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畑中なずな

 私は、友人からよく「ぽやぽやしている」と言われる。「ぽやぽや」が具体的にどういう状態を表しているのかは分からないけれど、話を聞く限り「天然」と言い換えるのが、一番正しそうだ。


 ぼやぼや、天然、ねえ。


 そんな自覚ないんだけどな。


 そうやって反論したら、「自覚が無いから『天然』なんでしょ!」とトドメを刺されてしまった。ううん、難しいなぁ。


 私これでも、いろんな事を考えていて、いろんな人のいろんなところをよくよく観察しているつもりなんだけど。例えば、小西先生の飛び出した鼻毛には誰よりも早く気付くし、笹原くんの社会の窓が開いちゃっている時は一番最初に指摘できるし、ゴミ箱がいっぱいになっていたら真っ先に気づいてゴミ袋を取り替えている。どうだい。ちゃんといろんなところに気が回る「よくできた女」でしょ? えっへん。


 それに、人間関係の不和にだって、敏感だ。


 岡崎くんと、小山さん。仲良しで有名な幼馴染コンビ。先月くらいから二人が疎遠になっていることにだって、相当早く気がついた。それとなく岡崎くんや、彼の親友である晴喜くんに探りをいれることだって出来た。そんな名探偵みたいな人間なのだ、私は。


 そんなこんなで、私は私の洞察力に自信があって、「ぽやぽや」には程遠い人間だと自負していたのだけれど。


 最近になって、自信がなくなる出来事が起きた。いや、起きている。現在進行形だ。


 ……私は、いつの間に、晴喜くんの隣にいることが当たり前になったんだろう。


 油断していた。私はどうやら、自分で気がつくよりも前に、晴喜くんに心を許してしまっていた。峰岸くん、と呼んでいたはずなのに、晴喜くん、と呼ぶようになっているほどには、気を許してしまっていたのだ。


 思う。私、多分、彼と付き合うんだろうな。


 恋をしたのは初めてじゃない。中学生の時に一度、同じ水泳部に所属していた男の子。付き合ってもいた。三ヶ月くらい。キスもした。二回くらい。


 でも、なんだろう。彼の隣にいると、まるで初恋みたいに、心がドギマギするのだ。


 本当に、ぼやぼやしている間に、だ。こんな状態になってしまった。身体の全てで、晴喜くんのことを求めてしまっていた。


 どうして私はこんなに、晴喜くんのことを、好きになってしまったんだろう。


「晴喜くん」


 二人きりの寄り道、からの帰り道。私は、横を歩く晴喜くんの名前を呼んだ。彼が振り向く。


「畑中、なに」


 彼も振り向いた。優しい顔だ。いつも、クラスメイトたちの前で披露している馬鹿げた振る舞いからは考えられないくらい、穏やかな表情だった。


「……晴喜くん」

「何度も呼ぶなよ。なんだよ」


 そう言って、目を逸らす彼が、可愛い。


「晴喜くん」

「うっせ、うっせ! なんだよ、マジで!」

「私たち、付き合えるよね?」

「……え?」


 言った。ぽやぽやしているうちに、心の底から言葉が漏れ出てしまった。


「一ヶ月、一緒にいて、思ったんだよ。私たち、多分、付き合うんだろうな、って」

「……」

「本当にさ、そう、なれるよね? 私たち。現実に、なるよね?」


 辺りはすっかり暗闇だった。夜。


 街灯が私たち二人を切り抜くスポットライトかのように、光っている。


 そして、私は、


「……晴喜くん。私ね」


 ぽやぽやが解ける前に、彼の隣にいることで帯びた熱を冷まさぬうちに、


「晴喜くんのことが、好き」


 言った。

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