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初召喚2

「翼……?」


 脱皮が終わった大蛇に追加装甲がついていた。

 長い体の頭部寄りの位置に、ドラゴンのような大きな翼が生えている。

 ただ、大きいというのは人間サイズと比較しての事であり、大蛇の体躯と比べたら随分小さい。物理的に考えて、あれで飛べるとは思えない。


「これが……真の姿ということか?」


 その驚きようを見るに、変身する式神は一般的ではないらしい。

 凡夫で終わりたくない俺としては、初召喚の式神が特別な能力を持っていて喜ばしい限りである。


 面白い変身ショーを披露してくれたが、大して強くなった感じはしない。

 頭部の傷を狙う作戦はそのままだ。


(行け)


 俺が焔之札を3枚飛ばし、大蛇へあと少しで届く距離まで迫ったその時、突如ターゲットの動きが変わった。

 正確には、逃げる方向が変わった。


「飛んだ……」


 地を這う動きそのままに、翼をゆるりと動かしながらテイクオフ。

 まさかの動きに俺は唖然とし、札の追尾が遅れてしまった。

 いや、翼生えたけどさ。あの巨体を飛ばすのは物理的に無理があるのでは?

 何か不思議な力が働いているに違いない。


 後ろを振り返れば、親父も驚愕の眼差しで空を見上げていた。


 空を飛ぶ式神か……。

 こいつに乗れば遠くまで一人で移動できるようになる。

 是非とも欲しい。戦力というより足として雇いたい。

 やる気が湧いてきた。


 悠々と空を飛ぶ大蛇は俺から一定の距離を保って移動し続けている。

 僅かな時間でかなり移動しており、あんなに大きかった蛇が小さく見えるほどだ。


(帰還するには俺を倒さないといけないから、これ以上逃げられないだろうけど)


 しかし、このまま様子見されていては膠着状態のまま、時間が無駄になってしまう。

 早く帰ってお母様を安心させるためにも、さっさとケリをつけよう。


 俺は改めて札の操作に集中し、大蛇を追尾する。

 風を切って飛ぶ札は日々の訓練によってかなりの速度を出しているのだが、いつまで経っても追いつく気配がない。


(こいつ、かなり速いな)


 防御力が低い代わりに、素早さ特化なのかもしれない。


 3枚の札を役割分担し、1枚を追尾、1枚を挟み撃ち、1枚を遊撃として操作する。

 ゆるく円を描く大蛇の軌道を読み、狙い通り挟み撃ちが実現した。遊撃は長い胴体の真ん中に狙いを定め、ぐんぐんスピードを上げていく。

 これでどれかは当たるだろ――。


「まじか」


 思わず声が漏れてしまった。

 大蛇が翼を羽ばたかせると、さらにスピードを上げて追尾する札を置き去りにし、急降下することで残り2枚の札も狙いを外された。

 3枚仲良く大蛇の後塵を拝する羽目になるとは。

 かなり悔しい。

 

 重霊素はその名の通り、霊力や霊素より重い。

 故に、俺の出せるトップスピードよりはだいぶ遅くなっている。

 そう、まだ全力で負けたわけではない。

 調伏したらリベンジマッチしてやる。


 地面スレスレまで急降下した式神は、ついに逃走を諦めたのか、そのままこちらへ向かってくる。

 もう一度挟み撃ちにするため、俺は札を取り出す。

 すると、再び大蛇が翼をはためかせ、垂直に飛び上がって逃げようと――違う!


 全身を大きくくねらせた大蛇は、その長い尻尾を大地に叩きつけ、硬い岩場を抉り飛ばしてきた。

 岩の散弾が砂煙と共にこちらへ襲いかかる。

 常人なら岩に打たれてズタボロになることだろう。

 だが、準備万端な俺にとっては脅威たり得ない。

 

 あっ、俺は問題ないとしても、霊力しか使えない親父には堪えるかも。

 念のため、親父にも結界張っておこう。


 ドン ガコン ドガドガドガ


 見込み通り、飛んでくる岩は全て結界に阻まれ、俺の足元に落ちていく。

 親父も無事なようだ。

 砂煙の合間から見えた親父の顔には「私のことはいいから戦いに集中しろ」と書いてあった。


(いや、言いたいことはよく分かるけど、どうにも緊張感が湧いてこないというか……)


 今の俺には周りの心配をする余裕すらある。

 大人が子供の遊びに付き合ってあげるような、そんな感覚だ。


 つまり、子供の思わぬ行動によって急所にダメージを負うこともあるわけで。


 シャー!


 辺り一面を覆う砂煙を隠れ蓑に、大蛇が俺の眼前まで接近していた。

 巨大な口を全開にして、鋭い牙が俺の頭に迫ってくる。


(爬虫類の見た目してる割に頭を使ったようだな。偉い偉い)


 多少驚きはしたが、恐れることは何もない。

 俺は自信を持って右手を掲げる。


 ガッ!


 俺の頭上を欠けた白い牙が飛んでいく。

 側から見れば、小さな子供が大蛇の牙を片手で受け止めたように映るだろう。

 実際には、俺の体に沿って変形した結界が受け止めたのだが。


(さすがは陣を使った結界。簡易結界より安定感がすごい)


 今回用意した結界は、緊急用の簡易結界ではなく、しっかりと準備が必要な本来の結界だ。

 身を守るための陣については、親父も惜しみなく支援してくれた。

 安全第一というのが、親父とお母様の決めた指導方針らしい。


 とはいえ、大蛇の渾身の一撃は予想よりも軽かった。

 この感じだと簡易結界でも防げただろうな。

 スピード特化の代わりに、その他の性能は残念な式神のようだ。


 とにもかくにも、ようやく動きが止まった。


 スピード自慢が動きを止めたら、それはただの的である。

 ようやく追いついた3枚の焔之札が大蛇の頭に張り付く。

 炭化した傷へ重なるようにして張り付いたそれは、俺の意志により効果を発揮する。


 お前の雇用主となる男の力――とくと味わうがいい。


 激しい炎が蛇の頭を覆い、内部にまで到達した。

 頭蓋を炭に変え、脳みそを焼き尽くし、赤い瞳から光が失われていく。


 頭を潰しても動く可能性があるので、札を取り出したまま、しばらく様子を見る。

 優雅に羽ばたいていた翼がピクリと痙攣してその動きを止めた。

 波状運動で逃げようとしていた胴体も力を失い、ズシンと音を立てて大地へ落ちる。

 地面に転がった白い体が塵となって崩れ落ち、風に乗って消えていく……勝ったな。



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(続刊すると今回の戦闘パートのように執筆頑張れるので、何卒m(__)m)

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