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召喚術



 とある日曜日の朝、ついにその時はやって来た。


「お父さん、抜けたよ!」


 俺は右手にドロップアイテムを掲げながらダイニングへ飛び込んだ。

 ここまで外見相応の行動をとったのはいつ以来だろうか。

 朝食の準備をしていたお母様がちょっと嬉しそうな顔で(たしな)めてくる。


「家の中で走ったら危ないですよ」


「ごめんなさい。でもほら、これを見て」


 そう言って俺が掲げたのは、つい今しがた抜けたばかりの乳歯である。

 昨日の夜の時点でほぼ抜けかけていた。そして、今日は親父が休みの日。良いタイミングなので、今朝起きた時に舌で弄って最後の一押しをしたのだ。


「4つ目、だな」


「これで召喚できるよね」


「ああ」


 4つ目の乳歯が揃い次第、すぐに召喚の儀を行うと以前から聞いていた。

 あぁ、待ち遠しかった。

 1週間前から今日が訪れるのを待ちわびていたんだ。


「お父さん、早く僕の式神を召喚しに行こう!」


「はぁ……分かった。すぐに準備をするとしよう」


 初めて乳歯による式神召喚を聞いたときは見学のみの予定だったが、俺の巧みな交渉術によって、俺が式神を召喚することになった。



 ~~~



 先週の同じ時間。

 数ミリほど前後に動く乳歯を弄りながら、俺はふと思った。


「僕の乳歯なんだから僕が使うべきだと思う」


「いきなりなんだ」


 だって、俺の歯だぞ。

 自分の肉体なんだから、自分が使うべきだろう。

 養育してもらっているとはいえ、式神召喚のチャンスを逃す手はない。


 俺の主張を聞き、親父が答える。


「息子の歯を使って親が式神を召喚する。そして、弱い式神であれば息子に継承する。それが峡部家のしきたりだ」


 まぁ、普通はそうだろうな。

 普通は。


「私の時も父が召喚の儀を行い、5匹の鼠を召喚した」


 え、鼠?

 体の一部を使ったのに、鼠?

 なんか……その……しょぼくない?


「そうそう当たりが出るものではない」


 親父曰く、峡部家を含む陰陽師の式神ガチャは結構理不尽な仕様となっている。

 ガチャでいうところのSSRやURのような“高レアリティキャラ”は、現実での“自分より少し弱い式神”に該当する。

 親父が鬼と戦った時のように、戦闘向きの式神は契約前に調伏が必須となる。つまり、自分より強い式神が召喚できても、倒せなければ何の意味も無くなってしまうのだ。

 よって、ただでさえ戦闘向きの式神が出てくる確率は低いにも関わらず、弱すぎる式神と強すぎる式神はハズレ扱いされる。

 身の程を弁えたチームしか作ることができないという、ゲームならクソゲー認定されるような制約のなかで、召喚術系陰陽師は日々妖怪と戦っている。

 

「強い式神が召喚された場合、真っ先に危険が及ぶのは召喚者だ。子供には任せられない」


「でも、僕が勝てそうな式神が召喚できても、交代出来ないでしょ?」


「…………」


 あっ、やべ、つい本音が。

 俺が夏休みに倒した、脅威度4の妖怪という試金石により、精錬霊素の威力の高さは明白となった。

 

 脅威度4ともなれば複数の家で倒すのが一般的。それをたった1人で、しかも2回の攻撃で倒した精錬霊素の実績は申し分ない。

 さらに、まだ全力の第陸精錬霊素も温存している。

 これまで続けてきた努力は破格の結果をもたらしたのだ。


 さて、自分の戦闘力を把握したところで、親父の力量を聞いてみると?


『事前準備が整っていることを前提に、敵が殺人型の妖怪で、鬼を使えば、4にも勝てる。時間は……30分程か』


 とのこと。

 俺が倒したのは4の中でも弱い方とは聞いているが、突発的戦闘であったこと、2撃で倒したこと、第陸精錬霊素を残していることを考慮すれば、親父より火力が上なのは明らか。

 さらに保護対象がいなければ、単身距離を稼いで攻撃に専念することもできる。言っちゃあなんだが、俺の方が強い。

 もちろん、前回の戦闘で経験不足は実感している。

 その分は事前準備で補うつもりだ。


 俺の火力があれば短時間で戦闘終了可能なうえ、割と高い確率でジャイアントキリングを狙えるとあれば、試してみたくもなる。


「やらせて」


「ダメだ」


「そうですよ、聖。そんな危険なことさせられません」


 両親ともに反対してくることは目に見えていた。

 しかし、冷静に考えても俺がチャレンジする価値はある。

 よし、こんな時こそアレを使おう。

 クラスメイトたちから学んだ小学生固有技、駄々をこねる!


「やりたいやりたいやりたいやりたいやりたいやりたいやりたいやりたいやりたい!」


「!……」


 おぉ、効いてる効いてる。

 滅多にわがままを言わないからこそ、こういう場面で効果が出るのだ。

 もう一押しだな。


「やりたいやりたいやりたいやりたいやりたいやりたいやりたいやりたいやりたい!」


「……分かった、1回だけなら……良いだろう」


「あなた!」


「ありがとう!」


 満面の笑みを浮かべてお礼を言えば、親父は「しょうがないか」とでも言いたげな溜め息を吐く。

 子供の無邪気さに負けたな、親父よ。いや、この場合は腹黒さにか。


「危険なんですよね」


「危ない式神が召喚された場合、私の判断で即座に中止する。良いな」


「うん!」


 今この時は邪念など欠片もなく、肉体年齢相応な返事が飛び出した。

 それも当然だ。人生初の式神召喚、楽しみで仕方がないのだから。

 親父の監督があるということで、お母様も渋々承諾してくれた。

 これもひとえに普段の行いの賜物である。


「お兄ちゃん何するの?」


「ちょっと勉強してくる。優也も宿題頑張ってね」


 式神召喚の前に、そのやり方を学ばなければならない。俺は親父の仕事部屋へ向かい、峡部家の秘術――召喚術を教わった。

 秘術の指導というだけあって、普段より少し難しい。

『そこまで召喚したいのなら覚えてみよ』とでも言いたげな親父から出された、俺への試練である。


「できた。うん、もう覚えたかな。あとは1人で練習できる」


「……上出来だ」


 親父は数日に分けて教えるつもりだったが、俺はその日のうちに覚えてしまった。

 待ちに待った秘術の指導ということもあり、若い脳みそが知識をギュンギュン吸い込んでくれる。

 そもそも、親父が鬼退治に挑戦する前の時点で基礎の基礎は教わっていたようだ。万が一親父の身に何かがあった時、俺が独学で学べるようにしておいたのだろう。

 毎日練習を欠かさなかった成果がここでも発揮された。


 息子が優秀で嬉しいだろ?

 だからそんなに悔しそうな顔しないでくれ。どれだけ召喚したかったんだ。


 こうして俺は、小学2年生の秋、初めての式神召喚へと挑むことになった。





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