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閑話 冴えない彼女の恋愛事情 side:千絵

御剣家訓練仲間の小学6年生、千絵ちゃん視点です。


 御剣 千絵(わたし)(わたし)のことが好き。


 平均的な家庭に生まれた私は、平均的な学力、平均的な身長で、これといって特徴はない。

 唯一人より優れているのは、内気(ないき)をちょっと扱えることだけ。

 それだって、ここに来たら平均になっちゃうけど。


 それでも私は、平凡な自分のことが結構好き。

 毎日が楽しいし、家族も友達も大好きだし、幸せな人生だと思う。

 自己肯定感が高いっていうのかな。


 でも、1つだけ……。

 1つだけ、不満がある。


雅人(まさと)! 今日こそ私が勝つから!」


「おう、受けて立つ。まぁ、外気を感じ取れない愛梨沙(ありさ)には、負ける気がしないけど」


「言ったわねー!」


 今日も2人は仲良く張り合っている。

 お姉ちゃんは本気で勝負しているみたいだけど、雅人君にとっては一緒に遊ぶのと同じ感覚みたい。むしろ、お姉ちゃんと一緒に居られて嬉しそう。

 小学校に入ってから2人で遊ぶ機会が減ったって、雅人君が残念そうに言っていたから。


 私は、雅人君のことが好き。

 いつも私に優しくしてくれる雅人君のことが、ずっと前から好きだった。

 でも、雅人君は愛梨沙お姉ちゃんのことが好きみたい。


『真剣に取り組んでいる時の愛梨沙の顔が、すごく綺麗だなって』


 縁侍さんと雅人君が恋バナしているのを聞いちゃったときは、しばらく落ち込んだ。

 でも、薄々気が付いてた。

 好きな人の視線がどこに向いているかなんて、分かって当然だもの。


 家が近い幼馴染で、私より一年早く御剣家の訓練に参加して、思い出をたくさん作ってきた2人。だから、後からやって来た私なんかより、学校で一番きれいな愛梨沙お姉ちゃんに惹かれるのも当然のこと。

 平凡な私には、その差を埋めることはできなかった。


 お父さんとお母さんから貰った顔なんだし、こんなこと言っちゃダメなのはわかってるんだけど……もう少しだけ顔が綺麗だったら、雅人君は私のことも見てくれたのかな。


 これでお姉ちゃんの性格が悪かったら望みはあったけど、私がお姉ちゃんと呼んで慕うくらいには優しくて素敵な人だから、本当に敵う気がしない。

 顔も性格も良いだなんて、ずる過ぎる。


 ただ1つ救いがあるとしたら、お姉ちゃんは雅人君のことを異性として見ていないことかな。


『縁侍さんかっこいいなぁ。私たちですら全く追いつけないあの速さとか、サラッと訓練こなしちゃうところとか』


『確かにすごいよね』


『はぁ~。かっこいいなぁ』


 私とお姉ちゃんの2人で休憩している時に、そんな会話をしていた。

 雅人君には悪いけど、お姉ちゃんは縁侍さんのことが好きなんだよね。


 だから、私の恋敵はお姉ちゃん本人じゃなくて、雅人君の中のお姉ちゃん。

 雅人君にあんな顔をさせられるお姉ちゃんに私……勝てるかなぁ?


「聖来た!」


「来たよ」


 健太君と仁君が道場に戻ってくるなり、大声で報告する。

 そっか、2人が朝からソワソワしてたのは聖君が来るからか。

 先生の判断で、訓練開始は聖君が来てからになった。

 しばらくして、お父さんと一緒に聖君がやってくる。


「おはようございます。今日からまた訓練に参加させてもらいます。よろしくお願いします」


 この子のことは、はっきり言ってよく分からない。

 すごくしっかりしてて良い子なんだけど、妙に大人びていて、健太君と仁君を見慣れている私には違和感がある。

 でもやっぱり良い子だから、皆と仲良くできるんだよね。

 特に健太君と仁君は大はしゃぎ。

 訓練中もずっと一緒にいる。


 そう、聖君、ついて来てるんだよね。

 毎週ここで訓練を受けている私たちと違って、街に住む聖君はあんまり訓練できないと思うんだけど。

 そもそも、内気も使えないはずなのに、どうやってついて来てるんだろう。


「速すぎない?」


「兄ちゃん最近ずっとこんな感じだぞ」


「すげーよな」


 後ろの方から聞こえてきた3人の声に、私はひそかに同意する。

 縁侍さん、いつもより頑張ってる。

 最近はずっと頑張ってるけど、今日は特に。

 これも、聖君が来たからかな。


 あっ、御剣様だ。

 普段は滅多に来ないのに、聖君がいる時は毎日見に来る。

 今年も新しく体験に来た子がいたけど、その日のうちに帰っちゃった。御剣様も少し見学したらすぐにいなくなってたし、こんなに熱心に指導に来るのは聖君の時だけ。

 それだけ聖君に期待してるってことなんだと思うけど、その理由まではわからない。

 でも、気の才能ないって言われてたし、うーん。

 やっぱり、不思議な子だな。


 次の訓練メニューまでの休憩中、雅人君が私の隣に……!


「どうかした? なんかボーッとしてたけど」


「ううん。なんでもないよ」


 うぅ、変な顔見られちゃったかな。恥ずかしい。

 でも、雅人君が私を心配して話しかけてくれた。嬉しい。

 2つの感情で私の心はいっぱいになる。


 その後の訓練には力が入った。

 雅人君が見てくれてると思ったら、ボーッとなんてしていられない。

 本当は妖怪と戦うのなんて嫌だけど、私は雅人君と会う為にここへ来ている。

 自分から話しかけるのが苦手だから、いつも話しかけてくれるのを待ってしまうけど。

 今日は良い日だな。きっかけをくれた聖君に感謝しないと。


 ……

 …………

 ………………


 はぁ、はぁ、はぁ。

 訓練メニューも残りは滝行だけ。

 ここまで動き続けて疲れちゃった。


 ふと、お姉ちゃんの方を見ると、その視線が雅人君の方へ向かっている。

 え、も、もしかして、お姉ちゃん雅人君の事……!


「お姉ちゃん、どうしたの?」


「縁侍さんの身体……すごいわ」


 あっ、雅人君じゃなくて、その隣にいる縁侍さんを見てたんだ。良かったぁ。

 お姉ちゃんにつられて視線を動かすと、縁侍さんの服が汗で濡れて、たくましい筋肉が透けちゃってるのが目に入る。


 お姉ちゃん、ちょっと見過ぎじゃないかな?

 確かに、あれは、すごいけど……。


「…………」


「…………」


 いけない、ついつい目が……。私には雅人君がいるんだから。

 その雅人君は色付きのスポーツウェアで、エッチなことにはなってない。残念とか思ってない。


「お姉ちゃん、ほどほどにね」


「鼻血出たらどうしよう」


 なんだか顔が熱い。

 男の子たちから目を離すと、今度は純恋ちゃんが聖君とおしゃべりしている光景が目に入った。


「はじめて本物の刀ふったらね、とっても重かったの。聖くんはふったことある?」


「ないかなぁ。持ったこともないや。まだ小学一年生なのに、刃物持って危なくない?」


「もう小学生だもん。だいじょーぶ!」


 子供が刃物を持ったらいけないって、お母さんから教わったのかな。

 でも、純恋ちゃんの言う通り、心配しなくて大丈夫だよ。


「聖君、刃引きって分かるかな。えーと……鋭い部分を潰して、切れないようにしてるから、純恋ちゃんが怪我することはないんだよ」


「それを聞いて安心しました。教えてくれてありがとうございます」


 やっぱり、しっかりしてるなぁ。

 やんちゃな2人とは大違い。


 こういう大人っぽいところに、純恋ちゃんは惹かれたのかな?

 やっぱり、年上っていいよね。一つ年上のお兄さんに憧れちゃう気持ち、とってもよく分かる。


「それでね、ママがおめでとうって、みんなでクレープ屋さんしたんだよ。クレープ作ったことある? まずは生地を広げてね――」


 でも、純恋ちゃんに恋バナはまだ早いかも。

 異性として好きというより、なにを話しても笑顔で聞いてくれるお友達と一緒にいるのが楽しいって感じかな。


「うんうん。良かったね」


 聖君もなぜか、孫の話を聞くお爺ちゃんみたいな顔で頷いてるし。

 この子まだ7歳だよね?


 いずれ恋に発展するかは分からないけど、これからたくさん思い出を作って、いざという時にライバルが現れても勝てるようにしなきゃダメだよ。

 私は応援しているからね。


 滝行を終えたところで、御剣様が皆にアドバイスをくださった。

 滅多にもらえないから、真剣に聞かないと。


「千絵……もう少し己に集中しろ。周辺視野が広いのはお主の良いところだし、頑張る理由を見つけるのも結構だが、さすがに他人を気にしすぎだ」


 うぅ……。ば、バレてる。

 私が雅人君を気にしていることが。


「今後も同じだけ努力を重ね、己の鍛錬に専念すれば、外気を掴めるやもしれんぞ。そうすれば、お主が気になって仕方のない男の隣に立てるようになる。人と付き合うならば対等でなければならん。まずは同じ土俵に立てるよう、訓練に専念せよ。よいな」


「は、はぃ」


 恥ずかしすぎて死にそう。

 でも、そっか、御剣様の言う通り。

 待ってるだけじゃだめだよね。

 雅人君に振り向いてもらえるように、私も頑張らないと。


「千絵、なんだか嬉しそうだな。良いアドバイス貰えたのか?」


「え、あ、うん。そうだ……よ?」


 たくさんお喋りするのは、まだ無理かも。



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