いします」


~~~


 大蛇エアラインで最も頼りになる医療施設——御剣家の医師の元へ直行。

 大手術の結果、源パパはなんとか一命をとりとめた。


「毎度毎度、予約もせず駆け込んですみません」


「あと1分遅れたら死んでいました。お手柄ですよ」


 超絶名医がそう言うなら、近くの病院へ連れて行ったら死んでいたということである。

 俺の選択は間違っていなかった。


 聞いた話では、現地に取り残された同行者たちも、俺が到着したすぐ後に妖怪を倒したそうな。

 忘れられし封印が限界を迎えたことによる、突発的な妖怪発生事件は、犠牲者を出すことなく無事に終息した。


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