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「おかえりなさい、まま」


「ただいま、聖。ちょっと見ない間にまた大きくなりましたね」


 お母様が帰ってきた。

 俺は裕子さんに連れられて先に家の前で待っていた。

 どうしてもお母様におかえりを言いたかったのだ。


「聖に応援されたから、ママは頑張れました。ありがとう」


 入院している間もお母様は毎日俺へ電話してくれた。

 なので俺は、頑張っているお母様に拙い応援の言葉を送り続けた。

 1人で頑張っているお母様を少しでも励ませたら、と。


「ほら、この子が聖の弟ですよ。坊や、お兄ちゃんですよ。はじめまして、と言っています」


 ほぉ……こ、この子が俺の弟か。

 小さい……いや、俺も小さいのだが。

 なんというか……うん、俺が守ってあげないとな。


 新しい家族の誕生に、俺は言葉にならない衝撃を受けた。

 胸の奥がホカホカするような、ムズムズするような、何とも言えない温かさだ。


「母子ともに無事で何より。聖ちゃんはとってもいい子だったよ」


「裕子さん、ありがとうございました。おかげさまで私も安心して出産できました」


 疲れているだろうからと、裕子さんは早々に帰ってしまった。

 本当にお世話になりました。


「「ただいま~」」


 久しぶりの我が家に入り、お母様は弟と共に寝室へ向かう。

 弟が寝かされ、かつて俺が寝ていた場所は彼のものとなった。

 お母様も休めばいいのに、疲れている身体を押して家事をしていた。休んでほしい……でもご飯用意してもらわないと飢えてしまうこの幼い体が恨めしい。


 そして、俺の時の反省を活かしたのだろう、夜のうちにクソ親父が帰ってきた。


「誕生の儀式を行う」


 またか、またなのかクソ親父。

 10倍量じゃないだろうなぁ、なぁ?!


 まぁ、今回は俺がいる。

 ヤバそうなら俺が霊力全開で助ければいい。

 今なら第陸精錬霊素を使って瞬殺できるだろう。


 台所へ歩いていったら、案の定あった。

 覚醒の御魂とか呼ばれていた真っ黒な米の塊が。

 触手でその周囲を撫でてみれば、いるわいるわウジ虫どもめ。

 でも羽虫がいない。これなら赤ん坊でも大丈夫かな。


 寝室に戻ると、陰陽師の正装を纏ったクソ親父がいた。

 授乳しやすい服を着たお母様も中で待機している。


「聖、お前は居間で待っていなさい」


「やっ」


 俺は加奈ちゃんの真似をしてお母様の隣へ移動する。

 ここならいつでもサポートできる。

 不思議生物を認識できない2人では不安すぎるだろ。

 これまでどうやってきたんだか。


「仕方ない、そこで大人しくしていなさい。これより誕生の儀を執り行う」


 俺の時にも準備していた儀式の会場セッティングは既に終わっている。

 俺の時よりも仕事が丁寧な気がする。あの時は急いでいたから、急ごしらえだったのかもしれない。


 そして、俺の時と同じように先端に光が灯る線香のようなものを弟の目の前にかざした。

 ん? クソ親父の表情が変わった。

 顔の筋肉は動いていないのだが、雰囲気が変わったような。


「どうしたのですか、貴方」


 お母様の問いに答えることなく、クソ親父は線香を左右に振る。

 しかし、弟は何の反応も見せない。あんなに眩しいものを目の前に出されたら嫌でも反応すると思うのだが。


「この子には陰陽師の才能がない。誕生の儀は中止とする」


 え? 何それ。

 ここまで準備しておいて中止?

 才能がないって、あの線香でそんなことが分かるのか?

 困惑する俺の隣で、お母様が項垂れる。


「ごめんなさい、貴方。ごめんなさい、優也。私のせいで……」


「違う。陰陽師の才能は運によるものだ。聖がいい例だろう。お前のせいではない」


 なぜかお母様がものすごく悲しそうな表情で項垂れている。

 クソ親父が抱きしめて慰めているが、いったいどうしたのだろうか。


 会話から推測するに、陰陽師の才能は遺伝するのではないかと思われる。

 お母様は陰陽師について知らないことが多い、つまりは一般人だったのだろう。

 だから、弟に才能が無いのは自分のせいだと、お母様は自分を責めている……多分、こんなところか。

 殿部家を訪れた時、籾さんは言っていた。この辺りの陰陽師で子宝を望まない家は無いと。

 これも想像だが、陰陽師が激減するような何かが起こったのだろう。強敵が襲ってきたとか。

 我が家には親類がいない。祖父母もいない。

 だから、俺が生まれて早々次の子供を作った。陰陽師を増やすために。


 うーん、お家存続のためとか、そういう話か?

 聞いたことはあれど、そういう価値観を前世で持っていなかった俺にはあまり理解できない。

 お母様とクソ親父を見ていれば優也を蔑ろにすることはあり得ないと断言できる。

 だが、ここは兄として弟に安心して過ごしてもらえるよう頑張るべき場面だ。


「おとーさま、おかーさま」


「「聖?」」


「ぼくが、がんばるから」


 1歳児にしては流暢すぎるかもしれない。

 まぁ、今更か。

 ちょっと成長の早い子だとしっかり認識してもらおう。


「さいきょーの、おんみょーじに、なるから」


 キメ顔で宣言した俺に、お母様はさらに大粒の涙を流した。


「ありがとう、聖。私も、ひっく、頑張り、ます。泣いて、いられ、ませんね」


 しゃくりあげるように泣くお母様は、先ほどよりも力に満ちていた。

 啖呵を切った甲斐があるってものだ。


「聖、ありがとう。兄として、頑張るのだぞ」


 言われずとも頑張るわ。


 俺の弟は陰陽師として才能が無いらしい。つまり、不思議生物や妖怪に抵抗できないということ。なら、俺が守ってやればいい。


 陰陽師のプロフェッショナルとして有名になる。そして家族を守る。


 当初の目的でもあり、新しい決意でもある。

 俺は新たな決意と共に霊力量upに邁進するのだった。




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