【弐巻発売記念SS】初報酬の使い道
書籍弐巻の内容に合わせて、真守君の初仕事後のお話です。
本日の指導の時間が終わり、夕食に向かおうとする俺を親父が呼び止めた。
「受け取りなさい」
そう言って差し出してきたのは、4号サイズの茶封筒。
俺宛の手紙かな? いや、それはどうだろう。
社会人なら役所からの郵便物もあり得るが、俺はまだ7歳だ。差出人に心当たりがない。
そのうえ、茶封筒には何も書かれていなかった。
受け取って裏面を確認しても、何も書かれていない。
ん? ちょっと厚みがある。
「何これ?」
「報酬だ」
報酬?
一体何の?
封もされておらず、さくっと中身を取り出すと、そこには10人の諭吉、いや、栄一がいた。
報酬って、現生かよ!
「この前の任務は実質聖1人で解決した。だから、報酬は全てお前のものだ」
これは、あれだ。
真守君の依頼の達成報酬だ。
親父よ、もう少し分かりやすく説明してくれ。
いきなり現金渡されたら驚くだろ。
まぁ、説明されたとしても小学一年生に渡す額ではないが。
「経費を差し引いた利益だ」
全額ではなく、純利益を渡してくるところが親父らしい。
およそ半日で10万円か……ボロ儲けだな。
専門職の中でも希少な陰陽師、さらには命の危険がある仕事と考えれば、妥当な金額かもしれない。
顧客も金持ちばかりだから、自然と相場が高くなっていそうだ。
「何に使おう。初任給ではないけど、ここはやっぱりお父さんとお母さんに日頃のお礼を」
「……よく知っているな。だが、これはお小遣いのようなものだ。自分のために使いなさい」
いや、小学生にとっての10万円は、大人にとっての宝くじ1等レベルの大金ですよ?
大人ですらお小遣い感覚で使うものじゃない。モノによっては結構いい電化製品買えちゃうぞ。
でもまぁ、今回は親父のバックアップあっての報酬だし、親父の言う通りにしておくか。
両親へのプレゼントは、自分だけの力で依頼をこなした時に改めて考えるとしよう。
「何に使おう……」
結局そこに戻ってしまう。
子供の欲しがる高級品といえばゲーム機だが、ゲーム機本体から一式揃えても10万円は使いきれないし、ゲームで遊ぶ時間があるなら陰陽師の訓練に充てたい。
「うーん」
「そこまで悩まなくとも、欲しいものが見つかった時に買えばいい」
要するに、貯金だな。
それは俺も最初に思いついた。
しかし、貯金なんて大人になればいくらでもできる。子供の頃のお金は子供のうちに使ってしまった方が良い。
感受性豊かな今しか経験できないことがたくさん……たくさん……。俺の感受性は前世から引き継いでるから、年寄りの凝り固まった思考そのまんまだな。
急いで使う必要もないか。
ふと、陰陽師の道具を扱う専門店のカタログが目に入る。
そうだ、大人になったら自分で仕事道具を買うのもアリだな。
幼い今は貯金しておいて、いつか祖母がプレゼントしてくれたような高級品を手に入れる。悪くない。
待てよ、祖母と言えば……。
「お祖母ちゃんの御守り、壊れたんだっけ?」
「そのようだ」
親父からその旨を聞いていた俺は、名案を思いついた。
思いついてみれば、初報酬の使い道はこれしかない。
「御守りに必要な道具、このお金で揃えられる?」
「品質次第だ。お前が本気で霊力を注ぐなら、高品質なものが必要になるだろう」
自分の体の一部など、素材によって霊力の容量が変わってくる。
たくさん霊力を注げる素材は需要が高く、その値段も跳ね上がっていく。
カタログを覗いてみると、10万円あればそこそこの品を用意できそうだ。
「お父さん、このお金で御守りの材料一式注文して」
「家族に渡す御守りの費用なら私が出す。お前は自分の欲しいものを買うといい」
親父の気遣いは嬉しいが、それではダメだ。
「ううん。僕がお金を出した材料で手作りするからこそ、意味があるんだよ」
高齢な祖母はいつまで生きられるか分からない。明日にでもポックリ行く可能性が十分ある。俺は老人の貧弱さをよく知っている。
なので、恩返しをするのに早すぎるということはない。
可愛い孫が自分の為にお小遣いを使って、プレゼントを用意してくれる。これほど嬉しいことはないだろう。俺なら泣いて喜ぶ。
……金額は可愛くないけどな。
子供時代の今しかできない、価値のあるお金の使い方だ。
「分かった。良いものを揃えよう。ついでに麗華と優也の分も作成を頼めるか」
「いいよ。せっかくだし、お父さんの分も作ろうよ」
「……なら、頼むとしよう」
任された。
家族の安寧は俺が守ってみせる。
通知機能のある御守りで!
今度こそ、本格的な御守りをプレゼントするからね。お祖母ちゃん。
【本日書籍発売!】
現代陰陽師は転生リードで無双する 弐
ついに、本日発売です!
わーい!
予約購入してくださった皆様、誠にありがとうございますm(__)m
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<見どころ>
・書下ろしストーリー約3話分
その内の一話は上記SSと繋がっています。書籍にて御守りを受け取る祖母の様子を見届けてください。
・成瀬ちさと様の美麗なイラスト
真守君とお祖母ちゃんと雫ちゃんのキャラデザが素晴らしい!
さらに表紙がカッコいい!
続刊して、参巻で御剣家の面々と邂逅するためにも、何卒応援よろしくお願い申し上げますm(__)m