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おしまいの聖女  作者: とりさし
逃亡の聖女
9/53

9 過去作品攻略対象疑惑者登場

リオ視点です。

「ここです」


 [オルソン商会]の事務所だ。商会長の本宅ではないが仮眠室があり、昔と変わらないなら大抵はここにいるはずだ。


「こんばんは。シーグさーん、シーグムンドさーんいますかー?」


「……その声はリオンか。随分と久しぶりだな。卒業して以来か。こんな時間に何の用だ?」


 顔色の悪い、赤茶色のぼさぼさ頭の背の高い男が出てきた。シーグムンドさんだ。少し、やつれているがあの頃より精悍さと色気が増していて、それが伝説は健在なのだと物語っている。


「お久しぶりですシーグさん。まだ八時過ぎですよ。て、シーグさん寝起きですか」


 シーグムンド・オルソン。俺の学生時代の三つ上の先輩で……大変世話になった。というかこの人の世話になっていない男は極一部の選ばれしクソ野郎を除いて、いない。

 暮らしぶりは変わっていないようだ。

 この人はとにかくモテた。老若男女問わずモテにモテた。そのおこぼれをいや、手腕を学ぶべくモテない男が集い一大派閥を築き上げた。学食のおばちゃんにもおかずやデザートをサービスされるし、不良たちや教師たちもシーグさんには一目置いていた。動物も寄ってくる。本人曰く、俺は何も知らん。だそうだ。学んだ結論としては、この人からは生き物を惹きつける何か出ている、だった。


 ヨウが「キャラ濃ゆ……絶対コウリャクタイショウだったろ……」とか訳のわからない事を面白いものを見つけたような顔でつぶやいている。今に始まったことじゃないけど時々わからない言葉を言うよなこの人。


「入れ」


 通された小さな部屋の隅には簡素なベッドがあり、乱れたシーツの上に色っぽい半裸の女性が二人、気だるげに寝そべりながらこちらの様子を伺っている。チラチラ見てしまうのだけどその度ウインクを飛ばしてくる。

 ああもう、昔っからこういう人だったよなあ! 羨ましい!


 ソファーに案内された。ローテーブルを挟み、シーグさんは奥側、俺たちは手前に座る。


「何年振りだ?一体どうした」


 眠そうだ。というか嫌そうだ。いきなり押しかけてきたしそうだよな。でも頼れるのはこの人くらいしか思いつかない。

 

 頭を思いっきり下げて「すみません!」とお願いした。


「一晩匿ってもらおうかと」


「何だ? いつの間に嫁と子ができた? おめでとうさん」


「違います! 絶対に違いますから!!」


 何歳の時に作った子になるんだよ! まだしたことないというのに!……自分で言って悲しくなってきた。


「何だ違うのか」


 本気なのか冗談なのかわからない顔で言う。この人変わらないなぁ。


「恩は必ず返しますので、理由を聞かずに一晩泊めてください! お願いします!」

 

「といってもなぁ」


 シーグさんが横目で面倒くさそうにフィーを抱くヨウを見る。

 ヨウも流石に大人しく神妙な顔をしていた。のだけど。眉を顰め、「もういい」とどこか諦めたような顔をしフィーを寄こしてきた。

 嫌な予感がする。


 何か言う気だ。


「ローザさんを、知っています」


「どこでその名前を!! リオン! お前か?!」


 シーグさんが跳ねるように立ち上がりテーブルに乗り上げヨウに掴みかかった。ヨウはシーグさんに向け手をかざしている。二人とも目を片時も逸らすことなくにらみ合っている。


 正直シーグさんが怒るところを初めて見た。怖! 夢に出そう!


「違う。リオは何も知らなかった。……私は今代の聖女です。そしてリオは私の世話役です。城から逃げてきたのでどうか助けてください」



 沈黙が場を支配する。実際には十秒程度だろうが、数時間にも感じられた。。緊張で息もできない。

 ヨウがシーグさんの耳元で()()しゃべった。気がした。幻覚かもしれない。あの空気の中動ける女を人間を知らない。


 シーグさんが目を丸くした。フッと、張りつめていた空気がしぼみ、ドサッとソファーにもたれかかる。良かった。ゆるっとした、いつものシーグさんだ。


 助かった。ようやく息ができる! 忘れていた息の仕方を思い出し必死に呼吸する。


「人にものを頼む態度じゃないだろが。……二階の部屋を使え。シャワーも勝手に使えばいい」


「ありがとうございます!!」


 三人で礼を言い頭を下げた。


「明日早朝、臨時で商隊を出してやる。乗っていけ」


「一生恩にきます!」


 本当にこの人は面倒見がいい。モテるのも納得だ。




 その後、ヨウとフィーを二階に向かわせ、俺はシーグさんと近況を話した。と言っても、学園を卒業後神殿に勤めたという話と今日の話だ。今日の話の配分が大きい。たった一日なのにどう考えてもおかしい。数年分の話が十秒で済んだのにこっちはまだ終わらない。


「するっていうと、昼間の騒ぎはお前たちか!!」


 腹を抱えて笑われた。 もしかしてあの格好見られてた?


「随分と破廉恥なカワイコチャンを見たってあちこちで聞いたけど?」


 ニヤニヤと揶揄う口ぶりで聞かれた。アレ、街の人に見られていたのか! ヨウの奴! 直接見られるよりはましだけど! 恥ずかしすぎる……


 間髪入れずに上から声が降ってきた。


「あ、それリオですよ! リオ、シャワー次。フィーもお願いしていい? 洗ってあげるって言うのに嫌がられちゃってさ」


 ヨウが二階から降りてきたと思えばとんでもない格好でとんでもないことを言った。


 短いズボンと薄い袖なしのシャツに首からタオルを掛けている。

 なんて格好をしている! 濡れた髪で! 下着姿でうろつくな!


「当り前じゃないですか!! フィーは男ですよ?! てか格好!!」


「だって、ショウイチだよ? 七才だよ? 危ないし心配じゃん。洗い残しとかすすぎ残しとかさあ。別に裸でってわけじゃないしタオル巻くって言っているのに」


「裸じゃないって当たり前でしょう! 俺がやりますから!」


 孤児院で子供の世話は馴れている。


 ヨウの背中を押しながら二階に上がった。昼間の苦情を言おうとしていたのに調子が狂う。

 後ろからシーグさんと美女二人の爆笑する声が聞こえた。



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